2024年3月1日
プーチン大統領 ウクライナ ロシア

プーチン氏は戦争をやめない!再びキーウ侵攻?侵攻2年を分析

「この戦争が4年目にもつれ込むことはおそらく確実だ」

3年目に突入したロシアによるウクライナへの軍事侵攻。すでに来年以降も戦争が続く可能性を指摘するのは、国内きってのロシア軍ウォッチャーの東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠准教授です。

ウクライナ軍の反転攻勢が“失敗”した一方、小泉氏はロシア軍も戦局を一気に変えるほどの能力はないと分析。“プーチンの戦争”はさらに長期化すると予見します。

戦局のカギを握るのは、やはりあの大国。そして、日本が議論を始めるべきこととは。

(国際部記者 大石真由)

※以下、小泉氏の話(インタビューは2024年2月23日)

この1年の戦況をどう見るか?

去年(2023年)2月ごろと現在の戦況図を比べてみると、ほとんど変わっておらず、この1年を大きな視点で見ると、こう着状態が続いてきたといえると思います。

ウクライナ戦況地図
  • 2022年2月24日
  • 2024年2月28日
下のバーを左右に動かすと、
戦況の経過がご覧いただけます

この戦争は戦術レベルで見ると、攻める側にとって著しく不利な戦争になっています。古典的な塹壕とドローンのような新しいテクノロジー、そして動員できる兵力が、ロシアとウクライナ双方で拮抗しているからです。こうしたいろいろな条件が重なった結果、攻めるのがすごく難しく、守る側のほうが優位な戦争になっているということがいえると思います。結果として、戦況は大きくみると変わっていません。

ただ、そのなかで戦況を動かそうとする動きはあったわけです。1つは去年夏にウクライナ軍が行った、いわゆる反転攻勢で、これはうまくいっていない。

その後、ロシア軍がウクライナ東部で攻勢に出て、アウディーイウカという都市を落としました。ただ、ロシア軍もいくつかの局面で圧迫をかけていますが、大突破を行って戦線の形を大きく動かすような力になっているかというと、そうはなっていません。

ロシア国旗が立てられたドネツク州ラストチキノ

今はロシアが攻めるフェーズになっていて、おそらくこれから先も、いくつかのウクライナの都市がロシア軍の制圧下に入るということはあるだろうと思っています。ただ、それによってウクライナ側にとって戦争の継続が不可能になるということには当面はならず、この先1年くらいは見通せるのではないかと思うんですね。

アウディーイウカからの撤退、ウクライナ側には痛手では?

アウディーイウカの攻略でロシア軍が用いた方法は、同じ東部の要衝バフムトの攻略の時とよく似ています。

囚人兵を大量に動員して、ものすごい数の人間を死なせて、代わりにわずかずつでも前進する。これを続けた結果として、ウクライナ軍は背後の補給ラインを遮断され、ある程度のところで撤退するしかないという状況になりました。

ロシア国防省が2024年2月28日に公開したウクライナ東部・アウディーイウカの様子

ただ、私はアウディーイウカの掌握が戦略レベルでものすごく大きなインパクトを持つかというと、そんなに大きなものではないだろうと思っています。

都市ですから道路がいくつか結節点があるとか、そういう意味での要衝ではあるんですけれど、戦略レベルでいえば、アウディーイウカが落ちたからといって、ウクライナ側が戦争を継続できなくなる、そういう意味での要衝ではないんですよね。

去年夏にウクライナ軍が反転攻勢で狙いにいったロシアの支配下にあった南部ザポリージャ州のトクマクやメリトポリは、本当の意味で要衝です。ここが落ちると、ロシア軍の兵たんとか防衛戦略が崩壊しかねないというところで、ウクライナ軍も狙いにいき、ロシア軍も要塞を固めていたわけです。

一方で、アウディーイウカやバフムトはそうではないんです。ただ、こういうことがいくつも続いていくと、ロシアの支配地域はじわじわと増えていくわけです。そのことがウクライナ国民の士気や、支援している国際社会側が「これだけ支援しているのに全然だめじゃないか」という世論になってしまう、こうした影響のほうが大きいのではないかと思います。

ウクライナの反転攻勢はどうなる?ロシアは掌握地域を広げる?

