“1人乗りEV” 手軽さと維持費の安さを売りに新規参入も

価格や維持費がまだまだ高いといわれるEV=電気自動車。あえて1人乗りに特化「維持費の安さ」を追求して開発された車を、神子田章博キャスターが取材しました。

超小型EV 「高齢者から問い合わせ多い」

訪ねたのは静岡県浜松市です。市内にある中小企業「サインクリエイト」の社長、伊藤千明さんは2022年6月、1人乗りEVを発売しました。大きさは全長約2.1メートル、幅は約1.1メートルです。

このEVは原動機付自転車に区分され、車庫証明や車検は要りませんが、運転には普通免許が必要です。車道を走ることができて、最高速度は60キロ。ただし高速道路は走れません

早速試乗してみました。車内は1人で乗るならそれほど狭くないと感じます。加速もなめらかです。

「小回りも利く。コーナーも軽くハンドルがきれていい感じ」

充電は家庭用のコンセントで行います。航続距離は60~80キロと短く、価格は1台130万円(税抜き)です。これまでに30件以上の問い合わせが来ているといいます。

1人乗りEVを開発した企業 伊藤千明 社長
「一般の方だと、高齢者の方の問い合わせが圧倒的に多い」

大手メーカーもスタートアップも参入

1人乗りEVの販売や開発には、大手自動車メーカーをはじめ中小企業やスタートアップなどが参入しています。

愛媛大学客員教授で、電気自動車普及協会の佐藤員暢理事は、1人乗りEVの需要は今後ますます増えていくと見ています。

電気自動車普及協会 佐藤員暢理事
「都市部だと、やはり小さな車は置き場所に困らない。山間部に行くと、最近ガソリンスタンドが減っている。電気だと各家庭で充電できるから、そのへんがいいという意見もある」

看板製作会社がEV開発 きっかけは?

伊藤さんの会社の本業は、企業などの広告用看板の製作です。1人乗りEVの開発は2年前に始めました。

きっかけは地域の活動の一環で防犯灯の整備に取り組んだことでした。防犯灯の電池を長持ちさせる方法を探る中で、「鉛蓄電池」の寿命を延ばす装置の存在を知りました。

防犯灯の電池を長持ちさせる方法を探り…
「鉛蓄電池」と、その寿命を延ばす装置をEVに応用

鉛蓄電池は、一般的なEVに使われるリチウムイオン電池に比べ価格が安い反面、劣化が早いのが課題でした。しかしこの装置を使えば、寿命を1.5倍~2倍に延ばせるといいます。これをEVに応用しようと考えたのです。

伊藤さんは中国製のEVをベースに、バッテリーや足回りを独自に改造し、半年かけて完成させました。

太陽光パネルでも充電 EVが蓄電池の代わりに

開発したEVは、太陽光パネルで充電できる機能も備えています。さらに住宅の分電盤に専用のコンセントを設置すれば、EVが蓄電池の代わりになります。フルに充電しておけば、一般家庭2日分の電気をまかなうことができるといいます。

伊藤さんは、安全性という課題にも今後取り組んでいくとしています。

伊藤千明 社長
「低コストで負担が少ない形で、いざという時の電源供給にも役立てる。1人乗りのEVを、これから新たな市場として開発できたら、世の中に貢献できるのではないかと考えている」

普及するか? 1人乗りEVの可能性

1人乗りEVは今後普及するでしょうか。自家用車の乗車人員の調査結果(国土交通省)を見ると、平日は「1人での移動が中心」が70%に上ります。しかも約7割の人が、移動する距離が10キロ以内となっています。航続距離が短くても、1人乗りEVには多くの需要が期待できるという見方もあります。

また家庭で蓄電池の代わりとして使うことで、災害が起きて停電になった時に役立ちそうです。

さらに、車体を観光地ゆかりのデザインにして市街地で走らせるなどして、観光客誘致の広告として活用する可能性もあるとみられます。

広告塔としての可能性も?

【2023年8月14日放送、初回放送4月14日】
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