「できないことが、できるようになるという喜びを知った」
いつもまっすぐなまなざしでこちらを見つめて話す小須田潤太選手は埼玉県所沢市出身の31歳。小学生からサッカーをやっていましたが真剣に打ち込むほどではなく、高校に入ってすぐ辞めてしまいました。進学した大学も2年で中退。「目標もなく、ただなんとなく生きていた」と言います。
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大きな転機は2012年3月、21歳の時でした。契約社員として働いていた引っ越し会社のトラックを運転中に単独事故を起こしました。幸い命は取り留めましたが、右足の大部分を失いました。
退院後、事務職として会社に戻りリハビリを進めている最中、理学療法士から勧められて義足のランニングクリニックに参加しました。そこで講師を務めていたのが、パラリンピックのメダリストで日本のパラ陸上の第一人者、山本篤選手でした。
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競技用の義足で飛ぶように走る姿を見て「かっこいい」と感じた小須田選手。最初は競技用義足をつけると何もできなかったそうですが、「めちゃくちゃきつかったけど、楽しかった」という3日間のクリニックでパラスポーツの魅力に目覚めました。
レジェンドの背中を追って
その後、小須田選手は本格的に陸上に取り組み始めました。
競技に専念できるよう転職し、さらに山本選手と一緒に練習するため埼玉から大阪に引っ越しました。
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そして2021年夏、ついに初めてのパラリンピックとなる東京パラリンピックに出場を果たします。
小須田選手は、100メートルと走り幅跳びに出場。走り幅跳びでは自己ベストを更新して7位に入りました。
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小須田潤太選手
「足を失ってできないことがすごく増えたんですけど、歩くことも挑戦、走ることも挑戦で、その成功体験を積み重ねていって、できないことができるようになるという喜びを知ることができた。とりあえずやってみる、行動を起こしてみるというのが変わったところです」
“大きい存在 だからこそ勝ちたい”
東京の次は、2022年3月に開幕する北京パラリンピック。
半年の間に2回のパラリンピック出場を目指すことになったのも、山本選手がきっかけでした。
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2017年2月、山本選手がスノーボードに挑戦するというニュースを見た小須田選手は「マジかよ」と驚きながらも「自分もやる」と決意しました。
スノーボードは事故に遭う前に家族で年に1回やっていた程度でしたが、友達と一緒にやってみると意外と滑れたと言います。
競技用の義足を購入し、2018年2月には早くも国内大会に出場。
「結果はボロボロ」でしたが強化メンバーに選ばれ、ピョンチャンパラリンピックに出場した山本選手の後を追って“二刀流”の道を歩むことになりました。
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小須田潤太選手
「陸上もスノーボードも篤さんの姿を見て始めているので、ほんとに篤さんの存在は大きいですし、篤さんに勝ちたいというところが競技に入っていったきっかけでもあるので。なんとか両方突き進めていきたいですね」
レジェンドへの恩返し “北京への誓い”
スノーボードの競技歴が浅い上、この夏までは陸上をメインに練習してきた小須田選手。経験不足を補うため東京大会が終わるとすぐに海外や国内で滑り込みを重ねました。
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課題の1つがコースに設定されるジャンプ台への入り方です。うまく飛ぶには台にまっすぐ入ることが必要ですが、義足でボードに細かい力を伝えるのは難しいためなかなかバランスが取れず、まっすぐには進めないのです。
義足の右足だけでなく、左足や上半身の力の入れ方も微妙に変えながら何度もジャンプ台を飛び、動画を見たり北京大会の代表に内定しているチームメートにアドバイスを求めたりして、こつをつかもうとしていました。
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小須田選手にとって8歳年上の山本選手は、憧れであり、コーチであり、恩人であり、勝ちたい目標でもあります。山本選手と出会ってから、物事に挑戦する楽しさ、達成することの喜びを知り、みずから行動を起こすようになりました。
20歳を過ぎるまで「ただなんとなく生きていた」と言う青年は今、半年に2回のパラリンピック出場という難題に挑み、山本選手が果たせなかった冬のパラリンピックでのメダル獲得を目指しています。
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小須田潤太選手
「北京まで(残された時間は)少ないけど、とにかく目の前のことに全力で取り組んでいくだけなのかなと。自分の最高のパフォーマンスをして表彰台に乗れることがいちばん。そして篤さんは夏にメダルを3つ取っているので、篤さんにもいい報告をしたいと思います」
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