商工中金“民営化”へ 関根正裕社長に聞く

商工中金は、全国すべての都道府県に支店をもつ中小企業向けの政府系金融機関で、貸出残高は9兆円あまりにのぼります。6月14日に成立した法律で、政府が持つ株式を2年以内にすべて売却し、民営化することが決まりましたが、その民営化に向けて組織改革を進めてきたのが5年前に就任した関根正裕社長です。地域の中小企業を支えるために、組織をどう変え、何を目指しているのか、聞きました。

中小企業の課題解決へ「伴走支援」

 

神子田章博キャスタ
―通常国会で改正「商工中金法」が成立したということで、どう感じていますか?

関根正裕社長
法案の審議の前に「在り方検討会」というのがあって、真に中小企業のお客様の役に立つ金融機関のあるべき姿、これを追求しようということでずっと議論がされてきたので、その議論を踏まえて法改正だったので、おおむねいい形になったかなあというふうに思っています。

私が就任してから4年間しっかり取り組んできて、おおむねベースはできたかなあということで評価委員会からも評価されたんですけれども、これまではその経営改善計画をしっかり達成するということでしたけれども、これからはまさに民営化ということで、新たな世界になっていくわけで、私としては、まさに新生商工中金に向けてのスタートラインに立ったという思いでいます。

今回、法改正で業務制限がかなり緩和されて、民間金融機関並みの業務が実行できるということになりますので、そうすると従来以上に業務の幅が広がるので、さまざまな形でお客様の課題解決につながることができるようになります。そのためのしっかりとした準備が必要ですし、その機能を最大限に発揮できるように準備していかなきゃいけないということですので、まさに新たな領域に入っていくということですから、むしろ5年前、社長に就任した時よりも緊張感がありますね。

関根正裕社長

―ほかの金融機関と同じ程度の業務範囲の拡大ということですが、社長は以前、金融機関で働いていました。いまの商工中金、具体的にどんなことを変えていこうと思っていますか。

従来の銀行は資金繰り支援がメインでずっとやってきましたけれども、やっぱりいま中小企業の抱える課題というのは、非常に複雑化、多様化、高度化してきている。そういった課題解決にあたっては、金融面だけでは十分なサポートができないということですから、我々は「伴走支援」と言って、しっかりとお客様に寄り添って課題を解決していく。金融面だけではなく、いろいろなソリューションを提供していく。そしてお客様の企業価値向上に貢献していく。そういう考えでいますので、今回の業務範囲の拡大は非常に大きいし重要だなと思っています。

―ロシアのウクライナ侵攻以降、いろいろな資材が高騰したり、円安による輸入物価の上昇などもあったりして、中小企業の経営が厳しくなっていることや、ゼロゼロ融資が終わって以降、資金繰りが心配な経営者の方もいると思います。そうした状況の中で、商工中金が果たすべき役割についてどういうふうに考えていますか。

いま言われたような課題はどちらかというと目先の課題であって、しっかりと解決していかなきゃいけないところだと思いますから、コロナ後の資金繰り支援など、それから在庫が増えたり、いろんなコストが上がったりすると、それに対する運転資金の需要も増えていきますから、きちんと金融面でサポートしていくことが大事だと思います。

もう少し中長期的な目線で考えると、非常に大きいのはカーボンニュートラルというようなことで、例えばEV(電気自動車)化の問題とか、CO2(二酸化炭素)の削減、可視化、そういったことをしながら。(それが)できないといろんなサプライチェーンから外されてしまうというようなこともありますし。

あとはデジタル化ですよね。中小企業にとって、例えばインボイス制度だったり、電子帳簿だったり、それから手形の電子化だったり、こういったテーマがありますから。それからまだまだね、受発注業務が電話だったりファックスだったりというようなところも多いですし。このデジタル化についてはなかなか人材も足りず、どうしていいか分からない、といったニーズがあります。

あとはやっぱり人材不足、人手不足、これは非常に構造的な問題として大きいですし、少子高齢化、人口減少に伴ってということもあると思いますけども、そうなった時に、マーケットが小さくなっていくということで言えば、海外進出、グローバル化ですね、こういった課題があると思います。

こういった課題については、単に資金繰り支援だけでは解決できないテーマだと思っていますので、一つ一つ丁寧に寄り添って、課題解決に取り組んでいくことが大事だと思っていますので。今回の業務制限の緩和というのは非常に重要だと思っています。

―国はDX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)を掲げています。DXはデジタル化ということでイメージが湧きますが、GXとなると、省エネ一つとってもどうやったら省エネになるか具体的に取材しようと思っているのですが、中小企業では経営者によって(具体策が)分からないという人もいますか?