ウクライナ軍は当面、大規模な攻勢を行う能力がないのは明らかだと思います。去年夏から秋にかけての反転攻勢で相当戦力を消耗していて、明らかに再編成が必要なんです。

ロシア軍からすると、自分たちが圧力をかける側に回るんだということなんだと思いますが、ロシア側も、大規模かつ調整された攻勢を行う能力がないだろうと思います。

なぜならこの2年の戦争で、ロシア軍の中でも現場で指揮官を務められるような職業軍人が相当犠牲になっているからです。兵隊自体は動員や高給で集められているようなんですが、そういう人を組織化して戦わせられる現場指揮官が相当足りないだろうと思います。

兵器は増産できて足りているので、現場の1つ1つの局面でみると、おそらくロシア軍は依然として強いはずです。ただ、数の相乗効果をなすような組織化が、相当弱いんじゃないかというふうに私にはみえます。

ロシア軍が今後もじわりじわりと支配地域を広げて進めていくとは思いますが、戦局を一気に変えるような決定的な行動をとることは、これから先もしばらく難しいのではないかと考えています。

北朝鮮やイランがロシア軍を支えている?

ロシア軍はこの戦争1年目に榴弾砲の弾を大体1000万発撃ったと言われています。ただ、ロシア国内での生産能力はだいたい年間200万発くらいで、今、増産をかけているんですけど、エストニア国防省のレポートによると、350万から400万発くらい生産できるだろうという推定なんです。

これまでは、ためていた在庫と、新たに生産した弾で年間1000万発の砲撃能力を維持していたわけですが、おそらく在庫はほぼ使い切っていると考えられます。そして、新たな生産分は頑張っても年間400万発だとすると、どこかからもってこないと、これまでの火力を支えきれないわけですよね。

ロシア軍の大砲に合う弾を持っていて、なおかつ政治的に供給してもいいという国は世界でもほとんどないわけです。そのなかで、北朝鮮が弾を供給してくれているらしい、イランも供給しているらしいと言われている。

ロシアを訪問しプーチン大統領と握手する北朝鮮 キム・ジョンウン(金正恩)総書記 (2023年9月)

供給量はイランはそんなに多くないと思う一方で、北朝鮮は100万発、またはもっと多いと言われています。仮に100万発だとすると、ロシア軍が1日に1万発くらい榴弾砲を撃っていると言われていますから、大体100日分くらいにはなります。3か月半くらいのロシア軍の戦闘を支えるだけの弾の供給になるので、これは相当大きいですよね。

今夏にロシア軍の大規模攻勢ある?キーウへの再侵攻は?

この戦争に関して、プーチン大統領が戦争前に言ったことや戦争が始まってから言ってきたことを分析してみると、ロシアとしてはウクライナの土地を占拠することは特に目的ではないのではないかという気がするんです。もっと政治的なもので、ウクライナという国家がロシアに逆らえないような属国になることです。

もしもこれがロシア側の戦争の目的の1丁目1番地だとすると、現状ではまったくロシアは満足できていないということになります。そうなると、どこかの時点でウクライナが国家として組織的な抵抗をしなくなるというところまで、戦争を続ける必要が出てきます。

それを最も早く達成する方法は、首都キーウを侵攻して占拠し、ゼレンスキー政権を瓦解させたうえで、ウクライナ軍を解体してNATO=北大西洋条約機構にも加盟させないことで、このロシア側の原則は揺らいでいないんじゃないかと思います。

キーウへの再侵攻、その手前のハルキウへの侵攻はあり得るだろうと思います。

ただ、キーウに侵攻するとなると、再びベラルーシやロシア西部のベルゴロド周辺に、相当大規模な侵攻部隊を集めるという動きが現れるはずなんです。これはまだ確認されていませんし、ロシア軍は兵士の数は集め直したものの、現場の指揮能力は相当低いと思われるので、今年の夏に発動できるかというと、ちょっと厳しいのではないかという気はします。

いつまで戦争続く?停戦や終結の可能性は?

