理屈じゃなくて変えたことでよくなると信じて

菅野智之

野球

2回の沢村賞など数々のタイトルを獲得してきた菅野智之。
巨人の絶対的なエースは30歳で迎えた2020年シーズン、投球フォームの改造に着手した。
両腕を大きく後ろに引いてから足を動かし始める。一連の流れは独特で斬新だった。

菅野が長い野球人生の中で作り上げてきたこれまでの投球フォーム。いつでも立ち返ることができる「再現性」が抜群の安定感を支えてきた。
ところが2019年は腰痛の影響などで防御率が自己ワーストの3.89。
それでも勝ち星はリーグ3位に並ぶ11勝をあげたのだから、ローテーションピッチャーなら合格点だろう。けがさえ治れば、投球フォームを変えるリスクを冒す必要はないのではないか。
この問いに菅野は首を横に振った。

「変化できなくなったらスポーツ選手として終わり。
変えるチャンスというのはなかなかない。
これから年をとっていけば、どんどん守りに入って新しいことに挑戦というのは難しくなる」

ことしでプロ8年目。勝利を義務づけられた伝統球団で、菅野は数々の修羅場をくぐり抜けてきた。
不本意な結果に終わったシーズンの悔しさも必ず糧にしてみせる。
強い決意がみずからの背中を押したのだ。

「理屈じゃなくて変えたことでよくなると信じて、ことしはやってみよう。そういう心境」

新型コロナウイルスの影響でプロ野球のシーズン開幕は再三の延期を余儀なくされた。
自主練習で黙々と汗を流す日々。モチベーションを維持することは困難な状況が続く。

「いろいろなことに取り組める時間をもらえたと思っている。
一段階も二段階もパワーアップしたい」

4月下旬。菅野のボールを受けたブルペンキャッチャーが思わずうなった。
「ものすごい球だった。きょうが試合だったら完全試合をしていたと思う」
新しいフォームは 進歩を遂げている。
「いつ開幕と言われてもいいように考えながらブルペンに入っている」と仕上がりに自信をのぞかせる菅野。
真剣勝負の場でどんなピッチングを見せるのかその時を楽しみに待ちたい。

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