2023年5月25日
ウクライナ ロシア

ロシアに衝撃 ウクライナ側に立つもう1つの『ロシア軍』とは

今月22日、軍事侵攻を続けるロシアに衝撃が走りました。

ウクライナと国境を接する西部の州で戦闘が起きたのです。

ロシアはウクライナによる攻撃と発表しましたが、ウクライナ側はこれを否定。

一方で、ウクライナ側に立つロシア人などの義勇兵を名乗る2つの組織が関与を主張しました。

いったい彼らはどういう存在なのか?ウクライナ軍と関係はあるのか?

ウクライナ軍の幹部に、反転攻勢に向けた最新の動きとともに、話を聞きました。

(国際部記者 野原直路)

ロシア国内で何が起きた?

今月22日、ウクライナと国境を接するロシア西部・ベルゴロド州の州知事が、ウクライナの工作員が州内に侵入し、銃撃や無人機による攻撃を受け、戦闘が起きていると発表。

これに対し、ウクライナ側は関与を否定しました。

一方、ウクライナ側に立って戦うロシア人などの義勇兵を名乗る2つの組織がSNSで、ロシア領内に入りベルゴロド州で戦闘を行っていると主張。

イギリス国防省も「ベルゴロド州の国境近くの少なくとも3か所でロシア治安部隊とパルチザン組織が衝突した可能性が高い」などと指摘し、攻撃はプーチン政権に反発するロシアの反体制組織によるものだという見方を示しました。

ロシア人などの義勇兵を名乗る2つの組織とは?

ロシアのベルゴロド州に侵入し、戦闘を行っていると主張しているのは、ロシア人などの義勇兵を名乗る「自由ロシア軍」と「ロシア義勇軍」です。

「自由ロシア軍」(2022年8月)

組織の規模など詳しいことはわかっていませんが、欧米やロシアのメディアによりますと、「自由ロシア軍」は、ロシアによる軍事侵攻が始まった直後にあたる2022年3月に結成され、ロシア人やベラルーシ人などで構成されているということです。団体のウェブサイトでは「ウクライナ軍と協力し、ウクライナの指揮下で活動している」と記されています。そしてプーチン政権の打倒を目標に掲げています。

「ロシア義勇軍」(2023年5月)

一方、「ロシア義勇軍」は2022年8月に極右のロシア人たちによって設立され、ウクライナ側に立って戦闘を続けているということです。

2023年3月には、ウクライナと国境を接する西部のブリャンスク州で、ロシア側はウクライナから武装集団が侵入したと発表していて、「ロシア義勇軍」がSNSで関与を主張していました。

さらに今月22日以降もSNS上で「戦闘員が再び祖国を訪れるだろう。戦闘の炎が燃え上がる」などと投稿。ロシア側から奪ったとする軍用車両などの映像を公開しています。

話を聞いたのはウクライナ軍大佐

ウクライナ軍 ロマン・コステンコ大佐

戦闘の衝撃が走るなか、急きょ話を聞いたのは、ウクライナ軍の大佐ロマン・コステンコ氏です。

コステンコ氏は2022年10月、日本に支援を呼びかけるウクライナ議会の議員団の一員として来日しました。

これまでに南部ヘルソン州の奪還作戦に従事したほか、ウクライナ軍の幹部として、各前線にいる兵士とも常に情報交換をしています。

23日、NHKの取材にオンラインで答えました。

(以下、コステンコ大佐の話)

ロシアで戦闘を行ったという2つの組織はどんな存在か

彼らは、プーチン政権に反対するロシア人であり、自分の意思で戦っています。ロシアで圧政が行われる中、解放のために「プーチンの軍」と戦う『ロシア軍』なのです。

私たちも、ロシアの現体制に罪があると考えているから、彼らを応援しています。

ウクライナ軍との関係は?

ロシア義勇軍のYouTubeとされる動画より

いまロシアで起きていることは、彼らだけで行っていることです。

彼らは私たちウクライナ軍の誰かによって調整されているとは思いますが、彼らにはプーチン大統領の軍隊を倒すという、彼ら自身の目標があります。戦争においては、なんらかの調整なしに、銃器を持って自由気ままに戦うことは不可能です。ですから、なんらかの調整はあったでしょう。

ウクライナ国内では、多くの外国人が戦ってくれています。ウクライナ軍には「外国人部隊」があって、合法的に戦闘に参加しています。

ウクライナ軍は今回の戦闘に加わっている?

