国際的な物流を担う海運業界では、脱炭素に向けて温室効果ガスの排出を抑えた船の開発が急がれています。そこで脚光を浴びているのが伝統的な「帆船」。最新の技術で姿を変えて現代によみがえろうとしています。
高さ50m以上 最新の「帆」
長崎県西海市にある大島造船所で、大きな白い物体の建造が進んでいます。最新型の「帆」です。高さは50メートル以上で、鉄製の枠に、ガラス繊維を圧縮し樹脂でコーティングして作られた「FRP(繊維強化プラスチック)」が張られています。
この帆を重油を燃料とする大型商船に取り付け、風からも推進力を得ます。1本の帆で、温室効果ガスの排出量を年間で最大約8%以上削減できる効果があると見込まれています。
元技術者が開発を呼びかけ
帆の開発を呼びかけたのは、海運会社の技術者だった大内一之さん(74)です。
大内さんがかつて衝撃を受けたという船があります。1980年に建造された、「帆」を活用したタンカー船「新愛徳丸」です。オイルショックを背景に商船の省エネ対策を目指したものでした。
しかしこの試みはコストなどの問題から結局普及しませんでした。それでも大内さんは将来、帆を必要とする時代が必ずやってくると予感したといいます。
海運会社の元技術者 大内一之さん
「燃料という化石じゃなくて、空気だ、風だというところが、時代が変わればおもしろい。(帆船には)コストを超えた力がある。“いつか待ってろよ、その日まで”という感覚だった」
大内さんは退職後の2009年、大学や海運会社、造船会社からなるプロジェクトを立ち上げ、地道に開発を続けてきました。
AIが帆を制御 最適航路を自動で判断
新たな帆船にはコストを抑える最新の技術が詰め込まれています。
気象データをもとに、風を最も有効活用できる航路を自動で判断できるシステムを搭載。通常の船のように最短距離を結ぶだけでなく「帆」の力を引き出すコースを導きます。
さらに、帆の伸縮や回転は人工知能を使って行います。帆の建造を行う造船所の基本設計部で次長を務める平井和久さんは、帆の制御装置について「風の強さや方向が表示され、それをシステムが計算して最適な角度になるように制御する」と説明しました。
一方、巨大な帆を船の先端に取り付けても船体を安定させる必要があり、設計は困難を極めたといいます。
約1年間シミュレーションを繰り返し、50メートル以上の最大瞬間風速にも耐えられる設計を実現しました。
この帆船は2022年10月、海外から日本に石炭を運ぶばら積み船として就航する予定です。
帆を開発した商船三井 技術部 水本健介さん
「燃料の消費量そのものを減らすことがこれからもっと重要になってくる。“帆のない船はもう時代遅れだ”という時代がこれから先に来れば、私たちにとって本望」
海運業界はいま、環境に配慮したさまざまな燃料を開発しています。どんな燃料でも風の力を使うことでさらに燃料の消費を少なくできるということで、こうした取り組みがどう広がっていくか注目です。
(名古屋局 記者 玉田佳)
【2022年8月26日放送】
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