己に克つ

會澤翼

野球

プロ野球、広島の正捕手、會澤翼。2019シーズンは自己最多の126試合に出場して、3年連続のベストナインに選ばれた。さらに国際大会の「プレミア12」では、各球団のエース級のピッチャーたちを巧みなリードで引っ張り、日本の初優勝に貢献。今や球界を代表するキャッチャーの1人だ。 当然、2020年”の目標は東京オリンピックだった。

「こんな巡り合わせはなかなかない。正直出たいですし、鼻息荒く狙いたい」

プロ14年目を迎えた2020年。會澤はキャンプで自らを鍛え直した。早出練習では若手に混じってノックを受け、全体練習後には黙々とバットを振った。 リーグ優勝の奪還、そして東京オリンピックでの金メダルへ向け、精力的に調整を続けてきた。 しかし、新型コロナウイルスの影響で、シーズン開幕は延期に。東京オリンピックも1年の延期が決まった。

「なんとも言いづらいが、選手のことを考え、最善の策でやってくれていると思う。それ以上はない」

苦しい場面、つらい場面に直面したとき、會澤には支えにしていることばがある。

「克己」

燃えさかる炎の前で一心に経を唱える「護摩行」。會澤が精神を鍛えるために毎年修行を行っている鹿児島市の寺の住職から言われ続けていることばだという。

新型コロナウイルスの影響で思うように野球ができない中、「克己」ということばを胸に黙々とトレーニングに打ち込んだ。

「『己に克つ』。自分の弱い部分、甘えてしまうもう1人の自分に『克つ』。こういう時だからこそ、できることをしっかりやろうと。絶えずこのことばを胸に頑張っています」

異例のシーズン、そして延期となった東京オリンピック。困難を乗り越えた先にはきっと歓喜が待っている。

「『やまない雨はない』じゃないですけど、苦しい思いをしている先に必ずいいことがあると思う」

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