2023年8月31日
ジェンダー 中村哲さん アフガニスタン アジア

タリバンは変わった? 現地大使が見たアフガニスタンの今とは?

「タリバンにも『緩やかな女性政策を導入すべき』という指導者もいるとみている」

そう語るのは、アフガニスタンに駐在する岡田隆大使です。

タリバンが復権して2年、経済の低迷などから国民の3分の2以上が支援を必要としているともいわれ、タリバンによる女性の権利の制限も続くアフガニスタン。

この2年で何が、どう変わったのか。今後、タリバンはどうなるのか。現地の最新情勢を大使に聞きました。

(イスラマバード支局長 松尾恵輔)

各国に先駆けて大使館を再開した日本

アフガニスタンの首都カブールで各国の大使館が建ち並ぶ、かつて“グリーンゾーン”と呼ばれていたエリア。

各国の大使館が並ぶかつてのグリーンゾーン(カブール市内)

その一角に、日本大使館はあります。

アメリカ、ドイツ、イギリスなど、かつて軍を駐留させていた国々の大使館はいまだに閉鎖されたままで、大使館を開いているのはイラン、中国など近隣の国がほとんどです。

日本大使館は、タリバンが首都カブールを制圧した2021年8月に閉鎖されましたが、翌年の9月、体制を縮小した上で、業務を再開しました。

タリバンが復権して2年、アフガニスタンはどうなっているのか。現地でタリバンの幹部とも会談を重ねている岡田大使に現状分析を聞きました。

岡田隆 駐アフガニスタン大使

※以下、岡田大使の話。インタビューは8月11日にオンラインで行いました。

2年間でアフガニスタンはどう変わった?

2年前のカブールはまさに「内戦下の包囲された町」という趣で、街なかに軍や治安関係者があふれていました。

道路に立つタリバンの情報部隊(カブール 2021年)

それが今は“普通”に戻りつつあります。

しかしそれは表面だけであって、実際のところは車や人の量は相当減っています。物もあふれていますが、買う人がいないといいます。それは何よりも経済の停滞が大きいと思います。

もともとのGDPが1人当たり年間500ドル程度で、それが今350ドルを切ると予想されています。つまり、平均的には1人の人が1日1ドル以下で生活するような状況になっているのです。

国連の統計によれば、国民の97%が貧困ライン以下で生活しているということになっています。

内戦が終わって治安状況は改善して安全になったけれども、貧しくなり、さまざまな自由が抑圧される社会になっているというのが今の状況だと思います。

女性の状況はどうなっている?

この2年間で、女性の自由と権利が徐々に侵食されてきたということがいえると思います。

特に女性を街で見かける事が随分減りました。もちろん、今でも女性はマーケットに行ったり外出も1人でできているわけですが、かつてのように洋服でスカーフだけをかぶって歩く女性は見かけることはありません。

カブールの市場 

様々な生活上の自由が、次々に奪われています。例えば、女性が公園に行けない。更には、女性のための美容室が閉鎖されるといった制約が次々と出されています。

閉鎖された美容室

ただ、こうした規制は実は全国一律で決定されているというわけでもありません。例えば、県知事や地方の行政機関の長の判断で、禁止された事項が実は静かに認められている場合もあります。

女子の中等教育は全国で禁止されていますが、地方によってはそれが今も静かに続いているところもあるわけです。しかし全体としては、そういう“グレー”なスペースも縮小しつつあり、女性の家の外での活動の場がどんどん奪われています。

女性の活動家たちは「教育を受ける権利や働く権利が制約されることは受け入れられない」と強く訴えています。

タリバンとはどんな形で対話をしている?

タリバンの指導者との対話・面会については、閣僚クラスとは極めて頻繁に行っています。

現地の情勢を把握し現地の人々の声を聞く。タリバンに直接関与する。これが大使館を再開した目的でした。

タリバン暫定政権のムッタキ外相代行と会談する岡田大使

そういう中でタリバンに一貫して伝えてきた事は、3つのメッセージです。

①日本を含む国際社会はアフガニスタンの安定化を望み、そのために協力する用意がある
②安定のためにはタリバンが国民の声を聞き、人権、政治参加、テロ対策において政策を改善する必要がある
③政策の改善が実現すれば、タリバンの正当性が強化され国際社会との協力の拡大にもつながる

女性の教育や就労の問題についても、極めて率直にタリバンの政策の問題点を指摘し続けています。

「女性の権利は尊重されるべきだ」というだけではなく「この国を安定させ、繁栄をもたらしたいのであれば、国民の半分を占める女性の支持なしにはできない。女性の能力を活用しなければ達成できない」というメッセージも伝えているところです。

対話の成果は、残念ながら出すことができていないと思います。

これは日本だけの問題ではなくて、国際社会全体としての取り組みをどういうふうに改善していくか考えなければならないと思います。

タリバンは変わったのか?変われるのか?

