“ビリオンダラー災害” アメリカ・保険業界に異常事態

ビリオンダラー災害」とは何か知っていますか?被害総額が10億ドル(日本円で約1480億円)を超える大規模な災害のことで、アメリカで急増しています。保険金の支払いが急増し、保険会社の破綻が相次ぐ異常事態に。突然、住宅保険の打ち切りを知らされるケースもあるといいます。

ハリケーンや洪水 被害額10億ドル超の災害が急増

ハリケーン「イアン」で暴風が吹くフロリダ(2022年9月)

アメリカ・フロリダ州などを襲い、死者が150人以上にのぼったハリケーン「イアン」。被災した人は被害の大きさに、がく然としたと言います。

被災者の一人は「ずっと住んでいた家は消え失せ、どこに流されたかも分からないほどだった」と話しました。

このハリケーンのように被害額が10億ドルを超えるビリオンダラー災害は、1980~1989年の10年間で全米の発生件数は33件でした(アメリカ海洋大気局調べ)。

それがその後年々増加し、2020~2023年11月時点の3年余りで、すでに85件に上っています。

なぜ?突然に住宅保険打ち切り

こうした中、思わぬ事態が起きています。フロリダ州に住むロバート・ノーバーグさんは2022年5月、自身が入っている住宅保険の打ち切りを保険会社から突然に通告されました。

保険打ち切りの通知を手にするロバート・ノーバーグさん

打ち切りの要因は、保険金の支払いが急増して保険会社が廃業に追い込まれたことでした。ノーバーグさん自身も保険の仲介業を営んでいて、これまでに経験したことのない状況だと言います。

保険仲介業者 ロバート・ノーバーグさん
「保険会社の破綻が相次ぎ、新規契約はかなり難しくなっている。多くの保険会社は暴風リスクを理由に、海沿いの住宅や企業の契約は引き受けない」

アメリカの保険情報協会によると、2022年以降のフロリダ州の保険会社の損失額は9億ドル(約1330億円余り)に達し、破綻や撤退した会社は10社に上ります。

フロリダ州から撤退した保険会社

相次ぐ訴訟も保険会社の負担に

これに加えて負担になっているのが、膨大な訴訟です。保険金の支払いが不十分だなどとして起こされる訴訟の数は年間10万件以上に上っています。悪徳業者による不正な請求も少なくないといいます。

保険情報協会 マーク・フリードランダーさん
「フロリダの保険会社は資本力の乏しい小さな会社が多く、訴訟が経営を圧迫している」

混乱は続く

こうした問題を受けてフロリダ州議会は、訴訟の乱発を防ぐ対策のほか、保険会社が加入する再保険制度への資金拠出などを盛り込んだ法律を相次いで可決しました。

保険情報協会の担当者は一定の効果は出ているとしながらも、混乱は続くと指摘します。

保険情報協会 フリードランダーさん
「フロリダの保険市場は長年混乱していた。安定するまでにあと数年はかかる。今も市場は非常に不安定だ」

日本の保険業界の現状は?

日本でも台風などの災害が増えています。損害保険会社でつくる団体は火災保険の保険料の目安について、全国平均で過去最大となる13%の引き上げを決めています

ただ、アメリカのように保険会社の撤退や破綻という状況にはなっていないということです。
(ワシントン支局 小田島拓也)
【2023年11月30日放送】
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