そうですね。(中小企業経営者の)皆さんは結構、問題意識はあるんですけれども、じゃあ具体的にどうすればいいのというところがなかなか手がつけられないということだと思います。

まずはCO2の可視化ですよね。自分の会社がどれくらいCO2を排出しているのか、自分の会社だけじゃなくて、自分の仕入れ先だったり販売先だったりも含めてということになってくると、かなり難しいテーマになってきますけど、いま、サプライチェーン全体でそういったことが求められていますから、まずは自分のところを可視化するかということ。

そして、それをどう削減していくかということになると、設備の効率化に向けた新たな投資ですとか、流通経路の工夫ですとか、いろいろな取り組みが必要になってきます。そういったことに対してさまざまなアドバイスであったり、設備更新ということであれば、その設備投資の資金を融資するということもあります。

それからいま「ポジティブインパクトファイナンス」と言って、「その資金がどれだけ社会に貢献できるか」という社会課題の解決のための融資というのも出てきていますから、さまざまなソリューションがあると思っています。状況は企業によって皆さん違いますから、きめ細かく、一つ一つ対応できるようにしていかないといけないと思うので、それはしっかりやっていきたいと思っています。

―中長期的な課題解決に向けて知恵を出していく一方、新型コロナの時がいい例でしたが、リーマン級の経済ショックが起きた時の危機に対するサポートみたいなこともこれからしていくと。

そうですね、中小企業の金融の円滑化、これはもう商工中金設立以来の使命で、「商工中金法」にも書かれていますし、我々の定款にもしっかりと明記してあります。今回の法改正においても危機対応業務を責務とするということが法律に書かれ、我々はそれを受けて定款にも危機対応業務をしっかりやりますと書き込んだくらいですから。よく言われていますが、“雨の日の傘”を提供する。これが我々の本来的な使命ですので、ここはもう従来と変わらずしっかりやっていくということですね。

ノルマ無くして「解体的出直し」

商工中金では2016年、融資などに関連して申請書類の改ざんといった5500件余りの不正が発覚しました。この不正をきっかけに発足した、商工中金のあり方を検討する国の有識者検討会は、解体的な出直しが必要だとした上で、完全民営化が可能かを判断するべきだと提言をまとめ、その後、旧「第一勧業銀行」出身で「西武鉄道」の経営立て直しなどの手腕が買われた関根氏が社長に就任した経緯があります。

―少し遡って聞きたいのですが、そもそも民間企業から商工中金の社長を引き受けた時は、どんな気持ちで引き受けたのですか。

最初に話があった時は「え、私ですか?」と、率直に言うと本当に驚いたというか、「なんでだろう」くらいな感じでした。不正事案があって、これを改革していかなきゃいけないという中で、不正事案についての報告書を読んで、「ああなるほどなあ」と。「これであれば自分のいままでの経験が生かせるし、お役に立てるかもしれないな」と。これが一番大きかったですよね。

ちょうど60歳で還暦ということもあって、その年の正月くらいに、今年から少し社会貢献的なことをやりたいなあとも実は思っていて、それもありました。
それから西武グループにいたんですけれども、西武グループの改革もコロナ前でしたからすごくいい形で出来上がってましたから、自分としても、西武にいたときのミッションが完了してるなあという思いもありましたし。そういったものが全部合わさって、お引き受けしようかなというふうに思いました。

―不正があっていろいろ変えていかないといけない。「解体的出直し」を宣言しましたが、これはどうしなければいけないということなんですか。

報告書を読んで、職員一人一人はみんな真面目に一生懸命やっている、ということなんですけど、マネージメントだったり、企業風土、組織風土、そういったところに課題があったというふうに思いましたので、これをしっかり直していけば、そもそも商工中金は、中小企業のお客様に対して昭和恐慌以来ずっと貢献してきた企業ですから。本来的な姿に戻れれば、これはもうしっかりと再生できるなというふうに思いましたので。企業風土、文化の改革、ここにしっかり取り組もうと思って始めました。

―社員の方にインタビューさせていただいた時に「当時は表に出しては言えなかったけれど、この会社は時間が止まっているような気がした」といった声がありましたが、そんな雰囲気があったんですか。

極めて日本的というか、同質性が非常に高くて、上意下達の指揮系統で、風通しもそんなにいいとは言えなかったと思いますね。ですから、これをしっかりと直す、まずは風通しのいい組織にして、職員が明るく伸び伸びと前向きに働ける環境をつくっていくことが大事だなと思いました。

