2023年2月9日
トルコ

【トルコ 地震ルポ】「生きていて」救助続く現場の一瞬の静けさ

地震から丸1日がたった7日。

私はトルコ最大都市、イスタンブールから空路で被災地に入りました。向かったのは南部のアダナ。
車で移動中、複数の崩壊した建物が目に入ってきました。10階建て以上の高層住宅が立ち並ぶ地区では、確認できただけでも3棟の高層住宅が完全に倒壊していました。

午後5時。日が沈みかけるなか、救助活動を見つめる大勢の人たちがいました。視線の先にあったのは、倒壊してがれきの山と化した建物。声をかけて話を聞いてみると、ここには13階建ての高層マンションがあったそうです。そこにいたのは、建物に住んでいた親族や友人を心配して駆け付けた人たちでした。

朝晩になると気温が氷点下にもなるこの時期。たき火をしたり、毛布を羽織ったりして、寒さをしのいでいました。

母親と祖父母と一緒にいたエネス・ジョシュクンさん(27)。このマンションに住む17歳のはとこの安否がわからないそうです。早朝から丸一日、この場所で救助活動を見守り続けていたといいます。

身体にこたえる寒さのなか、高齢の祖父母も椅子に腰掛けて、じっと見つめていました。エネスさんは10歳下のはとこの安否が気がかりで、居ても立っても居られない様子で、こう訴えました。

「はとこの携帯電話の電源が切れていて連絡がつかない。奇跡を期待するほかない。彼らはがれきの中で丸1日以上取り残されている。救助する人がもっと必要だ」

がれきを取り除く重機の音が鳴り続ける現場。時おり、一瞬の静けさとともに空気がはりつめる時間があります。

その合図は、捜索チームの「セスシズ!(静かに)」という声です。捜索にあたっている人たちが、生存者が出す物音を聞き取るためです。

激しく動いていた重機のエンジンは止められ、捜索をしている人たちが、がれきの中を慎重に確認していきます。その場にいるすべての人がその瞬間、「誰でもいい、生きていて」と祈り、様子を見守ります。

捜索隊から名前を呼ばれた人たちがいました。アリ・チャイさんとセイハンさん夫妻です。2人は、フェンスで区切られた捜索エリアに入り、警察と話をしていました。

「見つかったのか。それとも…」

戻ってきた2人に話を聞くと、がれきの下に取り残されている17歳の甥について情報を確認されたものの、具体的な進展はなかったと、肩を落としていました。セイハンさんは、甥について声を震わせてこう話しました。

「まじめな青年なんです。大学に進学するため入学試験の準備をしていました」

そして、行き場のない思いは「なぜマンションが倒壊したのか」という問いかけに向かいました。

「トルコは地震が多い国なのに、なぜこんなにもろい建物を建てたのか。過去の地震から何も学んでいない。このことは徹底的に調査されなくてはならない」

同じ区画にあった5つのマンションのうち、倒壊したのは、甥の住む棟だけだったといいます。セイハンさんは、マンションの1階に入る商店やレストランが勝手に柱を取り去ったことで、耐震性が損なわれたのではないか、そう考えています。

実際、倒壊した建物をみると、押しつぶされた1階部分には商店やレストランの看板が見えました。夫のアリさんも「ここはトルコだからね」と漏らし、唇をかみしめていました。

次の日、別の被災した現場に向かっていた私の携帯が鳴りました。あの高層マンションが倒壊した現場で、祖父母たちと一緒に10歳下のはとこを探していたエネスさんでした。

「きのうは話を聞いてくれてありがとう。けさ、はとこが見つかったよ」

その声は暗く、ひどく疲れていました。いまだ被害の全容は見えていません。

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