目指せ!時事問題マスター

1からわかる!気候変動(2)“地球沸騰の時代 ”とは?どんな影響が?

2023年12月06日
(聞き手:堀祐理 正木魅優)

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「温暖化は、もはやひと事ではない」世界各地が熱波におそわれたことしの夏、多くの人がそう痛感したのではないでしょうか。いったい何が起きているのか?この先どうなるの?最新の科学的知見も交えて1から解説します。

地球沸騰時代の到来 

今年は暑い時期が長すぎました。

そうですね。「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が訪れた」これは今年7月、国連のグテーレス事務総長の発言ですが、かなりキャッチーな言葉でした。

さすがに沸騰はしないだろうとは思うんですけれど、でもそれくらいわれわれが危機感を持たなきゃいけない時代になってきているということを、強調するための発言なんだと思います。

教えてくれるのは土屋敏之解説委員。科学・環境分野が担当で地球温暖化や脱炭素社会、生物多様性などに詳しい。科学番組のディレクターとして「NHKスペシャル」「クローズアップ現代」「サイエンスZERO」などの番組を制作してきた。

今年は6月~8月までの夏場の平均気温が世界で観測史上最高、そして日本でも観測史上最高となりました。

改めて、すごく暑かったんですね。

はい。気温って自然のゆらぎと言いますか、すごくランダムに上下する部分が多いので、平均化するとそんなに際立たなかったりするんですよね。

ただ、気象庁のデータを見るとジグザグしながらもやはり、全体としては上がっているのがもはや明らかになってきていることが分かります。

なぜ、今年はこんなに暑かったんですか。

今年は近年の気候変動に加えて、いくつもの要因が重なって、記録的な暑さになったと考えられています。

世界的には、エルニーニョ現象によって、気温を押し上げる方に働きました。

日本の場合は、大きいのがやはり太平洋高気圧の張り出しが平年よりも強くて高気圧に覆われ続けている、つまり晴天の状況が続いたという状況になりました。

科学的に初めて断定

皆さんはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)って知っていますか?

聞いたことがないです。

IPCCは国連の関係機関のひとつです。そもそも、温暖化問題ってすごく各国の経済活動に関わるので、単に政治交渉だけをやろうとしても、意見の食い違いが大きく交渉が難航することが多いんです。

たしかに。想像できます。

そこで、各国が推薦した研究者などが協力して、世界中の論文や科学的なデータを集めて、それをもとに気候変動についての最新情報を科学的にまとめて報告書を作っています。

世界中の研究者がどうやって報告書をまとめるんですか。

IPCCの報告書は、世界中の文献を集めた下書きを公開します。それに対してフィードバックを繰り返して、最後はそのIPCCに加盟している世界中の国の政府代表が集まって、報告書を1行ずつ議論して承認していくんです。

1行ずつ?!

1行ずつ。

だからもうこれで出来上がったものが世界の共通認識になるんです。

この機関の最新の報告書で、人間活動による温暖化が起きていることは「疑う余地がない」と初めて断定したんです。すでにさまざまな分野に影響が出ていることも明記されました。

そもそも、断定することは難しいことだったのでしょうか?

そうですね。われわれが取材をはじめたころは、ことし起きた台風、あるいはことしの夏の暑さは温暖化のせいかどうかは“個別には言えない”というのが常識でした。

昔は科学的には分からなかったことができるようになった要因の1つが「イベント・アトリビューション」と呼ばれる新しい手法の発達です。

「イベント・アトリビューション」とは

コンピュータ上で、産業革命前から温暖化が進んでいないと仮定した地球と、温暖化が進んだ現実の地球とを比較して、個別の異常気象に温暖化が与えた影響を証明していく手法。シミュレーションを行って、特定の異常気象が起きる確率などを計算したうえで比較する。

今年、北アフリカのリビア東部で大規模な洪水が起きましたよね。

国際的な研究グループがこの手法を用いて分析したところ、気候変動がなかった時代に比べると、洪水をもたらした大雨が降る確率が最大で50倍高くなったという結果が出たそうです。

大規模な洪水に襲われたリビア東部(2023年9月)

世界各国は産業革命前に比べて、気温上昇を1.5度までに抑える努力をすると合意しています。ただ、IPCCの最新の報告書では、このままではあと10年で1.5度に達する見込みであると指摘し、タイムリミットが迫っている厳しい事実を突きつけました。

温暖化対策 世界の目標は

2015年、COP21で採択された「パリ協定」で、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2度未満に保ち、できれば1.5度に抑えることを目標とした。世界全体で温暖化対策を進めることに合意した初の協定。

地球温暖化の影響は?

