2024年2月16日
NATO スウェーデン ウクライナ ロシア

プーチン氏の誤算?中立政策転換スウェーデンのねらいとは?

「われわれはバルト海で潜水艦を運用し、ロシアを対象とした強力な情報機関なども持っている」

こう話すのは、長年、保ってきた軍事的中立を転換し、NATO加盟にかじを切った北欧スウェーデンのヨンソン国防相です。

ロシアによるウクライナ侵攻からまもなく2年となる中、NATO加盟を目前にしたスウェーデンの国防相に、そのねらいや今後のウクライナ支援について聞きました。

(国際部記者 高須絵梨)

中立政策を転換したスウェーデン

東西冷戦中も軍事的中立を保ってきた北欧のスウェーデン。

ロシアによるウクライナ侵攻を受けて2022年5月、隣国フィンランドとともに、その安全保障政策を大きく転換し、NATO=北大西洋条約機構への加盟を申請しました。


フィンランドのNATO加盟は2023年4月に実現した一方、スウェーデンについては、トルコが自国からの分離独立を掲げるクルド人武装組織のメンバーなどをスウェーデンが支援していると主張し、対策を求めていたほか、ロシア寄りの姿勢を示すハンガリーの承認も進まず、長く加盟に向けた手続きが停滞していました。

しかし、トルコ議会がことし1月にようやくスウェーデンのNATO加盟を承認したのに続き、ハンガリーのオルバン首相も議会に承認を急ぐよう促す考えを示し、スウェーデンのNATO加盟に向けて、大きく前進しています。

これまで堅持してきた「軍事的中立」を放棄して、NATO加盟にかじを切ったねらいは何なのか、今後のウクライナへの支援をどう考えているのか。

首都ストックホルムで、ヨンソン国防相がNHKのインタビューに応じました。

インタビューに応じるスウェーデン ヨンソン国防相

(以下、ヨンソン国防相の話。インタビューは2月5日に行いました)

なぜNATO加盟を目指す?

NATOの加盟国とパートナーの間には違いがあるからです。

スウェーデンはもともと、NATOに加盟する計画はなく、ロシアがウクライナに軍事侵攻を行ったことで、加盟しようという動きになりました。


ウクライナ侵攻が始まったとき、われわれが出した結論の1つは「加盟国とパートナーの違いがウクライナで露呈した」ということでした。

ウクライナはNATOのパートナーです。NATOはパートナーを支援しますが、加盟国が武力攻撃を受けた場合は、その国を防衛します。つまり、集団的自衛権の行使が規定されている北大西洋条約第5条が適用されるには加盟国でなければならないのです。

ロシアとしては、スウェーデンとフィンランドをNATOの外に置いておくことが目的だったと思います。しかし、ウクライナ侵攻の結果、スウェーデンとフィンランドはNATOへ加盟することになりました。

国民にはどう説明する?

ロシアのウクライナ侵攻によって、安全保障環境が大幅に悪化したためだと説明します。

武力攻撃にさらされた場合に防衛してもらいたいのであれば、援助を受けることを望む前に、NATO加盟国になることが不可欠です。

ロシアは、大きな政治的、軍事的リスクを取ることをいとわない国であると同時に、戦場において大きな残虐性を示す国です。私はロシアが侵攻したウクライナのブチャやイルピンなどを訪れ、ロシアが行った行為を目の当たりにしました。

ロシアが侵攻したウクライナ ブチャ(2022年4月)

NATOは歴史上、最も成功した軍事同盟であり、一度も武力攻撃にさらされたことはありません。そのNATOの正式メンバーになれば、北大西洋条約第5条とNATOの共通防衛計画の適用を受けることになるのです。

ハンガリーに対する働きかけは?

もちろん、ハンガリーと話し合っています。また、軍事面でもハンガリーとは良好な協力関係を築いています。


もちろん最終的には、ハンガリーの議会が決めることです。しかしハンガリーは批准するつもりだと言っており、私たちはもちろんできるだけ早くそうなってほしいと思っています。

これはわれわれの安全保障にとって重要であり、NATO全体の安全保障にとっても重要なのです。スウェーデンには、NATOをより強固なものにするための資産と能力があります。

そしてスウェーデンの領土がNATOの領域となることで、フィンランドとバルト3国の信頼性を高めることになるでしょう。

スウェーデンの加盟で何が変わる?

