勝ってマウンドに集まる、その瞬間のために全力で戦う

栗林良吏

野球

野球日本代表は、東京オリンピックで正式競技では初の金メダルを獲得。プロ1年目の栗林良吏は、この大会で抑えを任され、アメリカとの決勝も9回を無失点に抑え歓喜の輪の中心にいた。

「はじめはこれだけいいピッチャーがたくさんいる中で、僕なんかでいいのかという気持ちだったが、ああいう経験ができたのは本当によかった」

もともと目立つことはあまり得意でないという栗林。大学時代には「できれば、あまり目立たないところで投げたい」と冗談交じりに話していた。その男が代表チームの直前合宿で建山義紀投手コーチから「9回を投げてもらう」と告げられた。
シーズン開幕からプロ野球 広島では抑えを任され、抜群の投球内容を見せていた。それでも日本代表の抑えという大役は、かつて経験したことがないプレッシャーだった。
オリンピック初登板となったドミニカ共和国戦では失点した。

「無観客という不思議な感じと初戦のプレッシャーがあり、準備ができていなかった」

それでも栗林はここから立て直した。

「たくさんすごい人がいて自分1人ではない。打たれても誰かが助けてくれる」

準々決勝のアメリカ戦は同点となった直後、延長10回からマウンドへ。オリンピックは延長に入るとノーアウト一塁二塁から始まるタイブレーク制で1.2点はしかたがない場面だ。しかし栗林は違った。

「追いついてもらって延長だったので絶対に点を与えないという気持ちだった。本当に開き直って一人一人集中して打ち取っていく」

バッター3人で打ち取り無失点。そのウラのチームのサヨナラ勝ちにつなげた。
決勝でも2点リードで登板しランナー1人を出したが得点は与えなかった。終わってみれば今大会5試合すべてに登板して2勝3セーブ。2戦目以降は無失点と、国際大会でも安定したピッチングを見せて日本に悲願の金メダルをもたらした。
なぜ、プレッシャーがかかる登板で結果を残すことができるのか。本人に聞くと自分が役割を果たしたあとの姿をイメージすることが力になっていると答えが返ってきた。

「9回を自分が抑えてチームが勝ち、マウンドにみんなが集まる瞬間がとてもうれしい。その瞬間が自分にとって不安に打ち勝つ支えになっていて、その時を迎えるために全力で戦っている」

自国開催のオリンピックでさらに経験値を高めた栗林。今後、どのようなを活躍するのか楽しみでならない。

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