もっと自分のために走っていいんじゃないか

服部勇馬

陸上

「オリンピックは夢の舞台でありましたけど、本当に自分自身に足りていなかったもの、課題というものがはっきりとわかった」

東京オリンピック男子マラソンの代表、服部勇馬。
はじめて臨んだオリンピック、本番が近づくにつれ重圧を感じていた。

「本当に夢の舞台でしたが、近づくにつれて逆に『なんでここをめざしてきたんだろう』と不思議な感じになったり、なんか怖くなったり不安というものがより強くなっていった感じはありました。すごいポジティブなオリンピックだったのが、だんだんネガティブになっていったのは正直あります」

8月8日、気温25度を越える中でのスタート、前半の20キロまでは先頭集団に食らいついた。しかし、20キロをすぎて一気にペースダウン。
先頭から離され順位を落としながらも、必死にフィニッシュをめざした。

「果てしなく長かったですね。ふだんのレースペースより1分くらい遅いペースで走っていたので、マラソンってこんなに長いんだなって思って走っていた」

出場106人中30人が棄権するという過酷なレース。
服部も途中何度も立ち止まって足を押さた。それでも前に進むことをやめなかった。
2時間30分8秒、73位。
フィニッシュラインを越えるとそのまま倒れ込んだ。

「オリンピックだから絶対ゴールしなければならないというのはもちろんありました。自分が今まで取り組んできた過程が、ゴールできなかったことで無駄になってしまうんじゃないかと。苦しくみっともない走りをしていても、そこから逃げる自分が許せないというか、どんな結果であっても自分自身がやりきって、受け入れないことには次に進めないし成功も絶対にありえないと思っていたので。最後の直線は、走りきってきてよかったなと思いました」

東京オリンピックから3か月半が過ぎた2021年11月下旬、服部は実業団の記録会でレースに復帰した。

「ふだんのレース以上に特にメンタルの部分ではなかなか戻ってくるまで時間がかかったかなという風には思います。本当に苦しい時間ではありましたけど、その経験は誰しもができるものではないですし、正直いままでしてきた経験では感じることができないものだと思います。未来の自分自身にとってはプラスになっていくはずだと信じて、これからは走っていきたいと思っています。絶対にむだにしたくないです」

3年後を見据えて再び走り出した服部。重圧を受け止めて走った経験を通じて、マラソンと向き合う心構えにも少し変化が生じたという。

「オリンピックを終えて、もっと自分のために走っていいんじゃないか、そういう思いに少しなっているところもあって、もっと自分のために走っていけばおのずとそれが結果として誰かのためになったりとか、もっともっと自分主体で走っていけたらいいなって思います。一番の目標はオリンピックの舞台で借りを返す、結果を出す。夢舞台で結果を残せるように、精いっぱい努力していきたいと思います」

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