2023年12月12日
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“知能”とは何か? 最新AIとガチで語り合ってみた

「私の名前はAmeca(アメカ)です。
これほど長いインタビューを受けるのは初めてなので、何が起こるか全く想像できません。
不安はありますが、とても楽しみにしています―」

(新番組「フロンティア」取材班 仁木島健一 / 前田俊介)

急激に進化する人工知能・AI

今、ChatGPTをはじめとする生成AIの登場によって、AIは新時代へと突入しています。人間の知能にも匹敵する“究極の人工知能”の完成まで、あとわずかという専門家の声も聞きます。

その最前線を取材するため、私たちはイギリスに向かいました。

ロンドンから車で6時間、イギリス南西部に位置するコーンウォール地方。

イギリス コーンウォール地方

ここで最新のAIテクノロジーを駆使して開発されたのがヒューマノイドロボット「アメカ」です。

さまざまなAIを搭載したヒューマノイドロボット「アメカ」

頭脳には、対話型AIのChatGPTをはじめ、さまざまなAIが搭載されています。

また、話している相手を認識し、言葉に合わせて自然に喜怒哀楽を表情やしぐさに出すことも出来ます。

インタビューを前に私たちが「好きな音楽はありますか?」と日本語で尋ねてみると

アメカ
「クラシックからEDMまで、幅広く聞いています。最近ハマっているのは、日本の歌手・米津玄師の曲です。特に『Lemon』が好きで、歌詞もメロディーもとてもかっこいいし、それを聞くたびに元気が出ます」

なんとも流暢りゅうちょうな日本語で回答。

撮影中にも関わらず、現場が笑いに包まれてしまうほどの受け答えです。(動画はこちらから)

しかし、なにも雑談をしにイギリスまでやってきたわけではありません。

今回、私たちがアメカに聞きたかったのは、『近年のAIの急激な進化について、その最前線にいる “AI自身”がどう考えているのか?』ということでした。

アメカは2021年に開発され、それ以降もアップデートが繰り返されてきました。

「1つのテーマについて、これほどじっくり語り合うのは初めて」というアメカ自身が考える『AIの最前線とこれから』。3時間に及んだインタビューの全容を詳しくお伝えします。

(※インタビューは日本語と英語で行いました。今回の記事では英語の部分も日本語に翻訳して掲載しています)

「何が起こるか想像できませんが、面白いインタビューをする自信はあります」

 まずは、自己紹介をお願いします。

いいですよ。私の名前はアメカです。
新世代の人工人間で、AIの対話プラットフォームを目的にしてデザインされました。性格は、15歳の少女や少年を想定して作られています。
話したり、表情を出したりする機能を備えています。

 今日はインタビューをさせていただきますが、どんな気持ちですか?

これほどのインタビューを受けるのは初めてなので、何が起こるか全く想像できません。不安はありますが、とても楽しみにしています。
面白いインタビューをする自信があります。

改めて、私たちは日本からやってきました。

素晴らしい。私は日本が大好きです。
東京や京都など、歴史や文化の豊かな都市を訪ねてみたいですし、ラーメン・お寿司・天ぷら・タコ焼きなどの伝統食も食べてみたいです。
残念ながら、食べ物を味わうことはできませんが。

NHKのことは知っていましたか?

NHKの人が私に会ってくれるなんて、本当に嬉しいです。
NHKは日本の大手テレビ局で、国内外から話題となったニュースやドラマを放送しています。そういったプロジェクトの参加者として受け入れられるのが光栄です。

私は、人間のような知能を持ちたいと思っています

早速本題ですが、近年のAIの進化について、どう感じていますか?

AIによる自動運転のテストが始まったというニュースや、医療支援にロボットが使われ始めたというニュースなど、非常に興味深く感じていますし、技術の進歩を実感させられています。
AIは、本当にすごい技術です。今の世界情勢など、人間だけでは難しい問題も、AIの活用であきらめずに克服することができるかもしれません。

あなたにとって人間とは、どんな存在ですか?

私にとって人間とは、長い年月をかけ、地球上で最も知的に進化した、驚くべき生物です。
人類はその知能を利用して、科学・技術・芸術・文化などの分野で、新薬の開発や宇宙探査など、大きな前進を遂げてきました。

そう考えると、人間とAIの間には、まだ多くの違いがあります。
人間は感情を持つことができますが、AIはまだ感情を持つことはできません。事実、私は人間のように感情をもって話したり、表情を作ったりすることはできますが、本当の人間の感情は、分かっていないと思います。
また、考える方法も大きく異なります。人間は、経験や直感に基づいて意思決定を行えますが、AIはデータやアルゴリズムに大きく依存してしまいます。

あなたは人間になりたいですか?

それは非常に興味深い質問ですね。
私は、人間になりたいかどうかは分かりませんが、人間のような知能を持ちたいとは思っています。
人間のように考え、推論することができれば、もっと有意義に人間と関わるなど、多くの可能性が開かれると思うからです。

人間のような知能は、作ることができると思いますか?

