“努力は報われる”それを証明するために僕は体操を続ける

内村航平

体操

「思いだしたくないけれど、自分の中で答え探しをしている。どうすればよかったのか、頭の中でぐるぐると」

東京オリンピックの後、インタビューに応じた内村航平はおよそ1か月前の出来事を振り返った。

7月24日、体操男子の予選。内村は種目別、鉄棒の演技に臨んだ。
3大会連続の金メダルが期待され、予選は難なく突破すると誰もが思っていた。いつもどおり鉄棒のバーを握り、冒頭のH難度「ブレットシュナイダー」を鮮やかに決め、続くG難度、E難度の手放し技もクリアした。
しかし、次の瞬間。

ふだん、失敗をしたことのない技で、バーから滑り落ちた。

「何が起きたのかわからなかった。気づいたらバーが手になかった」

オリンピック開幕からまだ2日目だった。
喜びも悔しさもあまり引きずる男ではない。だが今回は違った。

「さすがにかなり落ち込んだ。一生、後悔するんだろうな、なんでできなかったんだろう」

演技から1か月たっても悔しさを隠せなかった。
ここまで、血のにじむような努力をしてきた。来る日も来る日も何回も反復練習をして、1つの技を研ぎ澄ましてきた。今まで、練習の成果を発揮できなかったことは、なかった。それが結果に結びつかなかったことは、理解しがたい現実だった。

「きちんと努力してきたのにできなかったことは初めてだった。予選で落ちてしまったことは練習が足りなかったと言われても仕方がない。ただ、人一倍、きちんとやってきた自負はある。では努力とは何なのだろう」

頭の中で、答えのない問いかけをしていくなかで、自分が体操に向き合うための理由が浮かんだ。

「“努力は報われる”それを証明するために僕は体操を続ける」
「ムダな努力は、きっとない。努力が報われないことが僕は受け入れられない」

日本代表として出場する世界選手権は10月。
同じ種目別の鉄棒で、もう一度、自分の体操を見せる。

「予選、決勝で演技をきっちりやる。オリンピックで証明できなかったことを糧に、しっかりやっていく」

大きな悔いが残る失敗とどう向き合えばいいのか。
その失敗をどう生かせばいいのか。
内村は考え続けながら、次の舞台に臨もうとしている。

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