細菌から作る 環境にやさしい"糸"

地球温暖化対策につながるかもしれない新しい「糸」を作ろうー。「細菌」から私たちの服などに使う糸を作り出す新たな研究に期待が集まっています。

軽くて丈夫、滑らかな「細菌の糸」

細菌を育てるボトルを見つめる沼田圭司教授

京都大学大学院の研究室。ボトルで育てられているのは、海洋性の「紅色(こうしょく)光合成細菌」です。海に生息し、日光と、海水に溶けた二酸化炭素で光合成して増殖する細菌です。

沼田圭司教授はこの細菌の遺伝子に手を加え、糸のもとになるたんぱく質を生み出すよう操作し、これを材料に繊維を作り上げました

この繊維は軽くて丈夫、そして絹のように滑らかです。化学繊維と比べ、石油を使わずに作れるのも魅力だといいます。

京都大学大学院 工学研究科 沼田圭司教授
「天然のクモの糸と非常によく似た性質を示して、柔らかく伸びやすいけれども、ある程度の強さも出るという糸になっている」

商品化を模索 西陣織で試作も

商品化に向けた模索も始まっています。取材した日に沼田さんが訪れたのは、京都の伝統工芸「西陣織」の工房です。新たに作った糸を織り込んで、生地の試作品を作ってもらいました。

沼田教授(左)と西陣織メーカーの福岡裕典さん
半透明の糸が、細菌から作られた糸

生地の試作品を作った西陣織メーカー 福岡裕典さん
「(糸を手に)こうやって引っ張っていくと意外と強い。この単糸で引っ張って切れないのは、おもしろい特性が出るんじゃないかと思っていて、いろんな繊維と組み合わせることによって可能性はものすごく増えていくので、これが非常に楽しみだなと思っている」

今後、織物に使うには糸の大量生産が不可欠だといいます。福岡さんは糸の束を手に「(細菌から作られた糸も)せめてこれくらいの量があると染められる」と話し、沼田さんは「はい、ぜひ試してみたい」と応じていました。

「プラスチックの代わりに使えればおもしろい」

沼田さんは今後、この細菌からさまざまな繊維を開発し、広く社会に届けたいと考えています。

沼田教授
「繊維というとアパレルをイメージするケースが多いと思うが、それに限らずに、今われわれの生活を支えている石油由来のプラスチックの代わりに使っていけるような材料になると、非常におもしろいなと思っている」

沼田さんは繊維の量産に向けて大学発のベンチャー企業を立ち上げ、細菌を効率よく増殖させる研究にも取り組んでいます。もし成功すれば、将来的に化学繊維に代わる新たな選択肢になっていくかもしれません。国の機関や京都府などから二酸化炭素の削減につながることが期待できるとして支援も受けているということで、今後が期待されます。
(科学・文化部 絹川千晴)

【2023年8月25日放送】

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