―それを動かしていくのに、どういうメッセージを発しましたか。

まずは、とにかく風通しをよくしようということで、職員と管理職の対話、職員同士の対話、これをいかにつくっていくかに注力したということですね。

それから上意下達的で、本部から各営業店に目標が割り振られて、それをノルマ的に達成するというようなマネージメントのスタイルが残っていたので、まずは営業店でしっかりと自分たちのお客様をしっかり見て、自分たちで計画を作ろうと。

当然のことなんですけれども、商工中金は、日本全国、北海道から沖縄まで支店が各都道府県にあって、当然地場産業も違いますし、地域特性がそれぞれ全国違う中で、同じ目標を割り振るというのはもうありえないということですから、それぞれの地域に合った目標設定をする。

ただ、それも管理職だけでつくるんじゃなくて、職員全員が参加して、地元の採用の職員もたくさんいますから、特に女性は地元採用が多いですから、そういった人たちの声も聞きながら、目標をつくれと言いました。これは「目標をつくるのが本部の仕事だろう」「それを支店に押し付けるのか」みたいな声もありましたけれども、いえいえそうじゃなくて、お客様とそれぞれがきちんと向き合って課題解決に取り組むということで言えば、自分たちでつくるのがいちばんいいということで、やりました。

あと、やっぱりノルマ化されていましたので、もう無くして、とにかくお客様のお役に立つ、収益はその結果として上がるということで、数値目標も撤廃しましたね。コミュニケーションをよくして、お客様のためにどうすればいいかをそれぞれの職場で話し合わせるというようなことを、いろんな機会を通じて対話を促すということをやってきました。

あとは私自身のいろんな思いをブログという形で発信して。これも、週一、必ず1200字くらい、結構長いんですけど、思いをしっかりと伝えてきて。数値的、業績的な話はほとんどなくて、どうお客さんと向き合うかとか、どう日々自分を高めていくかとか成長していくかとか、どうやって社会に貢献してくかとか、そういうことをいろんな切り口を使って伝えていった感じです。あとはやっぱりダイバーシティー。なかなか女性が活躍できていなかったこともあって、まずは女性の活躍推進ということで、4年前に「ダイバーシティ推進室」、いまは「ダイバーシティ&インクルージョン」ですけれども、それをつくって、女性の活躍推進をやってきました。同質性が高くて、なかなかキャリア採用、外部からの人材採用もされていなかったので、ここもずいぶんやってきて。その同質性を薄めて、ダイバーシティーを進めてきたというのもありますね。

―ノルマを課すのをやめるとか、各支店がその地域に合った目標をつくるというのは、話としては分かりますが、本部からすれば、数字も示さないで現場がちゃんといい数字を出してくれるのか、現場を信じる勇気みたいなものが必要だったんじゃないかなと。

それはありましたけれども、でもやっぱりそこまでやらないと、組織風土、文化を変えることはできないと思っていました。もちろん不安とかはありましたよ、それでマネージメントがうまくいくかなという思いもありましたけど、まずはそれをやると。

あと、営業店長会議とかそういったところでもとにかくマネージメントの話しかしないというか、私は、営業、数字の話は一切しませんから。支店長とか部長とか、どうあるべきか、部下に生き生きと働いてもらうためにはどうしたらいいかとか、コンプライアンスの定着のためにどうしたらいいかとか、そういう話しかしませんでした。

ただやっぱり会社なので、みんな分かっているわけですよ、ちゃんと業績を上げなきゃいけないな、というのはね。それからそもそもお客様の役に立ちたいという思いがありますから。そこにちゃんと取り組めば、お客様からも評価され、信頼され、結果はついてくるということで、実際ついてきましたから、そこはよかったなあと思っています。


「上意下達」から「ボトムアップ」へ 効果は?

