限界はある。でも到達するとその先が見えてくる

平野歩夢

スノーボード

北京オリンピック男子ハーフパイプで金メダルを獲得した平野歩夢。決勝で、オリンピック史上初めて「トリプルコーク1440(=軸を斜めに縦3回転、横4回転)」を成功させた。
“人類史上最高難度”とも言われた演技構成で、ハーフパイプ界の新たな時代を切り開いた。

「『何かとかけ離れたもの』が好きで、それがオリジナルな道につながると思っている。基本的に人が考えないこととか、やらないようなことにこだわりたい気持ちが強い」

偉業を成し遂げた男が歩んできた道のりは、まさにオリジナルの連続だった。
2014年、冬のオリンピックで日本史上最年少となる15歳でのメダル獲得。
前回、ピョンチャン大会では初めて「ダブルコーク1440(=軸を斜めに縦2回転、横4回転)」の連続技に成功。
夏の東京オリンピックでスケートボードとの二刀流に挑戦。
北京大会では前人未到「トリプルコーク1440」の成功と数々の功績を残してきた。
だが、その裏には人知れずみずからと闘う姿があった。

「何かに挑むのってすごい勇気がいるし、正解がないこともある。不安は常に頭の中にあった」

特に北京大会への挑戦は、自身でも「今まででいちばん苦しかった」と振り返る険しさだった。

夏の東京大会まではスケートボードに専念。しかし、オリンピックのあと冬の北京まで残された時間はわずか半年しかなかった。
日本代表スタッフが「さすがに間に合わないかもしれない」と思うほどだった。

それでも、こうした逆境すら力に変えるのが平野だった。
これまでも前代未聞の挑戦や難しい技に立ち向かってきたからこそ、難局の乗り越え方を知っていた。

「いろいろなチャレンジをしてきたなかで、現実的に“限界”はあると思っている。でもその“限界”を常に見続けることによって、その先が見えてくることがある。厳しい挑戦というのは、最初は“重り”になることもあるが、その重さを感じなくなるところまでいくと、自分の成長とともに“ワクワク感”みたいなものが生まれることがある。本気でやっているとそういこともある」

平野は不安や焦りと闘いながらも自ら「異常」と表現した猛練習でトリプルコークを習得し、最高峰の舞台で完璧に決めた。
周囲から厳しいと言われていた半年間の挑戦を走り抜き“限界”の先に到達した。

「(オリンピックに向けて)みんなは4年前からスタート。僕は半年前からようやくスタート。なかなか思いどおりにいかないような日々が続いていたが、そういう日々を乗り越えていくうちに精神的にもメンタル的にも強化されたのかな。この経験のおかげでより成長できたと感じている」

ひとつのチャレンジを終えて充実感をにじませた。ただ、これがゴールではないとはっきり言った。平野はみずからの哲学が詰まった言葉でこれからを語った。

「ここから自分の新たな道がゼロからスタートする。これからも自分らしく、ほかの人がチャレンジしていないことをチャレンジし続けていきたい。その根本は変えたくない」

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