金メダルを取れた瞬間にさらなる高みを目指したいと思った

須崎優衣

レスリング

東京オリンピック、22歳で身長1m53cmの小さなレスラーに世界が驚かされた。レスリング女子50キロ級、須崎優衣は4試合すべてで1ポイントも失うことなくテクニカルフォール勝ちという「完全優勝」を果たした。

3年前、19歳のときには世界選手権を連覇していたが、そのときよりもはるかに強くなっていた。以前はスピードに乗ったタックルが攻めの中心だったが、そこにパワーや組み手の技術、洗練された寝技、豪快な投げ技も加わり、隙らしい隙は一切ない。かつてとは、別次元の強さを身につけた須崎にその理由を聞いた。

「東京オリンピックで金メダルを取るために照準を合わせて人生をかけてやってきたので」

小学生でレスリングを始めてから15年。輝かしい成績を残しながら、決して自分の力に満足することはなかった。練習は、ほかの選手より少しでも多くこなそうと努力してきた。コーチのアドバイスは一つ一つメモに残し、時間ができれば海外の選手の試合を見て技術を吸収した。肉体を鍛えるためにスポーツクライミングやスピードスケートの練習にも取り組んだ。

周囲には「もっと強くなりたい」と口癖のように繰り返し話すという須崎。常に成長し続けるからこそ、世界がどれだけ研究しようとも勝ち続けることができるのだ。中学の時から指導する吉村祥子コーチは「目標に向かう力」がずばぬけていると話す。

「金メダルを取るんだという強い思いがあって、そのために何をする必要があるのか考える力があり、そこに対して努力を惜しまない。心の強さがすばらしい」

ただ一抹の不安があった。人生をかけて「東京オリンピックの金メダル」だけを目指してきたからこそ、目標を成し遂げたあとに燃え尽きてしまわないのだろうか。金メダルを獲得した翌日の記者会見、次の目標について聞かれた須崎は「東京にすべてをかけてやってきたので、1回休憩して…」という言葉に続けて話した。

「でも金メダルを取れた瞬間に、もっともっと強くなってさらなる高みを目指したいと思ったので、次の目標を目指して頑張っていきたいな」

須崎は満足していない。夢をかなえた瞬間さえも、貪欲なまでの向上心は変わらなかった。表彰式ではオリンピック4連覇の「絶対女王」伊調馨から「次も、その次も頑張ってね」と声をかけられたという。

「次も、その次のオリンピックも」

高みを目指し続けるかぎり彼女の可能性は無限に広がる。

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