海上交通の要衝として発展してきたシンガポール。海運は経済の大きな柱ですが、いかに多くの船舶を呼び込むか厳しい競争にさらされています。そこで取り組み始めたのが「船の部品」を供給するプロジェクト。いったいどんなものなのでしょうか?
世界17社のコンソーシアム結成
アジア有数の物流拠点シンガポールには、年間13万隻の船が寄港します。競争力強化に向けてこの国が注目したのが「船の部品」です。
スクリューなど過酷な自然環境に24時間さらされる船の部品はどうしても損傷しがちで、交換や修繕が欠かせません。
ただ、在庫がないと交換まで半年かかるケースもあり、その間に操業できなければ巨額の損失が発生してしまいます。
このためシンガポール政府は、必要な部品をすぐに供給できる体制を整え、世界の船舶を引き寄せる戦略に乗り出しました。
呼びかけに応じて、ノルウェーの海運会社を中心に日本のメーカー「川崎重工業」を含め世界を代表する17の企業が集まり、コンソーシアム(共同企業体)を結成しました。
金属部品を3Dプリンターで製造
部品作りに使うのは「3Dプリンター」です。さまざまな形や材質に対応できる強みを生かし、部品を早く作ろうというのです。
シンガポール海事港湾庁 長官補佐官 ケネス・リム氏
「船への部品供給が劇的に変わるだろう」
取材した日に試作していたのは、船の向きを制御する重要な部品です。金属の粉にレーザーを照射し、一層一層固めていきます。12時間後には部品が形になりました。
この部品の場合、受注から発送までこれまで約90日とされていましたが、17日に短縮できる見込みです。
海運会社 イノベーション担当 ダニエル・タン氏
「コストを抑えることもできるし、在庫を倉庫に積み上げておく必要もなくなる」
停泊船にドローンで運搬
シンガポールでは、部品を早く作るだけでなく素早く運ぶ工夫も進めています。ドローンを使って、小型の部品を沖合で停泊する船に直接届けます。ボートだと1時間かかる運搬が、15分程度に短縮できるといいます。
シンガポール海事港湾庁 リム氏
「3Dプリンターの導入と併せて自動化やデジタル化を推し進めることで、シンガポールの港は世界最大の交通のハブとなる」
日本からこのプロジェクトに参加しているメーカーは、自社の工場で製造しなくても設計データが使われるたびに使用料が入り、会社にとって十分なメリットになりうるということです。
(アジア総局 プロデューサー 内田敢)
【2022年6月9日放送】