スノーボード 村瀬心椛 17歳 メダルを決めた“着地”

北京オリンピック、スノーボード女子ビッグエア決勝。
「ビタビタに着って(着地を決めて)やろう」
華麗に着地を決めて銅メダルをつかみとった村瀬心椛選手。
冬のオリンピックでは日本女子の最年少でのメダルに輝き、あのフィギュアスケート、浅田真央さんの19歳での記録を塗り替える快挙だった。
韓国の男性アイドルグループが好きで、15歳の妹とは“変顔”の写真を撮って笑い合う。17歳の高校2年生が、オリンピックの表彰台に立った。
(スポーツニュース部 記者 小林達記)

目次

    「着ってやろう」と決めた

    3回の滑走のうち、高い方から2回の合計得点で争うビッグエア。
    村瀬選手は1回目で80.00とまずまずの得点をマークした。
    メダル獲得へ重要な2回目を迎えた。
    選択した技は、横に3回転する「フロントサイド1080」。村瀬選手にとって最高難度の技ではないが、完成度を高くすれば高得点が狙えると考えた。

    村瀬心椛選手

    「めっちゃ飛んで、グラブ(板をつかむ時間)を長くして、ビタビタに着ってやろう(着地してやろう)という気持ちで挑んだ」

    ジャンプ台から勢いよく飛び出し、左手で板の後ろ側をつかみながらスムーズな3回転。大きな弧を描きながらまっすぐ着地。

    まさに“ビタビタの着地”だった。

    手応えを感じ両手で小さくこぶしを握った。
    得点は91.50。
    決勝で90点を超える高得点をマークしたのはわずか3人。
    この演技で得点を伸ばし銅メダルをつかんだ。

    村瀬心椛選手

    「本当夢みたいで信じられない。メダルを取るのが小さな頃からの夢だった。本当に諦めないで、ずっと練習してきてよかった。ここに来ることができたのもみなさんのおかげで、友達とか家族など、私だけで取れたメダルではない」

    何度も感謝の気持ちを伝えた。

    大けが 家族の支え

    村瀬選手が感謝の言葉を繰り返したのにはわけがあった。
    大けがなどの逆境から救ってもらっていたからだ。

    村瀬選手は2018年に当時、中学2年生で世界中のトッププロが集まる大会「Xゲーム」のビッグエアで優勝するなど勢いに乗っていた。
    しかし、この年の12月、海外での練習中に転倒し右ひざを骨折する大けが。手術を受け、長期間のリハビリを余儀なくされた。

    順調に歩んでいたキャリアがピタリと止まり、半年以上にわたって雪上で滑れない日々が続いた。

    村瀬心椛選手

    「人が練習している中で、自分が滑れないことが本当に悔しかった」

    支えたのが家族の存在だった。

    左:妹の由徠さん 右:村瀬選手

    両親やスノーボードに取り組む妹から「ココ(心椛)なら戻ってこられる。大丈夫」と繰り返し励まされ、厳しいリハビリを乗り越えることができた。

    その後、復帰した村瀬選手は2019年12月にワールドカップにデビュー。
    完全復活を果たし、オリンピックメダリストへ少しずつ階段を上がっていった。

    惨敗から数日での立て直し

    今大会、最初の種目となったスロープスタイル。
    今月6日の決勝は得意のエアで精彩を欠いて10位に終わった。

    村瀬心椛選手

    「めちゃくちゃ悔しい」

    得意のビッグエアはその8日後から予選がスタート。
    気持ちを切り替えなければならない中、村瀬選手の背中を再び家族と友人が押してくれた。

    最も信頼している両親からは「まだビッグエアもあるから大丈夫だよ。心椛ならいける。大丈夫、諦めるな。自分を信じて自分に勝て」という言葉。家族のほかにも多くの励ましが届いた。

    この中に東京オリンピックのスケートボードに出場した西村碧莉選手からのメッセージがあった。

    ひざのけがでリハビリをしていた時期から交流のある3つ上の先輩だ。
    スロープスタイルの結果に落ち込んでいる時、携帯電話が鳴ったという。

    西村碧莉選手

    「悔しい気持ちは自分もわかるから」

    西村選手の寄り添うような言葉に「本当に元気が出た」と前を向くことができた。

    村瀬心椛選手

    「やるべきことをやっていくだけ。上を目指して自分の滑りをしていきたい」

    ビッグエア前日の、その目つきや語り口からは強い意志を感じることができた。スロープスタイルの惨敗から短期間で気持ちを切り替えることができた。

    スタイル貫き 次の目標は金メダル

    「誰もやっていない技をやりたい」

    いつも村瀬選手が話している言葉だ。
    技の名前が同じだとしても板をつかむ場所を変えたり、人より長く持ったりして誰よりも「かっこいい」滑りを目指してきた。

    銅メダルを手にしたみずからの決勝の滑りについてはー

    「自分もかっこいい滑りができたのかな」

    セレモニーでは満面の笑みを浮かべていた。
    でも、本心は満足していなかった。

    「悔しい」

    決勝のために3回転半する技を準備していたにもかかわらず、それを出すことができなかった。
    今後、金メダルを争うためには3回転半の技が確実に必要になる。それを自覚しているからこそ、今後に向けてさらに先を見越していた。

    村瀬心椛選手

    「4年後はもっともっとレベルが上がって、4回転の技が当たり前になる時代だと思っている。今回、メダルを取ったことは本当にうれしくて。でも銅ではいけないと思うので次のオリンピックでは金メダルを取って日本に帰りたい。“かっこいい”滑りを目指してまた頑張っていきたい」
    「銅メダルでは終われない。次は妹と一緒にオリンピックに出て金メダルを取りたい」

    プレッシャーのかかるオリンピックの舞台で“ビタッ”と着地を決めた村瀬選手。ニューヒロインの4年後の姿を想像すると今から楽しみでならない。

    村瀬心椛選手のプロフィールはこちら

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