
人気が高まるカブトムシやクワガタ。
こうした中、新たな職業として注目を集めているものがあるといいます。
それは「インセクトブリーダー」。昆虫を繁殖させて販売する仕事です。
宮城県仙台市の専門学校では、新たな専門課程を設置したと聞き、どんな授業が行われているのか、取材しました。
(政経・国際番組部ディレクター 下方邦夫)
にぎわう昆虫販売フェア 運営するのは…
今年(2023年)7月、仙台市で開催された昆虫の販売フェア。
取材に訪れると、入口には開場前から長い行列ができ、数時間のうちに約1000人の昆虫ファンが詰めかけていました。

“昆虫人気”は、かなり盛り上がっていることがうかがえました。
実は、この販売会、企画したのは専門学校の学生たちです。
学生たちは、カブトムシやクワガタを飼育・繁殖して販売する職業「インセクトブリーダー」を目指していて、販売会の運営を通じて、昆虫の販売方法を学んでいるのだといいます。
日本初「インセクトブリーダー」養成課程
学生たちが学んでいるのは、宮城県仙台市にある「仙台ECO動物海洋専門学校」。

学校は2021年に、日本で初めてとなる「インセクトブリーダー」を養成する専門課程を設置しました。
訪れたとき、学生たちはカブトムシの飼育ケースと向き合い、集中して作業を行っているところでした。
実施していたのは「割り出し」と呼ばれる工程。産卵用のマットから生まれたばかりの幼虫を慎重に取り出す作業です。

ブリーディング(繁殖)の専門技術を持ったベテラン講師が、学生たちに注意点を細かく伝えていました。
この専門課程には25人の学生たちが在籍していて、将来はプロのブリーダーや昆虫ショップの経営者を目指しているということでした。
専門課程設置のきっかけは…
「インセクトブリーダー」の専門課程が設置されたのは、1つの雑誌の記事がきっかけだったといいます。
5年前の2018年、経済誌が「2025年稼げる新職業」という特集を組み、その中にカブトムシのブリーダーが紹介されていたのです。

この専門学校では、これまで動物園や水族館などで働く専門スタッフを養成してきましたが、記事を受けて、初めて昆虫部門の人材育成に乗り出すことを決めました。
カブトムシやクワガタといった昆虫人気が高まる中、高値でも購入するファンが増え、新たな職業として成り立つと考えたといいます。

「雑誌の記事で『カブトムシ・クワガタの繁殖で1000万円以上稼ぐことができる』という内容を見つけ、専門学校として昆虫にもチャレンジしてみようと思いました。コロナ禍の影響で自宅で昆虫を飼う人が増え、ここ数年、業界が盛り上がっていると感じています。以前は、昆虫の繁殖は“趣味の世界”の話だったと思いますが、今は仕事として、ブリーダーを目指す人も増えています。教育機関として、立派な『インセクトブリーダー』を育てていきたいです」
密輸対策の授業!?
この専門学校では、昆虫の売買を行う際のコンプライアンス(法令順守)についても、授業の中で取り上げています。
昆虫の国際取引をめぐっては、近年、密輸の問題が指摘されているためです。実際、南米の空港でカブトムシなどの昆虫を現地の法律に違反して持ち出そうとした日本人が逮捕される事案も相次いでいます。
このため、将来の昆虫業界を担う学生たちに、海外の法律や輸入業者の動向についても教え、違法に輸入された昆虫は取り扱わないよう徹底を図っているのだといいます。

授業の中では、昆虫の輸入手続きに詳しい講師の小林一秀さんが、生徒たちに、注意点について次のように伝えていました。
「海外のカブトムシを売りたいという人から声をかけられたときは、まず、その国の政府が発行する輸出許可証を必ず確認するように」
昆虫業界の健全化を目指して
健全な昆虫の取引を目指して授業を行っているこの専門学校。
一方で、すでに市場に出回っているカブトムシを購入する際、それがどのような経路をたどって販売されているのかを見極めるのは、昆虫に詳しい人でも非常に難しいといいます。
それでも、違法な取引に関与しないため、情報収集を怠らないよう学生たちを指導しているということです。

「入手経路については、入手先を信じるしかないという面もあり、非常に悩ましいところです。とはいえ、できる限り情報を集め、信頼できる取引先とだけ付き合うことが大切だと思います。学生たちには、卒業してからも法令を守り、密輸に加担しないよう伝えています。カブトムシ人気が盛り上がっている今こそ、『ダメなものはダメ』と言って、業界を健全化させるために前に進んでいきたいと思います」
「インセクトブリーダー」が、新たな職業として定着するのか。また、昆虫業界が密輸を根絶して発展していけるのか。引き続き注目していきたいと思います。
