2022年6月22日
アフガニスタン イラン 中東

「本当の私たちを知ってほしい」彼女が異国で食堂を開いた理由

大切にしていた指輪やネックレスを売りました。親戚からもお金を借りました。
 
彼女が、そうまでしてでも資金を集めたのは、異国の地で、食堂を開くため。
 
それは、お金を稼ぐためではなく「自分たちのことを知ってほしい」という願いからでした。

子どもたちが“恥ずかしい”と感じる祖国

「私は祖国の歴史や文化を誇りに思っていますが、子どもたちは祖国のことを、もはや“恥ずかしい”と感じています」

こう話す夫の隣で、ロガイエ・アクバリさん(53)は悔しそうな表情を浮かべていました。

ロガイエさんはアフガニスタン出身で、32年前、情勢不安から、隣国イランに難民として逃れてきました。そして、「異国の地」イランで、夫との間に3人の子どもをもうけました。

イランで生まれ育った子どもたちにとっても、アフガニスタンがふるさと。ロガイエさんは、そう思ってきただけに、子どもたちの思いに触れ、複雑な感情を覚えてきたといいます。

誰にも理解されていない

実は、ロガイエさんが暮らすイランには、彼女たちのように、アフガニスタンから逃れてきた難民や移民が、300万人以上暮らしていると言われています。
 
そして、そうした人たちの多くは、建設作業員や警備員といった低賃金の仕事にしか就くことができず、“その日暮らし”を強いられているのです。
 
ロガイエさんがこうした現状以上に、もどかしさを感じるのは、イランの人たちがアフガニスタンに対して持っている印象だといいます。

「まわりの誰もアフガニスタンのことを分かってくれないのです。戦争、貧困、麻薬といったイメージしか持っていません。“隣の国”にも関わらず、文化や伝統も知られていません。本当に悲しいです」 

イランに暮らす庶民だけでなく、ある程度の教育を受けた人たちと話しても、アフガニスタンが話題になるとネガティブな話ばかり。

そして、いつかは家族と一緒に、平和の訪れた祖国に戻って暮らしたいと考えてきたからこそ、子どもたちも、同じような印象を持ってしまったことがショックでした。
 
ロガイエさんは、自分たちが誰にも理解されてないんじゃないかという思いを持ち続けてきました。

ありのままの魅力を知ってほしい

そんなロガイエさんは、3年前、ある決断をします。
 
イランの首都テヘランに、アフガニスタンの伝統料理をふるまう食堂を開くことにしたのです。
 
開店資金を集めるため、大切にしていた指輪やネックレスなど、持っていたジュエリーは売り払いました。そして、親戚にも日本円にして200万円ほどの借金を頼みました。
 
「ありのままのアフガニスタンの魅力をひとりでも多くの人に知ってほしい」
 
すべてはその思いからでした。

「ハネ・カブール」の店内の様子

テヘランの中心部にある学生街に開いた店には、「ハネ・カブール」という名前を付けました。アフガニスタンの首都“カブールの家”という意味で、テヘランで唯一のアフガニスタン伝統料理の店だといいます。

紛争も、がれきもない祖国の写真

その店を訪れると、ロガイエさんが笑顔を絶やすことなく、食堂を切り盛りしているのが見えました。
 
そして、店内を見渡すと、祖国アフガニスタンの写真が、ずらっと飾られています。

壁に飾られた写真

笑顔を浮かべて何枚ものナンを抱える少年たち。民族衣装を身にまとった女性たち。どこまでも広がる雄大な自然。
 
写真には、そうした風景が写されていました。紛争も、がれきも、描かれていませんでした。

「アフガニスタンといえば、いつも紛争が起きているという印象しかありませんでした。でも、ここでおいしい料理を食べてから、がらっとイメージが変わりました。最近は、よく知人をここに連れてくるんですよ」

常連客だという女性に声をかけると、こう話していました。
 
今では、店の常連客も増え、客からアフガニスタンに旅行に行きたいという声もかけられるようになったというロガイエさん。一家そろって営む食堂の仕事に、誇りとやりがいを感じているといいます。

娘と一緒に調理するロガイエさん

「何十年もアフガニスタンのことを伝えようとしてきましたが、このお店を始めて、ようやく家族みんなが自分の国に誇りを持てるようになってきたと感じています」

取材を終えて

取材のあと、ロガイエさんがオススメだという「カブリパラウ」という、アフガニスタンを代表する料理を食べさせてもらいました。
 
柔らかい羊肉を混ぜた炊き込みごはんに、炒めたにんじんやレーズンで彩りが添えられていて、豊かな香りが口の中に広がり、とてもおいしく感じられました。

カブリパラウ

いつも笑顔のロガイエさんでしたが、話題がウクライナに及ぶと、表情が暗くなりました。ウクライナのニュースを見るたび、悲しい気持ちになるのだといいます。

「ふるさとを離れたい人なんていません。戦争は、平和、家族、幸せを奪うのです。私たちだって何十年も祖国を離れて暮らしています。アフガニスタンであれ、ウクライナであれ、シリアであれ、世界のどこであっても戦争だけはあってはなりません」(ロガイエさん)


アフガニスタンの国内情勢
2021年8月15日、イスラム主義勢力タリバンが首都カブールを制圧したあと、暫定政権を発足。ただ、国際社会はタリバンに人権状況の改善を求め、これまでに暫定政権を承認した国はない。
 
また、女子生徒が学校に通うことができないなど、女性をめぐる人権状況が改善されていないことから、欧米からの支援が滞っている。アフガニスタンの海外資産の凍結も続いているため、経済は悪化の一途をたどり、食料不足などの人道危機が深まっている。
 
そして、治安の悪化も深刻で、タリバンと対立する過激派組織IS=イスラミックステートの地域組織がテロを繰り返している。

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