
「パキスタンとロシアの関係は前向きに進んでいる」
NHKのインタビューでこう語ったのは、パキスタンのビラワル・ブット外相です。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに急接近しているとも指摘されるパキスタン。
いったいなぜ?その思惑はどこにあるのか。話を聞きました。
(聞き手 国際報道2023キャスター油井秀樹 / 国際部記者 北井元気)
話を聞いたビラワル・ブット外相とは?

ビラワル・ブット・ザルダリ外相は1988年生まれの34歳。
母親は1980年代と90年代、2回首相を務め「イスラム世界初の女性首相」として知られる、ベナジル・ブット元首相です。
2007年、選挙運動中に自爆テロで暗殺されました。
父親は、その翌年から5年間大統領を務めたアシフ・アリ・ザルダリ氏。祖父は1970年代に大統領と首相を務め、パキスタン人民党を創設したズルフィカル・アリ・ブット氏です。

パキスタンでは政治の名門一族として知られるブット家の御曹司で、“政界のプリンス”とも言われるブット外相が7月に来日。
6月にロシア産原油を積んだタンカーがパキスタンに相次いで到着するなど、強化が進むロシアとの関係は今後、どうなるのか。話を聞きました。
※以下、ビラワル・ブット外相の話。インタビューは7月2日に行いました。
なぜロシアからの原油輸入を始めたのか?
パキスタンの国民にとって当面の関心事は、エネルギー需要です。
いままさに、エネルギー危機に直面しています。
私たちは国民のニーズを満たす必要があり、多くの国と同じように、ロシアからの調達を始めただけです。特定の国を選んだということではありません。

しかし、長期的に見れば、私たちにとって重要なのは、国内の生産に重点を置くことです。太陽エネルギーなど、より環境に優しいエネルギーへの移行も必要です。それは達成可能な目標だと思いますが、長期的な目標です。
欧米との関係悪化は懸念していないのか?
パキスタンは、いかなる制裁措置にも違反しておらず、自国民の利益を追求しているだけです。
パキスタンは若い人口の多い発展途上国で、私たちは皆、成長する人口のニーズを満たすために開発、成長する権利があります。そして、その成長にはエネルギーが必要になってくるので、西側の友人たちはそのことを気にするべきではありません。

そうは言っても、最近は地政学的な対立に過敏になっている面があるので、私たちは常にどこからの懸念にも対処するよう努めなければなりません。しかし、パキスタンはいかなる制裁にも違反していません。真の友人たちはそのことを理解していると思います。
制裁の効果が失われるという懸念もあるが?
それは私の関心事ではありません。
私の関心事は国民に食料を供給し、日々の生活に必要なエネルギーを提供することです。
私たちはアフガニスタンでの“永遠の戦争”から抜け出したばかりで、新型コロナという100年に1度のパンデミックに見舞われました。

その上、パキスタンは去年、歴史上経験したことのないような壊滅的な洪水災害にも見舞われました。
国民は苦しんでいるのです。生活していくことが難しくなっていて、こうしたニーズに対応することが私たちの優先事項です。

国民は私たちに地政学的な対立に巻き込まれるのではなく、生活の問題を優先的に解決してほしいと期待していると思います。
ロシアとの関係 どのように発展していく?
パキスタンとロシアの関係は前向きに進んでいて、ますます強くなっていくことを望んでいますが、ほかの国のように特定の政治権力圏に入ることは望んでいません。

パキスタンは、世界中のあらゆる国と関係を強化するつもりですが、新たな冷戦の一部になることは望んでいません。
しかし、ロシアやヨーロッパの友人、その他の国との関係をそれぞれ発展させるためには、ウクライナでの紛争を解決する必要があります。ウクライナでの紛争が世界に影響を及ぼしているからです。

私たちの立場としては、自国や自国民のために経済関係や外交関係を強化すること、そして、最終的にこの紛争を解決することを望んでいます。
この紛争の解決がなければ、パキスタンとロシアの2国間関係の潜在的な可能性を最大限に発揮することもできません。
ウクライナへの軍事侵攻についての立場は?
パキスタンは一貫して公平な立場を維持し、外交と和平の重要性を強調しています。
そして、責任のなすり合いではなく解決策を見つけるべきだと考えています。
意味のある解決のためには、両国、または全ての国が外交の道を探る必要があります。
もし、「誰が悪い」などと非難することから始めるのであれば、その道を追求することは難しくなるでしょう。
私たちは、誰が非難されるべきかを強調することはありません。パキスタンはウクライナともロシアとも良好な関係を築いてきました。

紛争や戦争から脱却し、深刻な経済的課題に焦点を当てることは、私たち全員の利益であり、すべての国の人々の利益でもあります。
私は、関与と対話、紛争解決の重要性を強調しています。ウクライナの紛争も最終的には対話によって終結するでしょう。
ウクライナの人々にとって遅かれ早かれ対話をすることが利益になると信じています。これらの決断は最終的にウクライナやロシアの人々が下すものです。
米中の緊張高まる中でどういう外交を?
パキスタンは中国、そしてアメリカとの関係も非常に重視しています。

私たちは、これらの国との関係を相互に排他的なもの、あるいはゼロサムゲームだとは考えていません。
パキスタンは常に橋渡し役であり、米中間の外交関係の樹立においても重要な役割を果たしました。まさにいま、私たちは橋渡し役を担っていて、今後もそうありたいと考えています。
最近の地政学的な対立で確かに難しい問題となっていますが、橋渡し役を続けていきたいと考えています。

日本とはどのような関係を築くのか?
非常に多くの可能性があります。
日本は高齢化していますが、パキスタンは人口の60%が若者でその層は拡大しています。日本とパキスタンは互いに補完できるのです。
私たちは同じような労働倫理を持っていて、文化や伝統、歴史、年長者に対する敬意を持っています。

私は労働力について例を挙げましたが、これは私たちが協力を強化することを熱望している分野です。特に農業分野やIT分野でパキスタンは多くの潜在能力を持っています。
日本がパキスタンを通じて中央アジアやその先へのアクセスから利益を得ることもできます。
地政学的なレンズではなく、経済的な機会のレンズでこれらのものを見るべきなのです。その文脈で、パキスタンと日本の関係は多くの可能性があると思います。