「もしかするとタリバンは大きく変わったのかもしれない。国際社会との協力というのも相当可能かもしれない」という期待が国際社会の側にも、当初はありました。

しかしながら、年が変わった2022年あたりから、保守的な政策の傾向が強まり、今日に至っているというのが、振り返ってみるといえることかなと思います。

タリバンの実権掌握から2年になるのを祝うパレード(2023年8月)

ただ、個人的には90年代のタリバンとは明らかに違うと思います。

その意味はタリバンの中に非常に大きな多様性が見られるということです。世代的な多様性、民族的な多様性、それから国外・国内の生活を経験したものという多様性もあります。

タリバンは、権力を奪い返すために20年戦い、組織が非常に大きくなりましたが、その結果としてさまざまな意見があり、今も国の将来のあり方について、議論は内部で続いているんだろうと思っています。

「より緩やかな女性政策を導入することで、国内を安定させ国力を増すべき」、そして「国際社会との関係を改善すべきだ」という意見の指導者もいると見ています。

将来タリバンに変化が起こる可能性は十分あると思います。

タリバン暫定政権の承認は?

政権の承認を近い将来行えるような状況にはないと思います。

ただ、対話を繰り返し、タリバンの努力や行動の変容を求めていかなければなりません。

アフガニスタンの首都 カブール

タリバンが日本政府を含め国際的な承認を得るためには、国内で正当性を確立し、国際的なルールを尊重する意志というものを行動で示していかなければなりません。

なぜ日本がアフガニスタンに関わるのか?

アフガニスタンが不安定になると、この国を再びテロの温床にする事になりかねず、国際社会としては、なんとか防がなければいけない大きな課題です。

日本は長年の支援によって、アフガニスタンの人々からの「信頼」という大きな財産を築き上げてきていると思います。

アフガニスタンでの人道支援に長年携わった医師 中村哲さん

ペシャワール会で砂漠を緑の農地に変えられた中村哲先生、アフガニスタンの難民の支援や復興に尽力された緒方貞子先生といった人たちの存在とともに、アフガニスタンの人々の記憶に強く刻み込まれています。

アフガニスタンの復興に力を注いだ元国連難民高等弁務官 緒方貞子さん

タリバンなどからは「できれば中村先生が手がけたようなプロジェクトをアフガニスタン全土に広げてほしい」という要請を繰り返し受けています。

中村哲さんが作った農業用水路

長年の努力で、諸先輩方が築き上げてきた財産を活用して、アフガニスタンの安定化に貢献できるのではないかと考えて取り組んでいます。

日本は何をしているのか?何をすべきなのか?

アフガニスタンの人たちは、今非常に危機的な状況にさらされています。

我々としては、食料やシェルター、それから最低限の医療といったものを提供して、アフガニスタンの人々が困難な状況を乗り越えていけるための人道支援を、国際機関と協力しながら提供しています。

さらに、人道支援で生き延びる事ができても、医療や教育にアクセスして、仕事を持って、生計を再建できなければ、人道支援が必要となるような危機が繰り返される事にしかなりません。

自立を支援する援助も拡大しています。その中で、女性に対する支援も重点的に取り上げています。

例えば、日本の支援で建設された施設では、学校に行けなくなった女子学生たちの教育も続けられています。

タリバンにより女性の大学教育が停止され 大学に通えなくなった女子学生(2022年)

アフガニスタンの人々に寄り添った支援を続けることが必要です。

タリバンの政策が支持できないからといって、アフガニスタンに背を向ける事、支援をやめると言う事は、アフガニスタンの人々を二重に苦しめる事になり、さらにアフガニスタンの不安定化を招きかねません。

変化はなかなか起こらないかもしれませんが、われわれは忍耐強い努力を続けていく必要があると思います。

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