陸上養殖に「新たな価値」 取れたての生サバ “魚と野菜の二毛作”も

魚などの水産物を、海ではなく陸上の施設で育てる「陸上養殖」。養殖の技術や設備の性能が高まってきたことなどもあって、従来の養殖にはない付加価値を提供する動きが広がっています。

街なかで「取れたてのサバ」を

駅徒歩1分のビルに向かうと…
サバの陸上養殖の研究が行われていた

大阪・豊中市の商店街。駅から1分ほどのビルの中で行われているのは、サバの陸上養殖の研究です。

サバの卸売会社などの経営者が営む会社「フィッシュ・バイオテック」が、この施設を手がけています。

水槽で泳ぐ約80匹のサバ

この陸上養殖施設が提案している「新たな価値」は、「取れたてのサバがどこでも手に入る」ことです。鮮度が落ちやすいサバの刺身も、大都市圏の近くで養殖すればより多くの人に提供できると考えています。

運営会社 右田孝宣 社長
「サバは足がはやい(腐りやすい)ので、取れたての感動を与える味がなかなか再現できないので」

この会社は、人工海水を浄化して循環させる装置を新たに開発しました。稚魚から育てて1年をかけて養殖します。アニサキスなどの寄生虫の心配もないといいます。

コストの高さが課題ですが、今後は規模を拡大し、サバ以外の魚の陸上養殖にも取り組む計画です。

右田社長
「この技術はほかの魚にも絶対転用できるので、陸で育てたほうが価値のある魚が、これからどんどん出てくると思う」

魚と野菜 “二毛作”で収益向上

環境への負荷を減らす」という新たな価値を生み出している陸上養殖もあります。愛知県のソフトウエア会社「スーパーアプリ」が2022年12月に開業した岐阜県八百津町の施設では、チョウザメやティラピアといった淡水魚を育てています。チョウザメは卵が高級食材のキャビアの原料になります。

チョウザメ

さらに養殖で使う「飼育水」を捨てずに活用して、レタスやルッコラといった野菜の水耕栽培も行っています。

養殖で使われた水は魚のフンやエサなどが含まれ、そのまま捨てると環境に影響を与えるおそれがあります。

この施設では、そうした物質を微生物の働きで野菜に必要な栄養素に変えて循環させています。

養殖で使われた水に含まれる物質を、野菜の栄養素に変える装置

養殖と水耕栽培を組み合わせたこうした方法は「アクアポニックス」と呼ばれ、いわば魚と野菜の“二毛作”で収益の向上を図っています。

施設を開業したソフトウエア会社 飯沼正樹 代表取締役
「コンスタントに収益を得ながら、環境負荷を下げられる観点からしても、非常に価値があるものなのではないか」

課題となるコスト削減に向けては、水質管理や魚の状態の把握、エサやりなどを自動化して、人手をかけずに生産する実験も行っているということです。
(大阪局 小川真由、経済番組 岩永奈々恵)
【2023年3月31日放送】
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