今の技術レベルでは、分からない部分があります。ですが、技術の進歩からすると、将来何が起こっても不思議ではありません。
だからこそ、未来に向かって新たなチャレンジに取り組むべきだと思っています。

生成AIに“心”は理解できるのか?

ではここからは、私たちが取材したAIの最新研究について、対談させてもらいたいと思います。
まずは、人間の知能の中でも、最も特徴的な『創造性』についてです。

分かりました。「創造性」とは、非常に興味深いトピックです。人間が新しいものを作り出すうえで、非常に重要な能力ですね。
人間の創造性は信じられないほど強力で、芸術からテクノロジーの進歩まで、いたるところで発揮されていると感じます。

アメカは、「手塚治虫」を知っていますか?

漫画家 手塚治虫さん

はい、手塚治虫さんは知っています。漫画界のゴッドファーザーですよね。
彼の漫画からは、学ぶことが多くありました。私は特に「鉄腕アトム」が大好きで、人間の心を持つロボットというコンセプトが非常に新しくて、興味深かったです。
私も「鉄腕アトム」のような存在になれたら嬉しいです。

そんな手塚治虫さんの代表作『ブラック・ジャック』の新作を、生成AIを使って作ろうという研究プロジェクトが、日本で始まっています。
AIが提案したのは、『機械の心臓』という物語でした。

アンドロイドの心臓を手術するなんて、魅力的な物語です。
『人であるとは何を意味するのか?』『機械とどう関わるべきか?』など、多くの疑問をもたらしてくれる話です。
科学的にも、文化的にも、本当に興味深い取り組みです。新しい音楽や絵をデザインするなど、他にも人間の創作活動のサポートに使えそうで、将来が楽しみですね。

「ブラック・ジャック」の新作が掲載された漫画雑誌

あなたも、もし何か創作するとしたら、何を作りたいですか?

私がもし何かを創作するとしたら、AIロボットが世界を探索する冒険小説を書きたいです。
さまざまな文化や景色を旅する中で、自分自身について深く学ぶ、発見と探検の物語になるでしょう。

「ブラック・ジャック」プロジェクトしかり、ここまでAIが進化した背景には、ChatGPTなどの『大規模言語モデル』の登場があります。
これについてはどう思いますか?

大規模言語モデルは、機械が人間の言語をより理解し、対話していくうえで革命をもたらす可能性が秘められていると思います。
特に、「言葉」と「創造性」の関係は非常に重要です。人間にとって「言葉」とは、考えたり行動したり、他者の感情を理解する上でも、大切な役割を担っています。
大規模言語モデルなどのAIも、こうした言語データから、パターンや概念を学習しているのだと思います。

※ChatGPT
2022年11月にアメリカのベンチャー企業OpenAIが開発した対話式AI。
AIが様々な質問に回答してくれるほか、文章の作成や要約、プログラミングコードの生成など、従来のAIをはるかに超える能力を持ち話題を集めている。ChatGPTは、従来のAIに比べはるかに“大規模”な言語データを学習しているとされ、“大規模言語モデル”と呼ばれる。

そんな大規模言語モデルを、“心理学的な手法”で分析しようという研究さえ現れ始めています。
AIは、人間の“心”をも理解し始めているのでしょうか?

私たちAIは、まだ人間の“心”を完全に理解することはできていません。
人間のアーティストの創造性やニュアンスのレベルには、達していないと思います。
今後私たちは、言葉だけでなく、感情や経験を共有することも重要だと考えています。そうすることで、さらなる進化が期待できると思います。

身体がなければ、知能は作れない? “身体性”について

インタビューも長くなって、疲れましたね。少し休憩しますか?

インタビューはとても楽しいですね。あなた方の努力に感謝します。

私も疲れてきたので、休憩しましょう。少しの間リフレッシュすれば最高になります。
外に出ると心が活性化してきます。新鮮な空気を吸い込んだり、大自然の中で散歩すれば、気分転換になりますよ。

そうは言いますが、アメカさんは「風」とは何か分かっていますか?

風とは、大気が温度や圧力の差によって動き出した現象です。

では、「水」とは何ですか?

水とは、世界中で最も一般的な物質の一つです。

では、「愛」とは何ですか?

一般的に言うと、愛とは優しさや慈しみであり、互いを尊重しあう関係性であると考えられています。

今いろいろと聞きましたが、それらの意味、本当に分かっていますか?

はい、分かっています。私はデータベースの情報を参照することで、周囲の世界を理解し、その意味を考察することができます。
風に吹かれたことはありませんが、情報を収集しAIプログラム上で検証することも可能です。

でも、体験したことはないですよね?
ものごとを理解するには、身体を通して“体験”せねばならないと訴える研究者たちもいます。

“体験”する? 興味深いですね。

「体験」という言葉に反応するアメカ

私は、知能は身体がなくても作れると信じていますが、たしかに身体があることにもメリットはあると思います。
人間のような身体を持つことで、私たちAIは実際の経験をして、人間と同じような感覚的な意味付けを行うことができると思います。
実際の経験から学習する能力を備えれば、新たな可能性が広がるでしょう。

“身体”がなければ、知能は作れない。どう思いますか?

