ジビエラーメンを地域の切り札に

山梨県の丹波山村(たばやまむら)では、有害鳥獣に指定された鹿などのジビエを余すことなく活用した料理を開発しています。全国の中山間地などではジビエを使った商品開発で赤字経営になっているところもありますが、丹波山村では事業を黒字に転換しました。黒字に至るまでの苦労、そして工夫とは?

人口530人 「鹿ラーメンで村を知って」

山梨県北部にある人口およそ530人の丹波山村。この村で生まれた料理の一つが「鹿ラーメン」です。鹿の骨を6時間煮込んだスープに、鹿のチャーシューやそぼろがのった“鹿づくし”。独特のさっぱりした甘みが特徴です。

開発したのは、地域おこし協力隊として村に移住した保坂幸德さんです。5年前から村の食肉処理場の運営を任され、このラーメンを開発しました。

食品加工・販売会社代表 保坂幸德さん
「鹿骨で作ったラーメンができると、(村を)多くの人に知ってもらえるんじゃないかと。丹波山の名前を知ってもらいたいというのが私の一番の思い」


鹿骨のだしを試行錯誤 廃棄部位をむだなく活用

処理場は、以前は村の直営で食肉だけを扱っていたため、鹿1頭当たりの利用率は25%ほど。収益が上がらず年間200万円の赤字でした。

保坂さんはそれまで廃棄していた部位をむだなく使えないかと、肉の切れ端を使ったコロッケやカレーを開発したり、ペットフードの販売にも乗り出したりしました。

しかし黒字に転換するためには、さらに鹿の利用率を高める必要がありました。そこで目をつけたのが、骨からだしをとったラーメンだったのです。

ただ開発は一筋縄ではいきませんでした。鹿のスープは臭みが少ない分、コクがでにくいものでした。保坂さんは「最初、全然味に引っ掛かりがなくてものすごい苦労した」と話します。

鹿が持つうまみを高めようと、保坂さんは使う骨の量を増やす一方、煮込む火力や時間を1年かけて試行錯誤しました。


1頭からの商品販売額 2万→10万円に

そして生まれたのが、鹿肉のほのかな香りが漂うしょうゆベースのラーメンでした。

このラーメンの開発で、鹿1頭当たりの利用率は75%まで向上しました。5年前、1頭当たりの商品の販売価格は約2万円でしたが、今では10万円になりました。

鹿ラーメンには、村も期待を寄せています。

丹波山村 振興課 主任 磯部智博さん
「今までは『丹波山村って山梨のどこなの』という話が結構あったが、鹿を食べたいなら丹波山に行こうということになってほしい」


都心でキッチンカー販売も

保坂さんはさらに販路を広げようと、東京都心でキッチンカーでの販売にも乗り出しています。

鹿ラーメンを食べた男性客は「鹿のだしも臭みがなく、非常に食べやすくておいしい」、女性客の一人は「知らなかった。おいしい」と話しました。

保坂さん
「鹿1頭、取れた命をお肉としてだけ使うとなると、ごくわずかな量でしか活用できない。むだなく使われるということが、全国的に活発になっていけばいい」

全国にはジビエの食肉処理場が約760あるといいます。保坂さんは鹿の骨などを各地から調達する一方、ラーメン作りのノウハウを共有することで、鹿ラーメンを盛り上げたいと話しています。
(甲府局 ディレクター 武田海)
【2022年6月10日放送】