タイで広がる遠隔医療 医療格差解消の切り札に

    リモートで患者を診察するなどの遠隔医療が、新型コロナの感染拡大でこれまで以上に進みました。東南アジアのタイでは、コロナ禍のあとも救急などの分野でこの技術を本格的に活用する動きが広がっています。

    渋滞激しいバンコクを走る「スマート救急車」

    タイの首都バンコクの病院で新たに導入された「スマート救急車」は、医師と遠隔でやり取りすることができます

    車内にはカメラが設置され、搬送する患者の映像を5Gの高速通信でリアルタイムに病院の専門医などと共有します。

    救急車内のカメラで患者の映像を医師と共有する

    患者の到着前でも、搬送先の病院から救急隊に遠隔で必要な処置を指示できるといいます。

    訓練の様子

    この救急車への期待が高まる背景にあるのが、バンコクの渋滞です。移動に時間がかかるため、車内でいち早く処置できることで患者の救命に役立つといいます。

    マヒドン大学医学部シリラート病院 アピチャット・アサワモンコルクル学部長
    「私たちがこのネットワークを広げてスマート救急車が地域全体をカバーできるようになれば、多くの人の命をより安全に救えるようになるに違いない」

    地方の妊婦をリモート健診 日本のスタートアップが機器開発

    こうした遠隔医療は、医療体制がぜい弱な地方部にも広がろうとしています。タイ北部の山間部のチェンライにある診療所では、医師は常駐せず、看護師が2人いるだけです。

    タイでは地方に医師が少なく、妊婦健診などを受けられないケースもあります。妊産婦の死亡率は日本の7倍、新生児では日本の6倍と高くなっています(ユニセフ調べ)。

    山間部の診療所の看護師
    「(医療設備が不十分なので)妊娠期間と妊婦の体重や身長、胎児の心拍の確認をするだけだった」

    そこでこの診療所は2022年、リモートで妊婦の健診を行うための医療機器を導入しました。日本のスタートアップ企業がこの機器を開発しました。

    この機器は、妊婦のおなかにあてると、張り具合や胎児の心拍の詳細なデータなどをとることができます。

    医療機器をおなかにあてて…
    胎児の心拍などの詳細なデータをとる

    データは通信アプリを通じ、約40キロ離れた拠点病院に送られます。病院の医師から診療所の看護師に対し、健診の結果や出産までの過ごし方のアドバイスが電話で伝えられます。定期的な健診を行うことで、早産などのリスクにもいち早く対応できるといいます。

    健診を受けている妊婦
    「ここから専門病院はあまりにも遠く費用もかかるので、不安があった。この機器を使うことで子どもの心臓の鼓動を聞くことができ、安全に順調に育っていることも分かり、うれしい」

    この医療機器を開発した日本のスタートアップは、タイの現地で研修会を開くなどしてさらに普及させたいとしています。

    研修会の様子

    医療機器を開発した日本のスタートアップ企業 神原達也マネージャー
    「こういう機械があるから、『診療所に赤ちゃんの心拍を聞きに行こう』という妊婦さんがどんどん増えて、妊婦健診の回数もこれ(機器)があることで増やしていけたら」

    新興国や途上国では、遠隔医療が医療格差の解消に向けた切り札の一つになると期待されています。タイ政府は、データのやり取りに不可欠な高速通信網の整備などを加速させていて、そうしたことも遠隔医療の広がりを後押ししているということです。
    (アジア総局 加藤ニール)
    【2023年11月16日放送】
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