実際に地球温暖化でどんな影響が出ているのでしょうか?

こちらはIPCCの報告書の一部を抜粋したものなんですが、良い影響は「+」悪い影響は「-」で、赤は確信度が高いことを示しています。

IPCCの報告書より抜粋して作成

世界全体ですでに悪い影響は出ているとされていて、暑さによる健康被害や沿岸地域の洪水や暴風雨の被害は、確信度が高いことを示していることが分かりますね。

また、熱帯性の感染症のリスクが増えているという報告もあります。

例えば、洪水では、1.5度に抑えられた場合に比べて、それより0.5度高い2度までに上昇した場合では、対策を取らなければ被害が最大2倍に増加するなどと見積もられています。

ほかにも、2度以上の上昇だと食糧危機のリスクがさらに増すと予測されているんですね。

日本にはどんな影響がありますか?

日本でも近年、台風や大雨による水害が増加していますが、今世紀末には1日に200ミリ以上という大雨の日が1.5倍に増えるとされています。

洪水リスクが倍増し、土砂災害は発生頻度も規模も増すと予測されています。

災害以外にはどんな影響が出ていますか?

まずは気温ですね。これはまさに、ことしの夏、皆さんも実感されたのではないでしょうか。

このまま温暖化が進むと、最高気温35度以上の猛暑日は今世紀末には全国平均で20世紀末より19日も増加すると予測されています。

東京・大阪では日中、屋外で働ける時間が30~40%も減少するとも予想されています。

今年の夏は外に出るのがとてもつらかったのでよく分かります。

さらに、農業や漁業への影響も深刻です。このまま温暖化が進むと、コメの品質が低下し、果物の種類によっては、栽培が困難な地域も広がるとされています。

例えば、ことしの猛暑の影響で等級の高いコメができていないとニュースにもなっていますよね。

暑さに強い品種の開発もしているんですけど、数年で変えられるものではないので、これはやはり農家の人たちにとっても消費者にとっても深刻です。

漁業では、サケ、マスなど多くの魚種で日本周辺での漁獲量が落ちることも懸念されています。おなじみの寿司ネタがなかなか食べられなくなるかもしれません。

持続可能な社会とは

私たちの生活にすでに影響が出ているということがよく分かりました。食い止めるために私たちに出来ることはありますか?

本当に身近なところでいうとやっぱり食材の地産地消だと思います。旬のものをなるべく近くの地域で採れたものを食べるっていうだけでも、輸送や保存にかかるエネルギーが少なくなるので、これは脱炭素にもつながるし、健康とか家計にも優しいですね。

大きな視点でみても、地産地消にしていったほうがエネルギー的には効率がいいわけですね。まだ世界の人口は増え続けているので、食料を簡単には輸入できなくなってきますしね。

あとは、いまの若い人には難しいのかもしれないけど、個別宅配や、24時間営業しているコンビニの必要性です。数十年前の日本にはなかった仕組みで、なくても普通に生活は成り立っていたんですよね。

急激にこういうライフスタイルが普及してきたんですけど、それって本当に持続可能ですかってことも問われています。

考え方を変えないといけないところもあるんですね。

本当にそうですね。最後にもう一つ、IPCCの報告書の中から皆さんにお伝えしたいことがあります。

今回の報告書では初めて“気候変動問題は世代間の不公平な問題だ”ということを明確に指摘しています。最近、世界的に若い世代が気候変動問題に声を上げるのは、これが世代間の不公平だからなのですね。

COPの会場周辺には、早急な対策を訴える若い世代が多く集う(2022年11月)

これまで排出をたくさんした世代は、気温が低いうちに亡くなって、これから生きていく人たちが、より気温の高い世界を生きていかないといけないんです。

上の世代が借金を残したままいなくなってしまい、それを若い世代に押し付けているような状態になってしまうのが温暖化の構図です。

だからこそ、借金を残さないようにわれわれ現役世代が責任を果たしていかなきゃいけないし、若い世代も、より自分の問題と捉えて取り組んでいってもらえればと思っています。

編集 近藤優美子

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