2023年8月8日
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対ロシアで“いい湯だな”と“納豆”?バズる外交官の真意とは

「“いい湯だな”と“納豆”が外交方針の基本です。日本の皆さん、覚えておいてください」

フォロワー26万を抱え「バズる外交官」として知られるジョージアのレジャバ駐日大使。今後のジョージアの外交方針を聞くと、流暢りゅうちょうな日本語で思いがけない答えが返ってきました。

でも、レジャバ氏の表情は真剣そのもの。この方針こそがジョージア政府が長年追い求めているものであり、国際平和に通じるはずだと断言します。真意はいったいどこにあるのでしょうか。

(国際部記者 野原直路)

フォロワー26万 四字熟語も駆使の“バズる”外交官とは?

話を聞いたのは、日本に駐在するジョージアのレジャバ大使です。

ティムラズ・レジャバ 駐日ジョージア大使

レジャバ氏は、ジョージアの首都トビリシで生まれましたが、4歳の時に学者だった父親の留学や仕事のため広島県に移り住みました。

東広島市の小学校に通っていた頃のレジャバ氏

早稲田大学国際教養学部を卒業し、その後、キッコーマンに入社。2015年にジョージアに帰国し、18年にジョージア外務省に入り外交官としてのキャリアを歩み始めました。2021年に日本駐在の大使に就任しています。日本での生活は20年以上になります。今回、私たちとのインタビューの中でも「一喜一憂」といった四字熟語をさらっと使いこなすほど日本語が堪能です。

レジャバ氏のSNS

レジャバ氏の日本での知名度を押し上げたのは、日本語でのSNS発信です。X(旧ツイッター)のフォロワー数は26万以上。本人曰く、ジョージア人でもっともフォロワー数が多い人物になったとのこと。連日、ワインなどジョージアの特産品を紹介したり、日本各地を訪問したりする様子などを投稿しています。

日本のプロ野球の始球式に参加するレジャバ氏 “第2の故郷”と語る広島で

ジョージアってどんな国? 黒海に臨む“ワイン発祥の地”

人口およそ370万人。ジョージアは、黒海とカスピ海にはさまれたコーカサス地方の国で、面積は北海道より少し小さい、およそ7万平方キロメートルです。北はロシア、南はトルコなどと国境を接しています。

アジアとヨーロッパをつなぐ位置にあり、昔から多くの民族が行き交う交通の要衝でした。国旗には5つの十字架が描かれていて、多くの国民がキリスト教徒です。ジョージアには8000年のワイン造りの歴史があるとされ、みずから「ワイン発祥の地」だとしています。

ジョージアの国旗

ジョージアは、かつてはロシア語読みの「グルジア」という国名が広く使われていましたが、高まる反ロシア感情を背景に「英語読みの『ジョージア』と呼んでほしい」と各国に訴え、日本政府も2015年から「ジョージア」に変更しています。

ウクライナとジョージアの共通点とは?

今回、NHKがレジャバ大使に話を聞いたのは、今からちょうど15年前に起きたある出来事についての思いを聞くためでした。

2008年8月、ジョージアはロシアから軍事侵攻を受けました。当時、ジョージアのロシア国境に接する地域で分離独立を主張する親ロシア派と政府軍の間で武力衝突が起きました。紛争の発端については、ジョージアと、分離独立を主張する「南オセチア」双方が、相手が先に攻撃や挑発をしたと主張。ロシアは、攻撃を理由に「南オセチアのロシア系住民を保護する」という名目で軍事侵攻したのです。

ロシア軍に爆撃を受けた建物とその前を走るジョージア軍兵士(ジョージア ゴリ・2008年8月)

西部の「アブハジア」と、北部の「南オセチア」の2つの地域には今もロシア軍が駐留していて、多くの人が故郷を追われたままになっています。

レジャバ大使
「私たちの国は領土の20%が占領されています。自分たちの家に帰れない人たちがたくさんいます。占領されている地域では、人権が保障されておらず、非常に懸念される状態です。いまなおロシア軍が駐留していることを考えれば非常に不安です。国家の安定的な発展に決してプラスではありません」

さらに、レジャバ氏は、同じくロシアと国境を接し軍事侵攻を受けているウクライナの現状は、ひと事には思えないと言います。

レジャバ大使
「去年始まったウクライナ侵略は、ある意味でジョージアの侵略の延長にあるものと捉えています。ウクライナで起きていることは、われわれが自分たちの国で経験してきたことです。経験したわれわれからすると、よりいっそう深い思いがあります」

ジョージアの国旗とともに掲げられたウクライナの国旗(トビリシ)

「いい湯」「納豆」の意味とは?

