リーダーが学ぶ社会課題 “水俣の教訓” 

企業にとってリーダーの育成は大きなテーマです。東京都内の大手物流会社は、リーダー研修のテーマとして、高度経済成長期に発生した公害「水俣病」を選びました。なぜ企業は過ちに向き合えなかったのか。課題に直面した時、リーダーは何を心に留めて意思決定するべきなのか。研修に参加した、次世代を担う社員たちが学んだこととは?

20~30代社員9人 水俣病に向き合う

水俣病は67年前に公式に確認されました。原因企業の「チッソ」がメチル水銀を海に流したことで発生し、多くの人々の命や健康が犠牲になりました。今も苦しんでいる人がいます。

東京都内の大手物流会社がこの夏行ったリーダー研修には、社内で選抜された20代~30代の9人が参加。企業の役割や社会的責任を考えようと、水俣病に向き合いました。

参加者から指摘された問題点の一つが、利益を追求する企業が、被害にあった人々の声を拾い上げなかったことです。男性社員の一人は次のような意見を出しました。

参加した男性社員
「何かを成し遂げるために動くのって、企業とか組織のほうではないか。でもそれを推し進めてしまったがために犠牲になってしまった」

現地で知る公害の背景

なぜ企業は過ちに向き合えなかったのか。研修に参加したリーダーたちは、熊本県水俣市の現地を訪れました。課題に対して、生身の実感を持つことこそが大切だという考えからです。

メチル水銀が流された排水口がある場所を訪ねた
「排水された水銀は海のほうにここから流れていった」と説明を受ける

原因企業によって地元に収入や雇用が生まれていた、水俣の複雑な背景も学びました。

特に参加者の印象に残ったのが、地元の藤本壽子さんの話でした。藤本さんは家族がチッソに勤めていて生活を支えられる中、少数の人々の声に耳を傾け、水俣病患者の支援に奔走してきました。

水俣病患者を支援する藤本壽子さん

藤本壽子さん
「チッソにある意味お世話になっているところもあるけれども、そこでズブズブになっちゃいけない。それ以上の被害を自分たちは受けて親も子も狂い死にしたというのを抱えているからこそ、(患者は)闘わざるをえなかった」

研修参加者の「気付き」とは

東京の会社に戻ってきた研修の参加者たちからは、課題に直面した時の意思決定には、さまざまな立場の人がいることを忘れるべきではないという意見が多く出されました。

参加した男性社員の一人
「水俣病に対する見方が単純すぎたなっていう反省があって、今回(水俣に)行ったことで、その複雑さに非常に驚いた」

参加した別の男性社員
「企業で働いていると、目の前の起きたことに対して『何かすぐ策を打って』と考えるけれど、(課題の)裏にあるものをちゃんと見据えたうえで、リーダーとしてはそういうところを意識しながら周りを巻き込んで導いていくのが必要」

そして、企業の利益追求にはプラスとマイナスの両面があることをよく知って慎重に考えていきたいという声が上がっていました。
(熊本局 佐藤茉那アナウンサー)
【2023年11月1日放送】
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