アスリート×ことば

★名言★

軽々しく口には出せないしこ名だ

琴ノ若 大相撲

新入幕を果たした2020年3月の春場所前。穏やかに話していた22歳が、ある「しこ名」について聞かれた直後、ことばに力を込めた。

「大関に上がるまで、軽々しく口には出せないしこ名だ。
偉大なしこ名だから、今、自分が語れるようなものではない」

琴ノ若が特別な思いを寄せるしこ名、それが「琴櫻」だ。
出足と当たりの強さから「猛牛」の異名を取り、5回の優勝を果たした元横綱は、琴ノ若にとっては母方の祖父。先代の佐渡ヶ嶽親方でもある。

小さな頃の琴ノ若は、おじいちゃん子で稽古場では隣が指定席。夕方には一緒に銭湯へ行くのが日課だった。

「先代は稽古場では常に厳しい表情だった。
でも稽古場を出ると優しく自分は特に甘やかされた」

琴ノ若は小学生の時に、何気なく先代の祖父に「いつになったら琴櫻をもらえるの?」と聞いたという。
返ってきた答えは-

「横綱のしこ名だから、最低でも大関だ」

先代の祖父と長い時間を一緒に過ごす中で、自然と“琴櫻”を目指すようになった。

「何も意識せずに聞いたんでしょうけど、無邪気って怖い。
でも先代は高い目標を与えてくれたのかな。
上を目指すうえで、いい刺激のあることばをもらったと思う」

相撲に厳しく、あこがれた祖父の存在が今では相撲人生での目標となり、身長1m90㎝近くある恵まれた体格を生かした四つ相撲で番付を駆け上がっている。
2019年の名古屋場所で、新十両に昇進した琴ノ若は、師匠である父から今のしこ名を譲り受けた。

新入幕で迎えた2020年の春場所は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で無観客での開催。初めて幕内に挑んで9勝6敗と勝ち越したが、場所を終えて感じたのは手応えではなく、横綱という目標への道のりの長さと険しさ、そして、祖父の偉大さだった。

「自分は幕尻だったが10勝に届かなかった。
上位とあたってもコンスタントにふたけた勝たないと大関には昇進できない。
入門して、大関、横綱という地位への遠さは感じていたが、今場所で改めて遠い存在だと認識した。ここで浮かれることなく、気を引き締めて上を目指していきたい」

4月に入って角界でも新型コロナウイルスの感染者が相次ぎ、日本相撲協会は、緊急事態宣言の延長を受けて5月に初日を迎える夏場所の中止を決定した。

「やはり相撲を取りたい気持ちはあるがしかたがない。
これも経験だと思ってできることをやって、しっかり次に向けて準備する」

決意を新たにした琴ノ若。きょうも「琴櫻」を名乗るその日を思い描きながら稽古に励んでいる。