2022年8月15日
アフガニスタン アジア

タリバン復権1年 女性の教育は?人権は?アフガニスタンの今

アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンが再び権力を握ってから1年がたちました。

女性の教育を受ける権利など人権は守られているの?
市民の生活はどう変わった?

詳しく解説します。
(国際部・北井元気)

そもそも1年前に何が起きたの?

それまで治安を担ってきたアメリカ軍などが撤退を進める中、去年8月15日にイスラム主義勢力タリバンが首都カブールに進攻。当時のガニ大統領は国外に脱出して政権が崩壊し、20年ぶりにタリバンが政権を握りました。

大統領府を占拠したタリバンの戦闘員ら(2021年8月15日)

タリバンは旧政権時代、イスラム教を極端に解釈し、女性に「ブルカ」と呼ばれる全身を隠すベールの着用を求め、女性の就労や教育を禁止するなどして国際的な批判を浴びました。

再び政権についたタリバンは記者会見を開き、女性の就労や教育などの権利を守ると明言していました。

かつての姿勢がどう変わるのか、国際社会が注視していました。

女性の権利は守られているの?

アフガニスタンの女性たち(カブール・2022年5月)

守られているとはいえず、むしろかつてのように人権を制限する動きもみられます。

ことし5月、イスラム教徒の女性が人前で髪を隠すのに用いるスカーフ「ヒジャブ」の着用に関する指針を発表し、家族以外の男性の前では目だけを出し、顔を覆うことを義務づけました。さらに特段の理由がない限り女性は家にいたほうがよいとする方針を打ち出しました。

一方、20年前はすべての女性に対して禁止していた教育をめぐっては、国際社会が批判を強める中、タリバン暫定政権は、大学にかぎり、校舎で学ぶ時間帯を男性と女性とで分けるなどして授業を再開させています。

しかし、日本の中学校と高校にあたる中等教育の学校では、女子生徒が自宅待機を命じられ、登校ができなくなりました。男女別学などタリバンの解釈によるイスラムの教えに沿った環境が整っていないというのが、その理由です。

ことし3月には暫定政権の教育省は授業を再開する見通しを示しましたが、当日になって急きょ延期しました。

学校再開の初日に登校した女子生徒 授業は途中で中止に(2022年3月23日)

タリバンは延期の理由について手続き上の問題と説明していますが、暫定政権発足から1年がたっても再開の見通しはたっておらず、国連機関や各国からの批判が強まっています。

なぜ、変わらないの?

専門家の中には「変えようにも変えられない状況」だと指摘する声があります。いま、政策を大きく変えた場合、イスラムの教えに厳格な保守強硬派からの支持を失いかねないからです。

そもそもタリバンはイスラムの教えを極端に厳しく解釈した政策をとってきました。

前回タリバン政権が樹立した1990年代は旧ソビエト軍の撤退後の内戦が長引く時期でしたし、今回もアメリカ軍の撤退直後で国内が混乱した時期でした。タリバンはこうした混乱の中で外国勢力ではなく、アフガニスタン国民自身の手で国を安定させていく姿勢が支持を集め、政権の座についてきました。

だからこそ、自らの原理原則を曲げたとみられることに慎重にならざるを得ない状況になっているのです。

一方、旧政権時代は恐怖政治などとの批判を受け、国際社会だけでなく国民からも支持を失い、結局政権を維持できませんでした。

こうした経験から今回政権を握った当初は「20年前と今の我々は違う」と強調し、女性の就労や教育については「イスラムの教えの範囲内」で認めるとしていました。

こうしたことからタリバン内部やアフガニスタン社会での妥協が成立すれば、長期的には女性の権利について改善も期待できるという見方もありましたが、国内の経済状況の悪化なども重なって、今変えることはより難しくなってきているといえます。

今後、改善する見通しはあるの?

