期待や思いを全部背負ってレースに臨む

桐生祥秀

陸上

2020年の陸上日本選手権。男子100m決勝を制したのは桐生祥秀だった。大学1年生で迎えた2014年以来、実に6年ぶりに日本の頂点に立った。
この6年で成長した点を聞くと冷静に語りだした。

「大学の部活動ではなく今は、プロの陸上選手として戦っている。応援してくれる人たちのために自分は結果で恩返しするしかない。その気持ちが大きな違いだと思う」

大学を卒業した2018年から生命保険会社と所属契約を結び実質、プロ選手として走り続ける桐生。結果ひとつでスポンサーがつくこともあれば離れていくこともある環境だ。
責任感は年々増し「競技に対して甘えがなくなった」と語る。

新型コロナウイルスの影響で、オリンピックの延期だけでなく主要大会が軒並み中止となった今シーズンも、自分に言い訳はしなかった。
練習が満足にできない自粛期間中、自宅に器具を運び込んで急造のトレーニングルームにした。

「やれることをやるしかない」

下半身を徹底的に鍛えた結果、勝負を分ける後半20mを自信を持って走り切れるようになった。それが日本選手権での勝因にもつながった。
さらに桐生はメンタル面でもあえて自分を追い込む。

「プレッシャーは自分で自分にかけるようにしている。いろんな人の期待や思いを全部背負って緊張してレースに臨むんです」

みずから作り出した極限の緊張感。それを乗り越えるのは人の思いに応えたいというプロとして自覚だ。桐生は、こうして1試合1試合強い自分を作り上げ、2020年最大のレースとなった日本選手権を勝ちきった。
2021年の東京オリンピック。桐生が見据えるのは、日本選手にとって89年ぶりとなる男子100m決勝のスタートライン、ただひとつだ。

「世界で戦うためにはもっとトップスピードを磨いていかないといけない。速さと強さを兼ね備えた選手になるために冬のトレーニングを頑張っていきたい。そして桐生祥秀の価値をさらに高めていきたい」

陸上