「怪談」から「レシピ本」まで題材・著者をスピーディーに!

日本国内の出版物の推定販売額は2022年に1兆6305億円となりました。ここ数年は電子出版の増加でやや持ち直しているものの、ピークだった1996年の2兆6564億円に比べ22年は4割減少しています。

以前のように本が売れない中でもヒット作を出そうと、兵庫県明石市の出版社が重視しているのが「スピード感」です。

怪談本の舞台を訪ねると…

2023年7月出版された「怪談売買所」という本は、実在する店を舞台に書かれています。店は兵庫県尼崎市の商店街の一角にあり、月に2日間だけ営業しています。

店の入り口には不気味な貼り紙。中に入ると…
女性客が怖い体験を話していた

客の話を聞いているのは怪談作家です。「怖い」と思えば、1話100円で買い取ります。反対に、客が怪談作家の怖い話を100円で聞くこともできます。怪談の本は、この店と、ここで集められた話がもとになっているのです。

ライン上の「おもしろい」をすぐ本に

本を手がけたのは兵庫県明石市にある従業員7人の出版社「ライツ社」で、7年前に設立されました。社長で編集長の大塚啓志郎さんは、30歳の時にそれまで勤めていた京都の出版社を辞めて、この出版社を立ち上げました。

社長で編集長の大塚啓志郎さん

大事にしているのは本の題材や著者を決めるスピード感です。社員が集まっての編集会議は開かず、やり取りはスマホ上で進めます

怪談を集めた本も、社員からスマホにアイデアが書き込まれた時点で、すぐに取材に行くよう、編集長からその場で指示が出されました。

社長・編集長 大塚啓志郎さん
「ふだん、ラインで、思いついたとかおもしろいと思ったことを投げて、それにみんなが反応していく感じでやっている。おもしろかったら盛り上がるし、ここ(ライン)で盛り上がらなかったらそもそも無理だなと判断する」

人気ユーチューバーにオファーしたヒット作も

独立した初年度は2千万円の赤字だったそうですが、売れ筋の本をまねるのではなく、自分たちがおもしろいと思うものをスピード感を大事にして出版することで、ヒット作が生まれるようになったといいます。

例えば、26万部を売り上げたというレシピ本は、料理動画で人気が出たユーチューバーに他社に先駆けてオファーしました。

社長・編集長 大塚さん
「小さい出版社ができることはスピードしか武器がなくて、いいと思った瞬間、どれだけ早く、著者に『あなたに会いたい』と伝えるかだと思っている。読んだ人が『この本すごくおもしろかった』『感動した』『あしたから人生変わりそう』みたいになるのをいちばん大事にしている」

地方発のヒットが増える背景は

この明石市の出版社のほかにも、ここ数年、地方発のヒット作が増えています。その理由について出版評論家の永江朗さんは次のように話しています。

出版評論家 永江朗さん
「本を制作するやり取りが紙からインターネットに変わり、地方にいることのハンディキャップが少なくなった」

こうしたこともスピード感につながっているのかもしれません。
(神戸局 坂本聡)
【2023年7月5日放送】
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