現時点では難しいといえます。それを印象づけたのが、暫定政権が2022年6月30日から7月2日まで首都カブールで開催した国の重要事項を話し合った会議です。

暫定政権が開催した会議(カブール・2022年7月)

イスラム教の指導者や部族長ら3000人あまりが集まり11の決議を採択しましたが、女性の権利については「イスラム法の範囲内で特に留意するよう求める」とするにとどまっています。

国連や欧米などが繰り返し求める女性の人権の尊重についてタリバンが歩み寄る姿勢はありません。

市民の暮らしはどう?

過去に例がないほど厳しい状況となっています。

タリバンが復権したあと統治への懸念などから欧米各国が相次いで支援を停止し、保有していた海外資産も凍結されました。このため経済状況が極端に悪化しました。

WFP=世界食糧計画は、アフガニスタンの国民のおよそ半数にあたる1890万人が、深刻な食料不足だと分析しています。

さらに去年、過去30年で最悪とも言われる干ばつに見舞われたほか、ことし6月には、東部のホスト州を震源とするマグニチュード5点9の地震が発生。WHO=世界保健機関によりますと、8月7日の時点で1036人が死亡、2989人がけがをしました。

タリバンの暫定政権を承認していない日本や欧米各国は、国際機関を通じた間接的な支援を行うにとどまっています。

治安はどうなっているの?

これまで政府と反政府武装勢力が繰り広げてきたような戦闘は大幅に減っています。ただタリバンと対立する過激派組織IS=イスラミックステートによる散発的な攻撃が増加しています。

去年10月には、北部クンドゥズと南部カンダハルにあるイスラム教シーア派のモスクを狙った自爆攻撃があり、少なくともあわせて120人が死亡しました。

過激派組織IS=イスラミックステートが犯行声明を出したモスクへの自爆攻撃(2021年10月15日)

国連によりますと、タリバンが復権してからことし6月15日までの10か月の間に、ISによる攻撃で、市民700人が死亡、1400人以上がけがをしたということです。死亡した人のうち、159人は子どもでした。

さらに経済の混乱から市民の間での一般的な犯罪も増えているということです。

「アルカイダ」との関係を絶つという合意は守られているの?

国際テロ組織アルカイダ指導者 ザワヒリ容疑者(右)と ビンラディン容疑者

アメリカは依然として関係が続いているとみています。

そもそもタリバンとアメリカは2020年にアメリカ軍の完全撤退を含む和平合意、いわゆるドーハ合意に署名しました。このなかで、タリバンは、国際テロ組織アルカイダなどアメリカの安全を脅かすすべてのグループとの関係を断ち、アフガニスタンを再びテロの温床にしないことを約束していました。

しかしその後もアルカイダと合同で軍事訓練を行うなど密接な関係が指摘されていました。

アメリカ政府は8月1日、アルカイダの現在の指導者アイマン・ザワヒリ容疑者を、首都カブールの潜伏先の住宅で殺害したと発表しました。2001年の同時多発テロ事件に深く関わったとされる人物です。

ホワイトハウスの高官によりますと、タリバンはザワヒリ容疑者とその家族をかくまっていた上、潜伏していた証拠を隠そうとしていたということです。

アメリカ側の発表によれば、タリバンは合意に反してアルカイダ幹部との関係を続けていたことになります。

国際社会は今後どう向き合えばいいの?

難しい判断を迫られています。多くの人々が危機的状況にある一方、タリバンの暫定政権を認めることはできないからです。

女性の人権や教育問題などを理由に、暫定政権を承認した国はまだ1つもありません。

OCHA=国連人道問題調整事務所とUNHCR=国連難民高等弁務官事務所は、ことし1月、食料支援や保健分野といった人道支援に、ことし1年間で総額50億ドル、日本円にして5770億円あまりが必要になるとして、各国に拠出を求めています。1か国に対する支援額としては過去最大です。

グランディ国連難民高等弁務官

グランディ難民高等弁務官は「時間は限られている。もしアフガニスタンが崩壊すれば、周辺国や、さらにその先に、多くの人々が流出する」と危機感を示しています。政権承認とは切り離した形で、各国から人道支援を促進する動きも出ています。

暫定政権から人権問題などで譲歩を引き出す戦略と同時に、命の危機にさらされるアフガニスタンの人たちを守る国際社会全体の支援が必要です。

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