レース前
森重選手のスタートは15組中14組目。
競技の進行を見ながら中盤にさしかかったところでオーバルの中に入りました。
その直後、7組目に滑った地元の中国の高亭宇選手が“34秒32”のオリンピック新記録をマークしトップに立ちます。
高選手のタイム“34秒32”は大会前、森重選手が優勝タイムと想定していたものと近いものでした。
スタートを苦手としている森重選手の想定では、100メートルを9秒5台で通過できれば、金メダルも狙えると考えていました。
森重航選手は北海道別海町出身の21歳、大学生です。
短距離が専門で、体のバネを生かした軽やかなカーブワークに定評があり、2021-22年シーズンからナショナルチームでの練習に参加したことで体力、技術ともに急成長。
今シーズンから参戦したワールドカップでは、「自分でもびっくりした」という日本選手で2人目となる33秒台のタイムをマークして初優勝を果たしました。
想定はスタートからの100m 9秒5台
注目のスタート。
「いつもどおりに」
自分に言い聞かせていましたが、1回目はフライング。
仕切り直しとなります。
2回目。
「失格がよぎった」
思い切ったスタートを切れませんでした。
それでも100メートルを滑る間に森重選手は気持ちを切り替えていました。
「同じ組の選手に先行され焦る気持ちがあったが、落ち着いていこうと思った」
100メートルを“9秒63”で通過。
想定より0秒1遅く、全体の5番目のタイムでした。
100mからフィニッシュ
ここからは森重選手が得意な区間。
軽やかなカーブワークでスピードに乗りました。
順調に氷を捉えている感覚があったといいます。
「カーブで1歩1歩かみしめていけて、直線で先行している前の選手をしっかり追うことができた」
カーブを抜けたバックストレートの滑りに力強さもありました。
400メートルの通過タイムは“24秒86”。
大きな失速無くフィニッシュまでを駆け抜けました。
ポイントは100m通過後の“ひと蹴り”
銅メダルを獲得した森重選手は500メートルをおよそ90回の蹴りで滑り抜けました。
ポイントとなったのは“32回目”のひと蹴り。
100メートルを通過し、第1カーブの入り口で右足にしっかり体重を乗せたひと蹴りです。
ふだんから森重選手は、このひと蹴りこそが100メートル通過後の400メートルを速く滑るためには最も重要と考えていました。
「右足をしっかり横に振るイメージ。しっかり振って、そこから横に倒していけばカーブをうまく回れてそのあとの直線につながる」
それは、今シーズン初めて参戦したワールドカップで、どのようにすれば速く滑るか考え続けた末につかんだ感覚でした。
遅れたスタートダッシュから気持ちを切り替え、“32回目”のひと蹴りを落ち着いて踏み出せたことがメダルにつながったのです。
「お家芸」3大会ぶりのメダル
かつては「日本のお家芸」とも言われた男子500メートルですが、ここ2大会はメダルに手が届きませんでした。
3大会ぶりのメダル獲得に森重選手はー
「やりきった気持ちが強いし、落ち着いて滑ることができた。1本1本を成長につなげようとやってきてよかった」
【過去のオリンピック 男子500m 日本のメダリスト】
- ▽2010年 バンクーバー大会
長島圭一郎:銀メダル(1回目35秒108、2回目34秒876)
加藤条治:銅メダル (1回目34秒937、2回目35秒076) - ▽2002年 ソルトレークシティー大会
清水宏保:銀メダル(1回目34秒61、2回目34秒65) - ▽1998年 長野大会
清水宏保:金メダル(1回目35秒76、2回目35秒59) - ▽1994年 リレハンメル大会
堀井学:銅メダル(36秒53) - ▽1992年 アルベールビル大会
黒岩敏幸:銀メダル(37秒18)
井上純一:銅メダル(37秒26) - ▽1988年 カルガリー大会
黒岩彰:銅メダル(36秒77) - ▽1984年 サラエボ大会
北沢欣浩:銀メダル(38秒30)
今回、森重選手が銅メダルを獲得したタイム“34秒49”は、この種目の過去の日本のメダリストの中では最速。
“34秒32”のオリンピック新記録で金メダルを獲得した中国の高亭宇選手との差は、0秒17です。
銅メダルを授与されたあと森重選手は早くも先を見据えていました。
「今までとってきたメダルの中でも1番重みがあるメダル。国旗があがった時に、日本代表として『これからもこういう舞台に立てるように』という思いが生まれた」
「4年後、8年後の金メダルを目指して頑張りたい」