スウェーデンが加盟すれば、NATOの北側全体に安定をもたらし、NATOの抑止力と同盟全体の防衛能力を高めることになります。これが重要なポイントだと思います。

NATOの防衛力を強化することは非常に重要なことであり、北欧諸国間の協力関係も深まりやすくなります。

NATO加盟国との演習にスウェーデン軍も参加(2022年6月)

北欧5か国すべてが初めて、同じ安全保障の枠組みに入ることになるからです。

そして、NATOの共通の防衛計画を持つことになります。それは軍事的な機動性や相互運用性など、あらゆるものを強化するために重要なことであり、われわれはより強い協力関係を築くことができます。

スウェーデンの加盟によって、NATOは北側を強化することができるのです。

スウェーデンはNATOにどう貢献する?

スウェーデンは小国でありながら強力な防衛産業の基盤があります。戦闘機、潜水艦、水上戦闘機、砲兵システム、先進的な歩兵車両を生産できる1000万人規模の国はスウェーデン以外にありません。

スウェーデン海軍の潜水艦 ゴットランド

NATO加盟国への攻撃の抑止力と防衛に貢献できることがたくさんあると思います。

1つはバルト海に関するわれわれの能力です。われわれはバルト海で潜水艦を運用し、潜水艦を製造できます。

パトリオット・システムによる強力な防空能力もあり、90を超えるグループによる強力な防衛産業の基盤を有しています。特に、ロシアを対象とした強力な情報機関などもあり、地理的にも北欧諸国の中心に位置しています。

防衛費に関してもかなり力を入れていて、2024年は2020年と比べると2倍、GDPの2.2%に達しています。私たちは安全保障を提供する国になることを目指しているのです。

ウクライナの戦況どうみる?

これまでのところ、ロシアが支配しているのはウクライナ全土の18%に満たず、この戦争がロシアにとって成功しているとは言えません。

しかし、今われわれが確認しなければならないのは、ウクライナの人たちに対する支援を続けること、特に、砲弾と防空システムの両方を提供することが非常に重要です。


また、ウクライナをEUやNATOの加盟国として迎え入れ、できるだけウクライナを支援することも重要です。

ウクライナは多くの国から武器の供与を受けていますが、新たに生産された武器を提供することも重要な段階にきています。

ウクライナへの支援は?

スウェーデンはウクライナに対して非常に大規模な支援を行ってきました。20億ユーロ以上の支援を行いましたが、これはもちろん正しいことであり、賢明なことです。

ウクライナを支援することで、ルールに基づく国際秩序と、自由で独立したウクライナを支持しています。

われわれはウクライナに歩兵戦闘車CV90を提供し、ウクライナで非常に良い成果をあげています。また、「アーチャー」という最新鋭の自走式りゅう弾砲や戦車のレオパルトも供与しました。

ゼレンスキー大統領との共同会見に臨むスウェーデン クリステション首相(2023年8月)

これら3つの異なる種類の兵器を提供することで、ウクライナ側には、砲兵、戦車などを組み合わせた統合戦を行う能力が生まれます。

ですから、私にとっても重要なのは、単にこれらを供与するだけでなく、ウクライナ側がこうした兵器を使って作戦を達成できるようにすることです。

ウクライナ東部で任務を遂行できるようにするためには、補給と弾薬の維持が極めて重要なのです。また、より多くのウクライナ兵を訓練することも非常に重要だと考えています。

スウェーデン製戦闘機「グリペン」の供与は?

「グリペン」を供与するかどうか決めるには、スウェーデンがNATOの加盟国でなければなりません。供与については国際協力の中で決定されなければならないことです。

スウェーデン製戦闘機「グリペン」

グリペンはわれわれのニーズと能力に合わせた戦闘機です。運用が簡単でコスト効率に優れているため、非常にすぐれた戦闘機であり、私たちの周辺で起こりうる脅威に対応しています。

ロシアによるウクライナ侵攻から学んだ教訓のひとつは、強力な防衛産業の基盤が信頼できる抑止力の一部になるということです。

この戦争は消耗戦であり、戦場での勝利を確実にするためには、強力な防衛産業を持つことが非常に重要なのです。

(2024年2月8日 おはよう日本で放送)

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