かっこいいママの姿を見せたい

宮下瞳

競馬

紫とピンクの勝負服がトレードマークの宮下瞳。日本でただ1人のお母さんジョッキーだ。

2021年11月18日、宮下は女性騎手として前人未到の通算1000勝という大記録をうち立てた。

「ママやったよって言いたいですね。子どもは私のパワーの源、原動力になっているので」

名古屋競馬に所属する宮下は、2005年、28歳のときに当時の女性騎手最多勝記録の351勝に到達。その後、出産を機に引退し、2人の息子と充実した日々を過ごしていた。
そんな宮下の人生を変えたのは長男の“何気ない”ひと言だった。

「ママの馬に乗っている姿見てみたい」(長男 優心くん)

ここから宮下のジョッキーとしての時計の針が再び動きだす。
競馬の騎手にとって5年のブランクは、想像できないほど長い時間だった。それでも息子の思いに応えるために、育児にかける時間以外のすべてを競馬にささげた。

午前1時から馬の調教にあたり、家事は一切手を抜かないのが宮下の流儀。彼女はなぜここまでして厳しい道を進み続けるのか。取材中、何度も同じことばを口にしていた。

「かっこいいママの姿をみせたい」

彼女の原動力である息子たちに、みずからの姿を通して「やり通すこと」の大切さを伝えたいというのだ。

人生をかけて示すその思いは子どもたちにしっかりと伝わっていた。
息子たちが母の日にプレゼントしてくれたというスノードームだ。

中には、宮下騎手の勝負服の紫とピンクの花が飾られていた。
頑張るお母さんを、息子2人はいつも見守り応援しているのだ。

通算1000勝を達成したあとのセレモニー。
そこには優心くんと健心くんという2人の息子の姿があった。
宮下騎手は、ここで新たな夢を語った。

「息子がジョッキーになりたいと言いはじめた。次の夢は息子と一緒に走ることかな」

その手には、息子たちからプレゼントされた紫とピンクの花のブーケが、しっかりと握られていた。

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