バケツメーカー “100年企業”の戦略

日本では、100年にわたり経営を続けてきた老舗企業が2022年に初めて4万社を超えました(民間調査会社調べ)。日本は世界で有数の「老舗大国」です。

そうした老舗の一つ、兵庫県姫路市の金属加工メーカーは「バケツ一筋」で23年5月に創業100年を迎えました。危機を乗り越え、事業を継続する、その戦略とは?

専用バケツ続々 「米びつ」に「蚊取り線香用」も

売り上げを支える「米びつ用バケツ」

創業100年を迎えたバケツメーカー「渡辺金属工業」の売り上げを支えている製品の一つが、「お米を入れるバケツ」です。価格は4730円~1万8700円しますが、累計で50万個を販売しました。

ほかにも、野菜を保存するためのバケツや足湯用のバケツ、蚊取り線香専用のバケツなど、用途を絞り込んだバケツを販売することで、この10年で売り上げを約4倍の2億5000万円に伸ばしました。

バケツメーカー 渡辺政雄社長
「他社が目をつけていなかったところが、ズバッとはまった」

このメーカーは大正12年創業。職人たちが培ってきた技術で製造されたトタンバケツが、全国の家庭や企業の日常を支えてきました。

しかし1970年代にプラスチック製品に押されるようになると、売り上げが激減しました。同業者の多くがプラスチック製の大量生産へと転換する中、規模を縮小しながら生産を続けてきました。

4代目の社長になった政雄さんは、営業を繰り返す中で、あることに気づいたといいます。

渡辺政雄社長

渡辺政雄社長
「キャッチコピーが浮かばなかった。(使い方を)イメージできる商品開発、そういうターゲットに絞るのはいいんじゃないかと」

100年の技術でターゲットを絞ったものづくりを

新しいバケツを開発するうえで頼りになったのが、100年続くトタンの加工技術でした。今では国内でも数少ないメーカーが持つ技術で、接合部分を、素材を重ね合わせて圧力だけで接着します。さびにくく、耐久性も高いため、食品の保存など新たな用途を広げることにつながったといいます。こうして新たな顧客を開拓し続けています。

渡辺政雄社長
「ターゲットに絞った商品開発というポリシーというか、そういうことだけは忘れずにやっていきたい。待っていただいても、ほかに行かずに待っていただけるような商品作り。それが100年続いた理由」

誰に向けて作った商品なのかを明確にすることで、買う側も目的の品を見つけやすく、買う決め手になりやすいようです。このメーカーは、ほかのバケツメーカーがプラスチック製品の製造に乗り出した時も、自社の強みは何かを考え続けてきたそうです。

流行は追わずとも、時代に合わせて作るものを変えていく。こうした姿勢が、多くの老舗企業に共通する特徴だと言えそうです。
【2023年7月3日放送】
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