―ボトムアップに変えていくことで手応えを感じたのはいつごろからですか。

これは徐々になんですけれど、外部の人事コンサルの会社の調査があって、リーダーシップスタイルの調査があるんですけど、最初の年にそれをやったら、ほとんどの支店長が指示命令型なんですよ。これが毎年毎年変わっていって、民主型だったりヴィジョン型だったり、率先垂範型だったり、育成型だったり、いろんなタイプがあるんですけども、そのタイプがどんどん上がってきて、いまはもう指示命令型はすごく減って、むしろいろんなタイプが同じようにあって。一人でいくつものスタイルを使えるリーダーが出てきたりということで、すごく変わりました。

それから、お客様アンケート調査も外部の調査機関を使ってやっているんですけれど、これも毎年上がってきて、信頼度があったり満足度があったり、それから推奨度、他のお客様に商工中金推薦できますかという推奨度。これも毎年右肩上がりで上がってきましたし。コンプライアンス意識調査も毎年右肩上がり。

あといちばん大きかったのは、離職者、中途で退職する人が、右肩下がりで減っていったというのがありまして。

いま申し上げたこの4つの指標がどんどん改善していったということですね。こういうものは、ある日突然変わるものでもないので、時間をかけながらですが、徐々にしっかりと変わっていったということだと思います。

―ダイバーシティーのお話がありましたが、女性にも活躍してもらいたいということで、事務から営業などに転換されています。どういうねらいですか。

従来、女性の大半は日々の事務を担うということでしたけれども、もっと活躍の場があって、地域地域で採用していますから、彼女たちは地元に対する愛もあるし、地元のこともよく知っているし、いろんな形で地域貢献ができると思っていますから、仕事の幅を広げてもらう。

それから、事務自体がシステム化、デジタル化で減っていくということがありますから、その減った分のエネルギーをどこに向けるかということで言えば、やっぱり中小企業のお客様に直接向けていくということだと思いますので。営業を目指す職員も出てきたり、実際に転換している人もいます。それからいま、いろんな研修をやっているんですけれども、これも自分がどうなりたいかを考えてということでやってますから、手挙げ方式なんですけれど、女性が手を挙げる方向がすごく幅広くなってきているし、いいことだなあと思っています。

―お客様と向かい合うという話ですが、「おはBiz」でも最近、30代以下しかいない信用金庫の支店を取り上げたことがありまして。店は12時で閉めるのですが、そのあともみんな、顧客に会いに行っていました。その地域ならではの課題を探るのが大事ということなんでしょうか。

そうですね、「伴走支援」と言っていますが、その基本はお客様と直接会って、いろいろな話を聞く中でまず信頼関係をつくり、そこからニーズや課題を聞いて、それに対する適切なソリューションを提供するのが基本だと思いますから。そこで「リレーションシップバンキング」と言っていますけれども、接点をしっかりと持って、対話をベースに課題解決に取り組んでいくのが基本だと思っています。

―私は社長の方をインタビューさせていただいて、トップに求められる「3つのion」があると考えています。「VISION(長期展望)」「DECISION(意思決定)」「COMMUNICATION(社員に伝わる)」。いまのお話だと、中長期にどういう商工中金になるべきか、そのためにボトムアップに変えるといったDECISIONがあるようです。COMMUNICATIONについては、ブログなどを書くと言っていましたが、反響はありますか。

いつでもメールくださいと言って書いているので、結構、直接来ます。全部、直接返事をしています。誰からどんなメールが来たかは絶対ほかの人には言いません。心理的安全性も大事なので。

いろんな、いい話もありますし、問題だという話もいろいろ来るし。どこかで何か問題が起きているなら、それはほかでも起きている可能性もあるなということで、それをどうやって解決するかというようなことで考えてますから、その支店がどうこうとか、そんなことにはしないので。トータルでどう経営に生かしていけるか、どういい職場環境をつくっていけるか、そういう形で使っています。あとは、やっぱり社員がどう思っているか、大事じゃないですか。それを知る手段でもあります。

―下からのコミニュケーションが社長自身に気づきを与えることはありますか。

それはしょっちゅうありますよ。分からないことが結構ありますからね。これだけ全国の組織ですし、正社員だけでも3500人くらいいますから、なかなか目が届かないことがあります。幹部職員からもいろいろな報告がありますけれども、じゃあそれで全てがわかるかと言ったら、決してそんなことはないので、直接、情報手段としてのいろいろなチャネルを持っておくことが大事だと思っています。

民営化後のビジネスモデルは

―民営化となると収益を上げることが問われます。

これは大事だと思います。ただ、収益をノルマ化して、数字を達成するということは、もう絶対やらないと言ってます。ただやっぱり会社ですから、収益が上がらなければ、人材の投資、人的資本投資とか言っていますが、それもできないし、システム投資もできないし。

