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地震 知識

「異常震域」とは…何が異常?

異常震域とは、通常の地震は「震源の近く」であるほど揺れが大きくなるのに、「震源から遠く離れた場所」で揺れが大きくなる現象を言います。

震源は「伊勢湾」なのに「関東」が揺れる。
震源は「日本海」なのに揺れたのは「太平洋側」。

地下数百キロで発生する地震(深発地震)でみられる異常震域。「異常」と言われるとびっくりしてしまいますが、何が「異常」なのか。南海トラフの地震と関係あるのか?たびたび発生している“異常震域”のメカニズムと過去事例、かみ砕いて説明します。

地震発生時のニュースなどで紹介された内容です

目次

    何が「異常」なのか…

    “異常震域”といわれると何か異変が起きているのでは…と思ってしまいますが、地震現象としてはたびたび発生している(後述)ので異常ではありません。

    ではなぜ異常といわれるのか。それは通常は「震源の近く」であるほど揺れが大きくなるのに、「震源から遠く離れた場所」で揺れが大きくなるからです。字のとおり、「震域」つまり震度を感じる地域が「通常と異なる」ためです。

    なぜ通常と異なる場所が揺れる?

    実際に過去に起きた地震で説明します。

    2015年5月30日 深さ682kmの深発地震
    2015年5月30日 深さ682kmの地震(当時のニュース画像)

    2015年に起きたマグニチュード8.1の大地震です。震源は小笠原西方沖の地下深く、なんと682kmです。2011年に東日本大震災をもたらした巨大地震の震源の深さが24km、1995年の阪神・淡路大震災は16km、南海トラフで発生した1944年の昭和東南海地震は40km(気象庁による)とされていますので、桁違いに深い場所で起きたことがよくわかります。

    この地震では震源に近い小笠原諸島で震度5強の揺れを観測しました。深さが682kmといえど、マグニチュードは8超。それはありえるとは考えつきます。でもここまではいいとして、同じ震度5強を1000km近く離れた神奈川県でも観測、さらに震度5弱を埼玉県で観測しました。一方、震源に近いはずの伊豆諸島青ヶ島の震度は4でした。結局この地震では47都道府県のすべてに震度1以上の揺れが伝わりました


    メカニズム
    非常に深い場所の揺れはプレートを通し伝わる

    地震は「フィリピン海プレート」に沈み込む「太平洋プレート」内部のさらに深い場所で起きました。この付近では沈み込んだプレートが折れ曲がっていて、その一部で起きたという研究もあります。

    ここで関係するのが「揺れの伝わりやすさ」です。深く沈み込んでいるプレートは、衝突しているプレートのさらに地下深くにあるマントルに食い込むように沈んでいく形になっています。この「マントルの上部」は岩石の組成の違いなどから地震の揺れが減衰しやすい一方で、「プレート」は揺れが減衰しにくいとされています。このため地下深くで起きた地震の揺れがプレートを通して伝わっていくと考えられています。


    メカニズム2
    プレート伝いに日本広域に揺れ

    小笠原沖の地下深くで起きた地震は「太平洋プレート」「フィリピン海プレート」を通して揺れを広域に伝え、関東で震度5強や5弱を、日本全国で震度1以上を観測することになったのです。

    “異常震域”過去事例は?

    この“異常震域”ですが、地震としては異常ではなくたびたび起きていてます。過去の地震で異常震域とみられるものをいくつか抜粋して紹介します。

    2003年11月12日 三重県南東沖・深さ395km・M6.5

    三重県南東沖

    三重県南東沖の地下深くに沈みこんでいる太平洋プレートの内部で地震発生。震度4の揺れを茨城県、栃木県、福島県で観測したほか、北海道から近畿にかけての広い範囲で震度3~1を観測した。


    2015年5月30日 小笠原諸島西方沖・深さ682km・M8.1

    小笠原沖

    小笠原諸島沖合に沈み込む太平洋プレートのさらに深い場所で大地震が発生。震度5強の激しい揺れを震源に近い小笠原諸島だけでなく、1000km近く離れた神奈川県でも観測。震度5弱は埼玉県で、震度4を関東甲信や静岡県で観測した。震度3~1は北海道から沖縄県にかけて観測され、47都道府県のすべてに震度1以上の揺れが伝わった。


    2019年7月28日 三重県南東沖・深さ393km・M6.6

    三重県南東沖2019

    三重県南東沖の地下深くに沈み込む太平洋プレート内部付近で地震発生。震度4の揺れを遠く離れた宮城県で観測したほか、震度3~1を北海道から近畿にかけて観測した。


    2021年9月14日 東海道南方沖・深さ385km・M6.0

    東海道南方沖2021

    東海道南方沖の地下深くに沈み込む太平洋プレート内部付近で地震発生。震度3の揺れを東京や茨城県、栃木県で。震度2や1の揺れを東北や関東甲信越などで観測した。


    2021年9月29日 日本海中部・深さ394km・M6.1

    日本海中部

    日本海中部の地下深くに沈み込む太平洋プレートの内部付近で地震発生。プレートを伝わって逆側の太平洋側を中心に揺れ、震度3を北海道・青森県・岩手県・福島県・茨城県・埼玉県で観測。震度2や1を北海道から関東甲信越などで観測した。


    2021年10月21日 東海道南方沖・深さ356km・M5.6

    東海道南方沖2

    東海道南方沖の地下深くに沈み込む太平洋プレートの内部付近で地震発生。震度3を栃木県で観測。震度2や1を東北から関東などで観測した。


    2022年5月9日 遠州灘・深さ341km・M5.2

    遠州灘

    遠州灘の地下深くに沈み込む太平洋プレートの内部付近で地震発生。震度2や1を東北から関東で観測した。

    南海トラフ巨大地震との関係は?

    “異常震域”をもたらす地震は、地下数百キロほど深くの太平洋プレート内部やさらに深い場所が破壊されて発生する「深発地震」によるものです。「南海トラフ巨大地震」のように、深さ数十キロほどの「プレートどうしの境界がずれ動く」ことによる地震とはメカニズムが異なるのです。

    2015年5月30日 地震深さの違い
    プレート境界の地震と深発地震の違い(イメージ)

    さらにつけ加えます。震源の真上の地表の点、「震央」だけを見ると南海トラフ付近で起きているように見えることがありますが、“異常震域”をもたらす地震は南海トラフで地震を引き起こす「フィリピン海プレート」によるものではなく、日本海溝から沈み込み続けている「太平洋プレート」で起きている地震です。つまり地震の原因となるプレートがそもそも違うのです。

    これらのことから南海トラフと直接の関係はなく、巨大地震の予兆でもないと言えます。

    ただ、異常震域も日本付近で地震を引き起こす原因の「プレート運動」がもたらしている現象の1つです。プレートどうしがぶつかってずれ動く「プレート境界の地震」、プレートで押されていることによってひずみがたまり発生する「活断層の地震」などとともに日本は多様な地震から逃れられないことを理解し、日頃から備えを進めていく必要があると思います。


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