隣国のロシアと緊張関係が続く中、今後のジョージアの外交方針について話が及ぶと、レジャバ氏は“バズる外交官”らしい表現で答えました。

レジャバ大使
「こういう国際問題は、なかなか一般の人にはわかりづらいと思いますが、覚えていただきたい言葉があります。“いい湯だな”と“納豆”がジョージアの外交方針の基本です。私たちはずっとEUに入りたいのです。ジョージアはEUを目指す国、そう『いい湯だな』と覚えていただきたい。そして、NATOに対しても一途にさまざまな軍事演習や作戦に参加してきました。ですから、その点も真摯に認められたいという思いがある。NATOは『納豆』と覚えていただければいいんです」

ジョージアの外交の優先課題は、自国の安全保障のため、EU=ヨーロッパ連合とNATO=北大西洋条約機構に加盟することだと強調するレジャバ氏。

ただ、ことし5月には、ジョージアとロシアとを結ぶ直行便の再開が発表されるなど、ロシアとも一定の交流を維持しています。

自国に侵攻した国=ロシアと、なぜこうしたつながりを持たなければならないのか。レジャバ氏は、NATOなどへの加盟が実現していない中、ロシアとの関係にも一定の配慮をせざるを得ないと言います。

レジャバ大使
「ロシアは、大きな野望を持つ大国です。だからこそ、私たちのような小さな国にとってはロシアとの関係は非常に難しいのです。ジョージアはまだEUにも、NATOにも加盟していません。そのなかで、やはりバランスをとっていかないといけません」

なぜロシアによる軍事侵攻は繰り返されたのか?

レジャバ氏は、ウクライナ侵攻が起きた背景には国際社会がロシアの脅威を深刻に受け止めず、厳しい対応をとってこなかったことがあると考えています。

レジャバ大使
「力による現状変更への試みを抑止することをまず考えた方が良かったんだと思います。私たちは、15年前からずっとロシアとの問題を世界に発信してきました。しかし、それらは、ないがしろにされてきたと言えると思います。それが今の状況に発展してしまったわけです。経済制裁は、侵略が起きてしまってからでは遅いのです。侵略を(未然に)止めるための制裁として捉えなければいけません」

ウクライナ国内を走行するロシア軍の戦車(2023年8月公開)

「不都合な事実から目をそらさないで」

レジャバ氏は、取材の最後に、平和な社会の実現に向けて、人それぞれに考えてほしいことを語ってくれました。

レジャバ大使
「人間は日々の物事を好きなように、都合の良いように見てしまうものです。そうすると、ちょっとした悪いことには目をそらしてしまいます。しかし、自分が目をそらしてしまったことが、やがて大きな問題になって、大惨事を招くことだってあります。そうすると、大惨事に一人ひとりが加担していることになります。皆さんの日頃の行動が実は大きな何かに直結しているかもしれない、そういう思いを持つことで、世の中は変わっていくんだと思います」

取材後記

“「いい湯だな」と「納豆」が外交方針”という冗談めいた表現をあえて織り交ぜ、自国の置かれた状況を訴えたレジャバ氏。そこには、日本から遠く離れたジョージアを取り巻く情勢に、日本の人たちに少しでも関心を持ってもらいたいという切なる思いがあります。

 いま私たちがウクライナで目にしていることは、15年前のジョージアに起きたことと共通点があると指摘されています。しかし、ジョージアが長年訴えてきた“ロシアの脅威”に世界は十分に耳を傾けていたのか、そして、ウクライナ侵攻を防ぐことは本当にできなかったのだろうか。

レジャバ氏の言葉からは、繰り返される戦争を国際社会が防げなかったことに対する悔しさがにじんでいました。

「都合の悪い事実から目をそむけることが大きな惨事につながる。目をそむけることは、大惨事に加担することと同じだ」。

私たち一人ひとりに向けたメッセージのように感じました。

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