2023年6月20日
ウクライナ ロシア

ウクライナ反転攻勢 最新状況は?ロシア軍ウォッチャーが分析

ついに始まったウクライナ軍の大規模な反転攻勢。

連日、両軍による激しい戦闘が報じられるなか、最新の戦況はどうなっているのか?

ウクライナ側の作戦のねらいは? 今後の反転攻勢の焦点は?

ロシア軍事に詳しい東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠専任講師に話を聞きました。

(社会番組部ディレクター 松井大倫 / 国際部記者 松本弦)

以下、小泉氏の話

現在の戦況どう見るか?

大きな構図は事前の予測通り、ウクライナ軍がザポリージャの方向から南に攻めていき、アゾフ海の方まで突破する方向で進撃をかけています。

ただ、やはり進撃速度があまり速くないです。特に方面によってはほとんど前進できていないところがあります。

ウクライナ軍が南に攻めていくだろうということ自体は世界中の軍事専門家が予測していましたが、ロシア軍も当然、予測しているので、ものすごく分厚く要塞化したわけです。

陣地を掘って、部隊も集結させたので、突破するのはなかなか簡単ではないと思います。現状はウクライナが反転攻勢を始めたんだけれども、まだ攻めあぐねています。

ただ、ウクライナ側もロシア側もいまやっているのは前哨戦で、主力の戦力はその後ろに控えさせているとみられているので、現状だけをみて、どちらが有利か不利かは、まだ言えないと思います。

反転攻勢の焦点は?

バフムトの正面なんかでもウクライナ軍は反撃に出ているんですけども、たぶんバフムトを突破してずっと東に行きたいというわけではないんじゃないかと思っています。

あくまでもロシア軍の兵力を引きつけるためにやっていて、本命はやはり海を目指すという攻勢なんじゃないか。そうなると、焦点は南部ザポリージャ州にあるトクマクになると思います。

ロシア軍は、ウクライナ軍の戦車が乗り越えられないように幅の広い溝を作るなど、周到に何重もの防御をしています。ここまでやっているのはトクマクだけです。

トクマクが『交通の要衝』であるということがとても大きいと思います。

おそらくロシア軍としては、トクマクを取られると、その先にある主要都市メリトポリまでやられ、さらにアゾフ海まで突進されるという危機感があり、トクマクを1つの要として厳重に防御しているんだと思います。

いま、ウクライナ軍としては、オリヒウというまちを拠点にしてトクマクを目指すという構成軸が1本あります。

もう1つは、もっと西のドニプロ川沿いのところからで、ここからトクマクを目指しています。結局どっちも海に突進しようと思ったら、トクマクを通ることになります。

それと別に、もう少し東のドネツク州との境の辺りから出発して海を目指すルートで、いま攻撃が始まっています。

こちらはロシア軍の陣地がそれほど分厚くできているわけではありません。ただ、ロシア軍は有力な迎撃部隊を隠し持っていて、ウクライナ軍が要塞線を突破してきたら、それをぶつけることを考えていると思います。

トクマク周辺の衛星画像 ロシア側が掘った塹壕か

ただ現状では、ウクライナ軍がトクマクにたどり着くのは相当大変であろうと思います。

いまはまだトクマクよりもずっと北側の方でウクライナ軍がどうにか突破をしようと図っている最中なので、トクマクが焦点になってくるのはもう少し先なんだろうと思います。

カホウカ水力発電所のダム決壊の影響は?

ダムがあるドニプロ川がロシア軍の占領地域とウクライナ側を隔てている境になっています。

ウクライナ軍は、特殊部隊をちょこちょこ対岸に上陸させて、ロシア軍がしっかり守っていないところにウクライナの旗を立てたり、ボートで渡ってロシア軍の陣地を襲撃して帰ってきたりとか、嫌がらせみたいなことは常にやってきました。

その意図はおそらく、ロシア軍の戦力をなるべくあちらこちらに分散させて、決戦となる南の方面から戦力を引っぺがすということを考えていたと思います。

その中で、今回のダムの決壊というのはウクライナにとってみれば非常に痛いといえます。

ドニプロ川の左岸、ロシア軍の占領地域のほうが水浸しになってしまって、当面、ウクライナ軍が川を渡って反撃にいくということが、まずできなくなってしまったからです。だから、ロシア軍としても一定の兵力を西から東のウクライナ軍が攻めてきている方面に移したと言われています。

ウクライナ軍はオリヒウからトクマクに向けての攻勢が予想外に相当、苦労しているわけですが、もしかすると、ダムの決壊の影響があったのかもしれません。

西側から供与された戦車の損失どうみる?