ロシアのプーチン大統領からみると、戦場の現実はまったく不満足で、いまロシア軍がおし始めている状況は悪くはない、とみているとすると、「ではこの先2年でも3年でも続ければいいのではないか」というような話になる可能性は高い。

逆にウクライナ側からみると、そもそもウクライナという国家そのものが存続できるかどうかという瀬戸際なので、なかなか停戦に応じにくく、今後もこの戦争が終わらないであろうと。

ウクライナとしては今、停戦の話をするのはすごく不利なので、まずそういう話を持ち出さないだろうと思います。

というのも、ロシア軍はウクライナの国土の18%くらいを占拠していて、ウクライナ側がこれをすべて取り返すことは軍事的になかなか難しいけれども、少なくとも占領地域が17%、16%、15%になるという状況を見せつけないと、プーチン大統領に話し合おうじゃないかと言わせられないだろうと思います。こうしたことからも、ウクライナ側としては、ロシアと話し合いに持っていくためにも軍事的に有利な状況を1回つくるしかない、というのが私の考えです。

このため、この戦争はまだ長く続くと思います。今まさに3年目に入るところですけど、どちらも決定打を得られなくて、おそらく4年目にもつれ込むことが確実なんじゃないかということが、私も含めて多くの軍事専門家が考えているんですよね。

この戦争はテーブルの上で話し合って終わらすことは非常に難しくて、どちらかというと戦場の現実をテーブルの上に反映させるという終わり方になるのではないかと思うんですね。

ということは、戦場の現実の方をロシアに一方的に有利な形にはしないということが求められると思うので、そこで日本を含めたG7として何ができるのかが問われると思います。

ウクライナ国内の世論は?えん戦気分は?

ウクライナでは、2年もたってうんざり感が出てくるのは当然だろうと思うんですね。

ただ、もう何もかも売っちゃってロシアの支配下に入って生きていけばいいじゃないという人は依然としてあまり多くなさそうなんですよね。うんざりはしながらもやることはやるしかないんじゃないかというのが、ウクライナ世論の正直なところではないかと感じています。

侵攻から2年 キーウ市内の壁には所狭しと戦死した兵士の写真が(2024年2月24日撮影)

ただ、気をつけなくてはいけないのが、この2年間は戦争に耐えてきたけど、動員された人とされてない人がいて、動員された人やその家族は圧倒的に不公平感を持っているわけです。その中には死んでしまった人もいるわけです。あるいは、戦場で命をかけている人がいるかと思うと、国防省の高官が汚職をしているとか、そういう不満は国民には間違いなくたまっているわけです。

だから支援する側のわれわれとしても、ウクライナの主権が侵されることは認めがたいので支援する、あるいは将来的にNATOやEU加盟の話はするけれども、それと同時にウクライナの国のあり方をもう少し考え直してくださいと言い続けていかないといけないと思います。それが結果的にウクライナの抵抗を、より効率的なものにするし、士気を支える部分でもあると思っています。

ロシア国内の世論は?

おそらく大部分のロシア国民にとって、戦争はテレビの向こうのことなんですよね。

今、戦争経済でロシアの経済は潤ってはいるので、給料も上がっているし、GDP成長率も高いと報じられているし、なんとなく変な『多幸感』があると思うんです。私は長い間、ロシアに行けていないので、ロシア社会がどんな雰囲気かわかりませんけど、伝わってくる話や新聞の見出しを見ていると、そういう感じがします。

賑わいを見せるモスクワ市内のショッピングモール(2024年2月17日撮影)

いますぐに国民がこの戦争に『NO』という声をあげるだろうという期待は持っていません。

もっといえば、プーチン大統領が言うウクライナを取り返す、アメリカにひと泡ふかせてやるんだというようなナショナリスティックなスローガンがある程度人々の心を捉えている部分もあるんじゃないか、これも現実として考えるべきではないかと思います。

ロシア人のなかにうんざり感が広がっているのは広がっていても、もう戦争はやめようという方向に大多数の声が向かっていかない。ロシア、ウクライナ双方がうんざりしながらも、戦争はやっぱり継続していくということが予想されると思うんですよね。

ロシアの脅威、ヨーロッパへの影響は?

