5大会目の今が全盛期

鈴木孝幸

パラ競泳

無観客のプールに雄たけびが響いた。
東京パラリンピックで日本選手として最初の金メダルを獲得したのが34歳の鈴木孝幸。5大会目のパラリンピックを迎え、日本競泳陣のキャプテンを務めるベテランがふだんのクールな様子から想像できないほど、全身で喜びをあらわした。

レースのあと取材エリアにやってきた鈴木はすでにいつもの調子に戻っていた。雄たけびと派手なガッツポーズの理由を尋ねると「そんなことしてましたか?記憶にないです」と冗談めかして笑った。

鈴木は前回のリオデジャネイロ大会でメダルなしに終わり、引退を考えたこともあった。

「自分の中でメダルが取れなくなったら潮時だと思っていたので、何らかの成果が出なければ、東京パラリンピックの前に引退しようかなという考えがあった」

しかし、拠点としているイギリスで金メダリストを育てたコーチやトレーナーと話し合い、東京大会での復活を目指し模索を続けた。

障害の重さからこれまで手を付けてこなかった体幹トレーニングを重視し、下半身が沈まないフラットな泳ぎを身につけた。息継ぎやターンの方法も一から見直した。3年前に、国際ルールの変更で障害がより重いクラスに変更になったことも追い風になった。

「世界一になれることはどの分野でもなかなかない。そのチャンスがあるので、金メダルを目標に、メダルを取れるだけ取りたいと思うし、よりいい色を狙いたい」

臨んだ5大会目のパラリンピック。鈴木は出場した5種目すべてでメダルを手にするという偉業を達成。金メダルは2008年の北京大会以来、13年ぶりだった。

「結果だけを見れば、5大会目がいちばんいい結果を残せたので、今が全盛期ということではないでしょうか」

「最後の舞台」と考えていた東京パラリンピックで「全盛期」の活躍を見せた鈴木に今後のことを尋ねた。

「全く考えていないけど、もう少しやれそうなことがあれば続けてチャレンジしてみたいと思うかもしれない」

いつものクールな口調の中に、決意が浮かんでいるように感じた。進化を止めないベテランは3年後のパリでも「全盛期」を見せてくれるに違いない。

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