いまは“白”でいいんじゃないかな

鍵山優真

フィギュアスケート

2021年3月に行われたフィギュアスケートの世界選手権。男子シングルで、期待の若手、17歳の鍵山優真が初出場で銀メダルを獲得した。

「やっと目標のオリンピックへの階段を一歩、進めたんじゃないかなと思う。ここがスタート地点だと思います」

2022年の北京オリンピックを目指してジュニアからシニアへ上がった2020-21シーズン。鍵山はオリンピックでの金メダルを本気で目指すと決意するなかで、さまざまな困難に直面した。

元オリンピック選手である父・正和さんとの練習は、日によっては朝昼晩の3部練習。

「言い訳をしていたら間に合わない」

2020-21シーズン、振り付けは浅田真央さんらを指導した世界的な振り付け師のローリー・ニコルさんに依頼。表現力でもこれまでにない高いレベルを求められた。

「表情の細かいパーツまで、まゆげを上げろとか、目を開けとか、そういうことも言われた。そんなに細かくやるんだと思いました」

手先の動き、顔の表情まで徹底して表現することを体にしみこませた。

「最初はこのプログラムを滑りこなせるのだろうか、という心配がすごくあった。ただ、試合をこなすごとに自分の体に染みついて、自分のものになってきた。すごく自分が成長した部分ではないかなと思います」

意識面でも大きな変化があった。
2020年の全日本選手権後、世界選手権の代表メンバーが集った記者会見。司会者から大会のライバルを問われた際、鍵山は先輩たちを前に自分の気持ちをはっきりと言えず、羽生結弦から素直な思いを口にするよう言われた。
後日、鍵山は、その時の心境を明かしてくれた。

「勝ちたいと言いたいけれど、怖くて。改めてあのメンバーの中で、本当に勝ちたいと言えるのだろうかというのがあって」
「会見の終了後、羽生選手が背中をポンポンと押してくれて、そのあとに優真の強みは負けん気の強さだったり、その勢いだと思うから、それは全然、出していいと思うと言われた。もっと自信を持っていいんだなということをすごく思いました」

世界で戦う覚悟を、みずからに問い直した。
度重なる困難、そして壁に突き当たるたびに一つ一つの課題と向き合い、克服することで、飛躍的な成長を遂げたのだ。
世界選手権から帰国した直後、インタビューで「スケーターとして自分の色は見つかったか」と質問を投げかけてみた。

「いまは“白”でいいんじゃないかな。いまは白のまま、いろんなシーズンを通して自分に合う色だったり合わない色だったり、いろいろ発見できればいいかなって思います」

ジャンプやスピン、ステップ、そして表現力。鍵山はそのすべてを極めるオールラウンダーを目指している。いまはその素直さを生かして、さまざまなことに興味を持って挑戦して吸収し、成長し続けるのだろう。
2022年の北京オリンピック、そしてその先へ、どのような歩みを進めていくのか注目していきたい。

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