甚大な被害を受けた、トルコ南部ハタイ県の中心都市アンタキヤ。
地震が発生してから5日目、取材に訪れると倒壊した建物のがれきの中で、救出活動が行われていました。

これまで取材してきた救出現場では、生存者の出す声や物音を聞き漏らすことのないよう、たびたび「セスシズ!(静かに)」というかけ声を耳にしてきました。
ただ、この日の現場では「セスワル」という声が救助隊から上がりました。「声がする」という意味です。
この言葉を聞いて、活動を見守る人たちからは一瞬、大きな歓声が上がりますが、すぐに静まりました。救助活動の妨げにならないように、その場にいる誰もが口を閉じたのです。
救助隊員が、電動ドリルでがれきを取り除くのと並行して、点滴や毛布ががれきの中に届けられました。

現場で取材を始めて30分。
がれきの中から、担架に乗せられた男性の姿が現れ、救急車に運び込まれます。
その後、同じ場所からは女性も救出されました。
担架に乗せられた女性は裸足で、足の裏の皮はむけていて、憔悴した様子でしたが、救助隊員の腕をつかむ様子も確認できました。

女性を乗せた救急車が出発すると、現場にいた人たちからは大きな拍手が送られました。
「アッラーフ・アクバル」
神は偉大なり、という言葉もあちらこちらから聞こえました。
最初の大きな地震から100時間以上がたっていました。
その後の取材で救助された2人は、50代の夫婦だということがわかりました。命に別状はないということです。
トルコメディアは、夫は助け出される際に「妻を先に運び出してほしい」と話していたと伝えています。
トルコでは、生存率が著しく下がるとされる災害発生から72時間が過ぎてからの救出が相次いで報告されていて、家族の生還を待ち望む人たちに希望を与えています。
その一方で、厳しい現実も目にしました。
今回取材した現場のすぐ近くでは、道路に座り込む女性の姿がありました。
放心状態で救助活動が行われる現場をぼんやりと見つめる女性。
その右手では、遺体が納められた黒い袋をなでていました。
トルコでは今も、必死の救助活動が続けられています。