それから我々の場合は、再生支援だったりスタートアップ支援だったり、結構リスクの高いサポートもやっていますから、当然償却とか引き当てとかの負担も出てきますから、そういった支援をするためにはベースの収益がないとできないので、そこは大事に思っていますけれども。ただ、あくまでもお客様の役にしっかり立つという中で、適正な収益をいただく。株式上場するわけではないので、今回の民営化は。株主は中小企業組合とその傘下の中小企業と中小企業団体で、限られてるんですよね。まさに中小企業による中小企業のための金融機関ということで。ですから最終利益も皆さんに還元すればいいだけなので、もう本当にぐるっと回る、いただいた収益でしっかり皆さんのためになる投資をし、そこから上がったものについては、全部皆さんにお返しする、それがまさに中小企業の皆さんにお返しするということですので、ものすごく分かりやすいビジネスモデルなんじゃないかなと思っています。

―金融機関の方は誰でも悩むと思いますが、ある程度のリスクを取って融資しないと、育つものも育たない。ある企業がどれだけ伸びていくか目利きすることが非常に大事になると思いますが、御社はどうですか。

おっしゃるとおりで、やっぱり調査に相当時間をかけます。そういう点ではどれだけ情報網があるかとか、その業種についてどれだけしっかり把握しているかとか、将来性があるかとか、マーケットで独自のものがあるかとか、いろいろな観点があるんですけれども、そういった観点をしっかりと調べて融資する。

単に財務諸表と損益計算書だけで判断するということではなくて、そういった事業をしっかりと見て。あとは経営者の姿勢とか熱意とか、管理体制とかコンプライアンスとか、そういったものもしっかりとできているかとか、もちろん全部調べます。

―基礎も大事だということですね。

そういうことですね。

「日本を変化に強くする」

―最後にちょっと抽象的な質問ですけれども、民営化することでほかの金融機関と同じような業務もする一方、商工中金が昔から担ってきた中小企業のために果たす使命があると思います。ほかの金融機関とは違う商工中金のあるべき姿、どう差別化して存在意義を確立していくか。どう考えますか。

まさに設立の趣旨が、昭和恐慌のあと、中小企業が資金繰りに困っていた時に、当時の中小企業の皆さんが政府と一緒になってつくった。中小企業の資金繰りの円滑化は基本中の基本、根本的な問題です。今回も、民営化の中で危機対応業務を責務としてしっかりやるということで、“雨の日の傘”として機能をしっかり果たす。これが基本です。

そのうえで、多様化、複雑化してきている中小企業に寄り添ってサポートしていく。我々の特徴としては全国ネットというものがあります。地域金融機関の皆さんは、それぞれの地域でしっかりと基盤を持って支えていると思いますけれども、我々は全国ネットで、まずはポートフォリオが、日本の産業構図そのものなんですね。それから地域性も、各県のGDPと同じレベルでうちの融資シェアがあるというようなことですから。そういう点で言うと、日本全体の、ある意味中小企業の全体像のデータも把握できるということですから、これは我々の強みでもあります。そういったことをベースに、それぞれの企業だったり地域だったりの課題解決に貢献できると思っていますので。情報量も多分、地域金融機関とは違う情報がありますから。そういう点で全国の中小企業のお役に立てるんじゃないかなと思っています。

―社長は前の会社とその前の会社で危機管理の担当をされて、会社がだめになりそうなところを立て直そうと頑張った経験があると思います。そういったことを経験したトップとして、社員にメッセージはありますか。

私が大事にしているのは現場力です。やっぱり現場の力があってこそ。その力は何かと言ったら、お客様にいかに貢献できるかという力じゃないですか。これは本当に大事にしていて、パーパス、ミッションをつくったんですけれども、まさに企業の未来を支えていく、日本を変化に強くするというパーパスなんです。これが当金庫の職員の“北極星”というか目指すべき姿で、それに向けて、どう会社や社会に貢献できるかをしっかり考えてもらいたいし、そういったことができる環境をつくっていくことが大事だと思っています。人材育成のプログラムも「お客様の企業価値向上に向けて、変革し続ける人材」というのを掲げていますので、職員にはそういったことを自分の問題として捉えて、取り組んでもらえればいいなとは思っています。

―「日本を変化に強くする」とは、どういう意味が込められていますか。

変化の激しい時代じゃないですか。変化に対応できないと、ダーウィンの進化論じゃありませんが、衰退していってしまう、滅びていってしまう。変化への対応力が経済全体にとって、中小企業にとって、本当に大事だと思っていますから。日本経済を支えている中小企業の皆さんが、変化に対応できるようになっていかなければいけないので、我々は非常に大きなミッションを掲げていますけれども、取り組んでいかないといけないなという思いでやっているということです。

(経済部 小野志周)

【2023年6月30日放送】

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