ヨーロッパで大規模な戦争が起こっていることがニューノーマルになるということだと思います。

エストニアに行ってきたばかりですが、エストニアは実際にロシアと国境を接していて、すぐそこにロシアが見える。そういう国民からすると、国土が侵されることが将来の可能性というよりも、明日にも起こりうることなんだという非常に強い危機感につながっているわけですね。

ヨーロッパにおいて、冷戦そのものとは言わないですが、冷戦期に近い『軍事的緊張』が戻ってきて、なおかつ、これが長期的に続くということが考えられると思います。

揺れるアメリカ国内、どう影響?

アメリカの対ウクライナ支援が完全に止まったらどうか、あるいはバイデン政権が要求している610億ドルの対ウクライナ支援の予算が通って、アメリカがフルに支援を再開できたらどうか、両極端で考えられます。

アメリカ議会 下院

対ウクライナ支援の予算がこの春までに通るのであれば、ウクライナは2025年以降に再び反転攻勢に出られるだろうと思います。この場合はロシア側から大幅に土地を取り返して、そのことを材料として停戦交渉に入る道筋が見えてきます。4年くらいで戦争を終わらせられるかもしれないという望みにつなげることになるわけです。

一方で、アメリカの支援が止まり、EUが約束している4年間で500億ユーロの軍事援助資金と、イギリス、ドイツ、フランスの2国間軍事援助だけで、ウクライナ軍が戦力を再編して反転攻勢に出なければいけないとすると、これは不可能ではないにしても時間がかかると思います。今、想定される1年ではおそらくできず、2年とかかかってしまう。とすると、ウクライナがようやく反転攻勢に出られるのが2026年とかに想定されるわけで、これは戦争5年コースに入っていくわけです。

アメリカの支援が入ってくるかこないかは、この戦争が中期で終わるのか、長期のベトナム戦争のような長い戦争になってくるのかの境目だろうと思っています。

ただ理屈の上ではウクライナがもう2年かけて軍を再編成して、反転攻勢に出るということは考えられますが、その前にウクライナ国民の抵抗の意思や周辺国の支援の意思がついえてしまう可能性もあるのではないかと心配しています。

いずれにしても、アメリカが大きく鍵をにぎる部分になるのではないかと思っています。

日本はどうする?

いろいろな考えがあると思いますけど、安全保障の専門家としては、大規模な侵略が可能性の問題ではなく、本当にありうる、いま起こっている。こういうことが21世紀半ばに当たり前になってしまうのは、極めて日本にとって不利だと思うんですよね。

そういうことをしようとした国はあったけどうまくいきませんでした、結局いいことはなかった、というふうに落ち着かせるのが日本の国益だと思うんですよ。そのためにやるべきことはやるべきだと思っています。

岸田首相 キーウ訪問(2023年3月)

現状、日本政府は2014年の最初のロシアの侵略※の時と比べると、非常に熱心に対応していると思います。巨額の民生支援や、G7の足並みを乱さないようロシアに厳しい経済制裁を行うなど、大変評価できると思います。

今後はウクライナの抵抗を直接支えるような軍事支援、例えば武器を供与したり、武器を買うお金を支援したりすることに踏み込むかどうかです。まさに日本人として、どういう国家のあり方を望むかという哲学的な問題なので、これが正解とはいえませんけれども、議論はしてもいいのではないかと思います。

※2014年にプーチン政権が後押しする親ロシア派が、ロシア系住民が多くを占める南部クリミアで住民投票を強行。プーチン政権は圧倒的多数の賛成を得たとしてクリミアの併合を一方的に宣言した。さらに東部のドネツク州とルハンシク州ではロシアの後ろ盾を受けた親ロシア派の武装勢力が支配地域を広げ、ウクライナ軍との間で戦闘が続いた。

東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠准教授

(2024年2月24日「おはよう日本」で放送)

こちらもおすすめ

国際ニュース

国際ニュースランキング

    世界がわかるQ&A一覧へ戻る
    トップページへ戻る