2024年3月6日
スウェーデン ロシア ヨーロッパ

ロシアの脅威に対抗 戦闘機「グリペン」の秘密に迫る

「ロシアの脅威に対抗するために設計された非常に能力の高い戦闘機だ」

北欧・スウェーデン製の戦闘機「グリペン」について、製造・開発にあたっている軍需品メーカーのトップはそう語りました。

「グリペン」とはいったいどんな戦闘機なのか。ゼレンスキー大統領が求めているウクライナへの供与は実現するのか。グリペンの頭脳とも言える電子部品の製造・開発現場にテレビメディアとして世界で初めて入り、取材しました。

(国際部記者 高須絵梨)

“対ロシアの戦闘機”グリペンとは?

グリペンは、スウェーデンの軍需品メーカー・サーブ(SAAB)が1980年代から開発してきた戦闘機です。

サーブが開発した戦闘機「グリペン」

スウェーデン語で戦闘を意味する「Jakt」、攻撃を意味する「Attack」、そして、偵察という意味の「Spaning」の頭文字をとって「JAS39グリペン」とも呼ばれ、偵察から、対地攻撃、空対空の戦闘まで、さまざまな任務をこなすことができる多用途戦闘機とされています。

これまでに300機以上生産され、現在、スウェーデン軍が所有するグリペンは96機。NATO加盟国のチェコやハンガリーのほか、ブラジルや南アフリカ、タイなどにも納入されているということです。

また、去年8月にはウクライナのゼレンスキー大統領が、グリペンのウクライナへの供与についてスウェーデン側と協議を始めたことを明らかにしていて、実現すれば戦況を大きく変える可能性もあるとして注目を集めています。

「グリペン」供与について協議したことを明らかにしたスウェーデン クリステション首相とゼレンスキー大統領(ストックホルム郊外 2023年8月)

“スホイキラー”グリペンに迫る

なぜゼレンスキー大統領はグリペンの供与を求めているのか。

その理由に迫ろうと、去年12月にサーブに取材を申し込み、2か月にわたる交渉の末、グリペンの頭脳とも言える電子部品の製造・開発現場にテレビメディアとして世界で初めてカメラを入れる許可が出ました。

訪れたのは、スウェーデンの首都ストックホルム郊外にある工場です。セキュリティーが厳重で、入り口でスマートフォンなどの電子機器を預けます。

電子機器を預ける取材班

建物の外観や、屋内でも窓があるような場所での撮影は禁止。撮影した映像はサーブ側がチェックし、撮影位置なども指示に従うことを条件に取材が許されました。

ロシアの戦闘機の名前をとって“スホイキラー”とも呼ばれる「グリペン」の強みについて、担当者が強調したのは、電磁波を使って戦闘を有利にする「電子戦」にすぐれているという点でした。

まず案内されたのは、グリペンを含めた、サーブが製造する軍需品などに使われるプログラミングの基板を作っている工程です。

手元など、画像をもとにどんなものを作っているか解析できてしまうようなシーンは撮影が許されませんでしたが、特殊な機械で基板を作ったあと、不備などがないか顕微鏡を使って1つ1つ確認していました。

基板の確認作業

基板の種類は300近くに上り、まさにグリペンの頭脳と心臓にあたるところだといいます。

次に見せてもらったのは、グリペンのレーダー対策をテストする専用の部屋。

ここでは、グリペンが相手のレーダーから覚知されないかどうかの性能のテストを行っていて、長いときにはテストに1日近くかかることもあるといいます。

レーダー対策をテストする部屋

そして、電子戦のかぎを握るジャマーポッドと呼ばれる装置。

重さはおよそ300キロ。敵のレーダー施設やレーダー誘導ミサイルが発する電波を検出し、強力な妨害信号を出すことができます。

こうした最新の技術を利用することで、グリペンは敵のレーダーを妨害して自分の姿を隠したり、実際は1機しか飛行していないにもかかわらず、数多く飛行しているかのように見せたりする機能も搭載しているのです。

ジャマーポッド(敵の電波を妨害する装置)

電子戦だけではないグリペンの強みとは?

対ロシアを意識し、毎日のようにグリペンを使った訓練を行っているというスウェーデン空軍。実際の訓練を取材するため、ストックホルムからおよそ900キロ離れた北部ルレオの空軍基地を訪ねました。

氷点下20度近くの中、1時間ほどグリペンの訓練を取材しました。

スウェーデン空軍基地でのグリペンの訓練

特に、ここ数年はいかにスウェーデンを守るのか、ということを目的とした訓練が増えているといいます。

数では圧倒的な差があるロシアが攻撃してきたときにどう対応するか。電子戦の優位に加え、離陸に向けた準備を少人数で行えることや、わずか10分で燃料を補給することができることなど、メンテナンスのしやすさもグリペンの強みだといいます。

短時間での給油が可能

そして、スウェーデン軍のパイロットが最も強調していたのは、離着陸に必要な距離がほかの戦闘機と比べて短く、飛行場の滑走路でなくても高速道路などを使って離着陸ができるという点でした。

スウェーデン空軍のパイロット
「グリペンは500メートルもあれば、ほとんどどこでも離着陸できます。私たちはそうした訓練をたくさん行っています。
すべての戦闘機を1か所に集めてしまうと、敵が私たちの居場所を知るのは非常に簡単ですが、分散可能なグリペンの可動性によって、戦闘機をあちこちに移動させることができ、敵は私たちの居場所を知るのが難しくなるのです。こうしたことはウクライナでも有効だと思います」

グリペンがウクライナの戦況を変えるのか

ロシア軍が犠牲もいとわず多くの兵力を投入し、ウクライナ侵攻を続ける中、グリペンが投入されることで、戦況が変わる可能性はあるのか。

ストックホルムでNHKの取材に応じたサーブのミカエル・ヨハンソンCEOは、次のように述べました。

サーブ ミカエル・ヨハンソンCEO

ヨハンソンCEO
「グリペンはロシアの脅威からスウェーデンを守るために設計された、非常に能力の高い戦闘機です。この戦闘機が供与されれば、ウクライナ軍が制空権を握ることになると思います。
私たちは民主主義を守りロシアから自分たちを守るためにも、ウクライナがこの戦争に勝てるように支援しているのです。ウクライナがこの戦争に勝利することは今後のヨーロッパにとって重要なことであり、ロシア国境に近いスウェーデンにとっても非常に重要なことなのです」

取材を終えて

現地で多く聞かれたのは、「ロシアによるウクライナ侵攻でヨーロッパの安全保障環境は大きく変化し脅威を感じている」といった声でした。

スウェーデンでは、男女を問わず18歳になれば徴兵制の対象となります。

高校生に話を聞くと「ウクライナへの軍事侵攻を目の当たりにして、次は自分たちの国かもしれないと怖くてたまらなかった」と話す生徒もいました。

およそ200年にわたって貫いてきた軍事的中立の方針を転換し、NATOへの加盟が決定したスウェーデン。

これまで、旧ソビエト、そしてロシアの脅威に対抗するために自力で防衛力を高めてきた歴史があり、“スホイキラー”とも呼ばれるグリペンは、その象徴の1つです。

今回の取材でインタビューしたスウェーデンの国防相は、ロシアによるウクライナ侵攻について「第2次世界大戦以来の脅威だ」と話していました。

NATO加盟にかじを切ったスウェーデン、そしてヨーロッパがどこに向かうのか。これからも取材を続けたいと思います。

(2月24日 サタデーウオッチ9などで放送)

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