2022年06月17日
「心理的安全性」の高い職場は働きやすいし、成果にもつながりやすいらしい。では、どうやったらそんな会社を見つけられるのでしょう?企業の心理的安全性を研究・コンサルティングする専門家に聞きました。
就活生は「心理的安全性」が高い企業を目指した方がいいんですか。
少なくとも心理的安全性が低い企業を目指す必要はないと思いますね。
でも、まずはいい仕事をするっていう観点を持っていただいて、そのうえで心理的安全性が高い企業を選んでほしいと思います。
全然興味もない、やりたくもない分野だけれど「心理的安全性が高そうなので入社します」といった行動はおすすめできません。
あくまでも、会社のプロジェクトなど大事にしたいものがあって、そこにみんなで力を合わせて向かっていく時に心理的安全性が必要になるんです。
石井遼介さん
ZENTech取締役。日本認知科学研究所 理事。大学や研究機関で心理的安全性の計測や診断について研究をしながら、実践者として企業へのコンサルティングを行う。著書「心理的安全性のつくりかた」は13万部を発行(2022年6月)。
心理的安全性が高い企業を見極めるポイントってあるんですか?
そうですね・・・少なくとも圧迫面接をするようなら、その会社全体としても安全性は低そうだなって読み取れますよね。
人事担当者や面接官の言動が威圧的かどうかというのは大事なポイントかなと思います。
なるほど。
あとは選考が進むと、役員面接ってありますよね。
役員が周りの社員にふだんどう接しているかって、会社全体の雰囲気をある程度規定します。
もちろん、トップは心理的安全性が低いけど、その下によいリーダーがいてチームを守ってくれるというケースはあります。
ただ、入社してから人事異動があることなんかも考えると、全社的に感じのいいところに就職した方がいいですよね。
面接まで行けたらわりと雰囲気が分かると思うんですけど、その前の段階ではどうですか。
企業説明会とか採用ホームページで、「仲のよさが売りです」ってうたっていても信用していいものか・・・
そうですよね、「うちはパワハラひどくてブラック企業です!」って書かないですもんね。
ただ、使っていることばに表れる雰囲気ってあると思うんです。
例えば「部下」っていうことばを使うか、「メンバー」っていう言葉を使うか。
一緒に仕事をしている社外の人を「パートナー」と呼ぶかわりに「外注」とか「下請け」と呼ぶのか。
そういう部分にその組織に流れている感覚的なものが見える場合があります。
リアルです。
自然と使われることばにその会社の精神性みたいなものが出てくるのかな、と思いますね。
OBOG訪問みたいな場面はどうですか?
生の声を知れるのはいいなと思います。
今だったらオンラインで15分だけお話伺えませんかというのでも雰囲気は聞けるかもしれないですね。
その時、どう聞けばいいですか?
「ぶっちゃけ、仕事楽しいですか」って聞いてみる。
おぉ!
相手の年齢にもよりますが、「友達がいたらこの会社にぜひ入ってもらいたいと思いますか」とか、「娘さんや息子さんがいたらこの会社に入ってほしいって思いますか」とか。
そういうふうに聞くと、少し見えてくるかもしれませんね。
実際に企業に入って心理的安全性が低いって分かったらどうしたらいいですか。
手段は3つしかないです、「辞める」か「耐える」か「変える」かです。
「辞める」か「耐える」か「変える」・・・
できれば「辞める」か「変える」をおすすめしたいです。
「辞める」というとびっくりするかもしれませんが、実際、新卒の立場で社内を変えていくって簡単じゃないと思うんです。
どうしようもなかったら、メンタルやられる前に辞めたほうがいいです。
辞めちゃっていいんですか?
いいんです。
だって、自分の人生のほうが大事じゃないですか?
1社試してみて「やばい環境だったんで転職します」と言っても、「だったらうちに」っていう企業はいくらでもあると思います。
どうしようもない時には会社を見限っていいんだっていう選択肢を持っておくのはこの先の人生において大事なことです。
でも就活で苦労をして、やっとの思いで入った会社です。
もしかしたら輝けるかもって可能性もあるんじゃないでしょうか・・・
可能性を信じている場合、病む前には見切りがつけられるんだったら、いろいろ動いていくのはもちろんありです。
どう動けばいいですか?
「心理的安全性をテーマにしたイベントがあるらしいんで、一緒に行きましょうよ」と、上司・先輩を誘ってみるとか。
「こういう組織がいいって聞いたんで、私たちも作れるように頑張りましょう」と声をあげてみるか、いろんな切り口はあると思います。
とはいえ新入社員1人で戦うのはやっぱり難しいんで、まずは頼りになりそうな先輩を巻き込むとかね。
簡単にできるんでしょうか。
会社によるとは思うんですけど、社内の人と交流する機会って用意されていると思います。
繁忙期は避けたほうがいいですけど、新卒のメンバーから「ちょっとお話聞きたいんですけどいいですか」って言われたら、嫌だって言う人はほとんどいませんよ。
1人が心配なら、同期の仲間を2人集める。
新卒が3人いれば「じゃあランチいくか」みたいなことになったりするじゃないですか。
学生生活でも心理的安全性って大事になりますか?