ウクライナ軍としては、幾重にも塹壕などを掘っているロシア軍の陣地を抜かなければいけないので、まず最先鋒に西側からもらった新鋭戦車を出してきているということだと思います。

ロシア側の陣地ができているということはウクライナ軍も把握しています。この陣地を抜くには、最終的には、戦車や兵隊が突っ込んでいかなければいけないわけだから、大変な犠牲が出るということはわかっています。

ロシア軍の攻撃を受けたとみられる戦車など(ザポリージャ州 6月10日公開)

あるアメリカの論評で「ノルマンディー上陸作戦の初日みたいな状況になる」と言っている人がいましたが、まさにそういう状況だと思います。

その時に考え方が2つあって、まず、敵の陣地に穴をこじ開けるという一番大変な仕事をする部隊は、最新鋭の装備ではなく、むしろ二線級の装備でやらせるという考え方と、あえて最先端に一番強い兵器を持ってきて穴を開けたあと、なんでもいいから数がたくさんある兵器を突っ込ませて戦果を拡張する考え方。

今回、ウクライナ軍は「最先鋒こそ最新鋭の兵器を投入する」というポリシーでやっているようです。この反転攻勢が始まった比較的、最初の段階から西側製の戦車や歩兵戦闘車がやられているという画像がたくさん出回っているのは、そのせいだと思います。

損失はウクライナとしては想定内?

ここまでは予想の範囲内だと思います。

もちろん大変な被害が出ていることは間違いないので、「たいしたことない」とは言いにくいですが、ただそれが想定外かというと、おそらく想定内だろうと思います。

ただ、少し分からないのが本格的な反転攻勢が始まって10日以上たっても、なかなかウクライナ軍がロシア軍の第一線陣地にたどりつくことさえできていない。

これが果たして予想の範囲内なのか、やっぱりダムの決壊の影響とかいろんな計算ミスがあってうまくいっていないのか。ここはちょっとわかりません。

反転攻勢の今後、どう展開?

ウクライナ軍の反転攻勢の進軍が思ったよりも遅れているかどうかは、我々にはわかりません。

ウクライナ軍の作戦計画のなかでは実はもともとこんなものかもしれないという可能性もあります。

多連装ロケット砲で攻撃するウクライナ軍兵士(ドネツク州 4月8日)

ただ、これが仮にウクライナ軍参謀本部の作戦計画よりだいぶ遅れているのだとすると、大規模な戦闘ができる期限が決まっているということが効いてくると思います。というのも、今後、秋に入ると、戦地の地面がぬかるんできて、大規模な戦闘はできなくなってしまうことが、ほぼ宿命的にわかっているわけだからです。

戦闘が止まると、政治情勢によっては「そろそろ停戦を」と言われてしまう可能性もあるので、ウクライナにしてみればそうなる前に、なるべく領土を取り返さなければいけないと考えているはずです。

ウクライナ軍の南進のねらいは?

南に下がっていってアゾフ海までいくと、ロシア軍は西と東に分断されます。東側にいるロシア軍は、ロシア本土とつながっているので、おそらくこちらは持ちこたえると思います。

ところが、西のほうにいるロシア軍はウクライナ本土を通ってしか、ロシア本土とアクセスできなくなってしまいます。ウクライナ軍がここを仮に遮断すると、クリミアのロシア軍が孤立して必要な大量の燃料とか弾薬の補給ができなくなる可能性が高いわけです。

ただでさえ、今回、水源であるダムの決壊によって、クリミアに水がこなくなったわけで、ロシア軍としては軍の兵站線まで切られてしまうとなると相当苦しいはずです。

さらに、もしかしたらウクライナが軍事的にクリミアを取り返しにいくということも考えられないではなくなっています。そういう意味で、このザポリージャから海側に一気に突進できるかどうかということは、非常に大きな意味をもっていると思います。

欧米からの兵器供与の重要性は?

重要になってくると思います。現状では、ウクライナが望む品目はほぼ供与してもらえるようになってきていますが、問題は数があまりないことです。

ウクライナ側は戦車がもっと必要だと求めていて、それに応える動きも出始めています。

一方、ロシア側は苦しくはあるけれど、軍需産業は巨大なので、去年の夏から総力戦体制に移行しつつあります。

増産や24時間操業を始めているので、ここからは、西側の軍需産業力とロシアの軍需産業力の勝負という側面がますます強まってくるのではないかと思います。

戦闘の今後は?終結の見通しは?

戦争なので予測するのは難しいですが、いずれにしてもウクライナ軍が反転攻勢のために作った軍全部はまだ戦場に出ていないとみられます。

だからウクライナ軍にしてみれば、残っている予備戦力をぶつけて拳で壁を突き破るようにして海まで突進する。これがもうほぼ全てになると思います。これができるかできないか。

それに対して、ロシア軍が耐えきれるのか、耐えきれないのか。これもロシア側の戦力がはっきりとは分かっていないので、はっきりしたことは申し上げられないです。

もう1ついえることは、間違いなくこの戦争がことし中には終わらないと言うことです。

奪還した集落に掲げられたウクライナ国旗(ドネツク州 6月13日)

仮に今回のウクライナ軍の反転攻勢が最大限うまくいったとしても、ヘルソン州からザポリージャ全域を取り返すことができればベストシナリオなんだと思います。

それでもまだクリミアやドンバス、北のルハンシクが残っているわけですから、おそらく戦争自体は1年や2年かかると思います。

となると、ことしの秋以降に、アメリカ製のF16戦闘機やM1戦車の供与といった軍事援助の強化が見込まれるので、ウクライナとしてみれば、来年以降の反転攻勢にもおそらく望みをつなぎたいというふうに思っているでしょう。

一方、最近のロシア側の発言を聞いていても、この戦争を諦める気は全くないようなので、ウクライナ側の第2、第3の反転攻勢と、それに対するロシア軍の逆襲というものがまだ続くと予測しています。

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