ロシア義勇軍のYouTubeとされる動画より

(戦闘を行ったとする組織は)今回の行動は、自分たちだけでやっているとしていて、プーチン政権を打倒し、ロシアを解放するためのものだと主張しています。

私たちは彼らを応援してはいますが、私たちは、自国の領土の解放を進めているのであって、『ロシアの土地』を求めてはいないのです。

ベラルーシを見てください。ベラルーシはロシアを助けています。同様に私たちも、ウクライナ人を殺害するロシアの政権と戦うあらゆる存在を、応援する権利を持っているのです。

もしロシア人が、自分の国に不満を持ち、行動を起こそうとするのであれば、それは彼ら自身の問題です。

反転攻勢に向けた準備は?

前線の多くの場所では、目立った変化がありません。いま重要なのは、ウクライナとロシアの均衡を崩すことです。「反転攻勢」と呼ぶ人もいますが、私は「春から夏にかけての作戦」と呼びたいと思います。

バフムト方面に砲撃するウクライナ軍の兵士ら(2023年4月)

それは、単純な作戦ではなく、攻撃と防御それぞれの作戦の組み合わせになるでしょう。夏の終わりから秋の中頃までには、その後の戦争の行方がどうなるか、分かるようになるはずです。

「春夏作戦」のために、私たちはそれなりの量の兵器を蓄えてきましたが、ロシア軍の兵器の備蓄はウクライナの何倍もあります。私たちは少なくとも、航空戦力と砲撃において、優位に立つ必要があります。

反撃を成功させるだけの兵器は足りている?

ウクライナがこれまでに供与を受けた兵器には、最先端のものが含まれます。そうした兵器の性能のおかげで、相手より少ない戦力で、ロシア軍に対してより多くの損害を与えることができます。

F16戦闘機 2014年ベルギーにて

いま「戦闘機連合」で議論がされていますが、将来、F16や、スウェーデンのグリペンといった戦闘機が供与されれば、ウクライナの空を守り、戦力を高めることになるでしょう。

また、ミサイルや射程の長い兵器といった、これまでに供与を受けた兵器について、さらに量を増やしていく必要があります。ロシアはソビエト時代を通じて、ずっと戦争に備え続けてきたからです。

反転攻勢が成功するかどうか?

よく使うたとえですが、(いまの状況は)2人の強いボクサーが、リング上で殴り合っているようなものなのです。どちらが勝つか、誰にも分かりません。

ゼレンスキー大統領は、「(もうすぐ)反転攻勢の準備ができる」と発表しています。ただもちろん、補充のための兵器は必要になります。多くの損失が生じるかもしれず、絶えず兵器の支援を受ける必要があります。

ロシアが「掌握」を主張する激戦地・バフムトの状況は?

バフムトの前線近くに展開するウクライナ軍の戦車(2023年4月)

いまもウクライナ軍が街の小さい区画を保持しています。現地からの情報によれば、バフムト郊外の標高の高い場所を確保していて、それがロシア軍の攻撃を防いでいます。

ウクライナはバフムトの一部を守っていますが、ロシアも前進を図っていて、厳しい状況が続いています。

G7広島サミットにゼレンスキー大統領が対面で参加した意義は?

G7広島サミットで記念撮影するゼレンスキー大統領と各国首脳ら(2023年5月)

決定的に重要な出来事でした。出席した国々の首脳と、ゼレンスキー大統領との間で温かなコミュニケーションがとれたようでした。各国から支援に理解を得ること、そしてインドも含め、各国から支援を受けることは非常に重要です。

取材後記

コステンコ氏は取材を通じて、今回ロシア西部で起きた戦闘に、ウクライナ軍は関与していないと強調しました。

一方でウクライナ国内においては、ロシア軍と戦うために、世界中のさまざまな場所から義勇兵が集まっているとも語りました。

今後、始まるであろうウクライナ側の反転攻勢に、こうした存在が、どのような影響を与えるのか、注目していく必要があると感じました。

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