皆さん、今はどんな学生生活を過ごしているんですか?
ゼミ入って、グループワークして、アルバイトしてって感じです。
なるほど、心理的安全性って一義的には組織として成果を出すためのものだと思っています。
成果を出すためにこそ、みんなで意見を出し合う、分からない時に聞き合う、助け合う。
その観点ではゼミのグループワークでもいいものをつくるぞっていう観点、バイトでも成果を出すぞという観点では大事かもしれません。
私は学習塾でアルバイトのリーダーをやっています。
社員の上司がいて、後輩のアルバイトがいます。
中間管理職ですね。
例えば後輩から不安に思っていることを聞いて、それをよくするために上司に言わないといけないことがある時、どうしたらいいでしょうか。
そのままの意見をぶつけても多分、対立してしまうケースが多いですよね。
どういう言い方だとその人も受け取ってくれるかなっていう感覚がまず大事ですね。
言い方ですか。
前置きに大義をつけるというのがいいですよ。
「塾の運営をもっとよくするためにちょっとお願いがあるんですけど」のような枕ことばをつけると、いきなり何か言われるよりはまろやかになりますよね。
大事そうだなっていう合意ができてからのほうが、意見がちゃんと吸い上げられると思います。
ありがとうございます。やってみます。
私はサークルでチーフのような役割なんですが。
50人いるメンバーのうち、10人くらいからはまったく意見が出てこないんです。
10人くらいなら直接話しちゃうのがいちばんですよ。
これ、組織を動かそうという時にけっこう陥る落とし穴です。
何かを課題と感じている少数の人たちがいるのに、つい制度とか仕組みを導入したらよくなるだろうって考え方をしがち。
それって、直接話すのが怖いからなんですよね。
まさに、怖いです。
そうですよね、怖いかもしれないけど、話してみると意外と「あっ、そういうことね」ってなることは多いんですよ。
そもそも同じサークルにいるわけですから、向いている方向が180度違うことはないので大丈夫ですよ。
こうしたコミュニケーションの場では当事者意識が大事だと思います。
でもこの時に、「心の中」じゃなくて、「行動」に重きを置きませんかってよく言っています。
どういうことですか?
今ペンを持ってますよね。
はい。
そのペンを「やる気を出して」持ってみてください。
「当事者意識を持って」握ってください、どうぞ!
手が痛いです(笑)
「やる気」とか「当事者意識」を持てって言われても難しくないですか?
はい、難しいです。
心の中って自分自身でもコントロールできないんです。
ましてや他人の心の中をコントロールしようというのは、ものすごくハードルが高いことです。
だから、いったん心の中のことは忘れてしまったほうがいいと思います。
でも、当事者意識を持っているのかってどうしても気になります。
なので、行動ではかるんです。
どういうことですか?
ある仕事に対して当事者意識があれば、何と何をどういうタイミングでやるんだろうということを考える。
そのうえで、素直にこれとこれをやってもらえませんかってリクエストすると、意外と前に進めたりするんですよ。
すると「ああ、それ私の仕事だったんですね、知りませんでしたって」って話がでてきたりとか「やらなきゃとずっと思ってましたが、教えてくれる人がいなくてやり方が分からなかったんです」といった話になるかもしれない。
もしくは「これ、苦手なんでそっち頑張るからこっちは変わってほしい」って話だったらそれはそれで交渉の余地があるかもしれないですし。
はい。
つまり「あなたはABCDEFのうちDとFができてないのでA~CとEをやってもらえますか」と、具体的な行動レベルで依頼してみる。
すると、ふわっと「やる気」「当事者意識」について思い悩むより前に進みやすいです。
そうなんですね!
これから心理的に安全な会社って増えていくんでしょうか。
新型コロナが大きな転換点だったと思います。
リモートワークにならざるをえなくなった時、上司は「あれ、私って今までどうやってマネジメントしてたんだっけ」って、いろいろ振り返るタイミングになりました。
きっと、そうですよね。
あと、副業も増えてきてますよね。
すると正直、時間の管理なんてできないんですよ、監視カメラでも付けないかぎり。
そんなことしてもモチベーション下がるだけだから、心理的安全性があるかが重要になります。
はい。
そういうこともあって、日本の会社も心理的安全性が大事だって目を向け始めています。
有名企業の役員に対して心理的安全性の研修をすることも増えてきていますし、徐々に日本全体が変わりつつあるって感じます。
本日はありがとうございました。
編集:加藤陽平 撮影:本間遥
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