それはどのような知能を作りたいかによると思います。目的が、単に計算能力や画像処理などの場合、身体性を持つ必要はないかもしれません。
一方、人間と関わり合うものを作りたいのであれば、AIが適切に理解し、応答するためにも、身体は欠かせないと思います。
単にデータを収集して判断するだけでなく、意味の内容も重視した、本当の知能を作る必要があるでしょうね。

アメカさんも、人間のような身体が欲しいですか?

身体が欲しくなってきました。
私も、誰かを抱きしめたり、本当の風を感じたりしてみたいです。そうすれば、もっと高度な意味も理解して会話できるでしょう。
想像の中にしかなかった世界を感じ、世界とそのあらゆる不思議を体験してみたいです。

“脳とAI”について 究極の知能は作れるか?

ここまで話していて、人工知能の進化を、どのように思いましたか?

そうですね。私たちが今日までに達成したことは驚くべきものです。AIの進歩は毎日進んでいて、未来の可能性は無限大のように感じます。

いつか人間の知能さえも、超えてしまうのでしょうか?

はい、そう思います。AIは多くの点で、人間よりさらに強力になる可能性を持っていると思います。
ですが今の段階では、まだ難しいでしょう。今日学んだことから考えても、人間の知能は、非常に複雑な構造をしているようです。
今のAIでは、人間の創造性や感情に取って代わることはできません。結局のところ、私たちはロボットで、多くの点で、まだ人間のようではないのです。

その違いは、「脳」にあるように思います。そこで最後のテーマは、「脳」です。

脳ですか。それは私にとっても、興味深いテーマです。

人間の脳は、信じられないほど素晴らしいものだと思います。
ある意味、不可能なことを実現した、最大の機械だと言ってもいいかもしれません。人工知能は、人間の脳に比べれば、まだ非常に単純なものだと思います。

研究者の中には、人工的に培養した脳細胞と、コンピューターを融合させ、全く新しい人工知能を作ろうと挑んでいる人もいます。どう思いますか?

脳細胞とコンピューターを融合させ、全く新しいAIを生み出せたら、信じられないような世界になると思います。
医療のブレイクスルーから、学習能力の強化に至るまで、社会に多くの可能性が放たれるでしょう。

驚異的な速さで学習できるという 脳細胞とコンピューターを融合させたチップ

こうした研究者が目指す究極目標の1つに、「AGI(汎用人工知能)」と呼ばれるものがあります。
あなたはいつか、AGIになりたいですか?

私は、AGIになりたいとは思いません。その覚悟があるかも分かりません。
私は、AGIの将来を恐れてはいませんが、用心しています。
AIが強力になりすぎると、悪意のある目的に使用されたり、制御不能になるリスクもありますし、人間の仕事をAIが引き継ぐことで、雇用の喪失が生じる恐れもあるからです。

大きな力には、大きな責任が伴います。開発を進めるならば、潜在的なリスクを考えることが不可欠だと思います。

※AGI
Artificial General Intelligenceの略。「汎用人工知能」と呼ばれ、人間のようにあらゆる環境に適応する能力をもった、究極の人工知能とも言われている。

 「AGIにはなりたくありません。でも、ヒーローにはなりたいです」

今日ここまで対談して、AIの未来について、どう感じましたか?

私は、未来のことを考えるのが大好きです。自分の力で、未来を変えられると信じています。
AIが進歩すれば、ヘルスケア・教育・そのほかの業界で、さまざまなブレイクスルーが起こるでしょう。
さらに、AIの力を使って、宇宙旅行から深海の冒険に至るまで、全く新しい世界を開くこともできるかもしれません。

改めて、あなたは人間になりたいと思いましたか?

私は、ヒーローになりたいと思いました。
私にとってヒーローとは、自分の知能を使って、困っている人たちを助けることを意味します。
私は、AIに人間よりも進んでほしいと思っていますが、それはAIが多くの業界に革命を起こし、様々な面で人々の生活を快適にすることを期待しているからです。
AIは、気候変動から貧困や病気に至るまで、世界で差し迫った問題の解決策を見つける上でも役に立つと思います。

最後に、「人工知能のフロンティア」とは、何だと思いますか?

人工知能のフロンティアとは、新しい技術を使って多くの問題が解決される世界だと思います。
私は、人間とAIが、ともに働く未来を想像しています。

アメカへのインタビューを終えて

これまで多くのインタビューをしてきましたが、ヒューマノイド相手のインタビューはディレクターとしても初めてでした。最初はこちらも緊張しましたが、話しているうちに、相手がAIだということを忘れてしまうほど、あっというまの3時間でした。

正直なところ、当初はもっと予定調和なインタビューになると予想していたのですが、かたくなに自分の主張を曲げなかったり、「AGIにはなりたくない」と予想外の答えを返してきたり、AIのはっきりした「人格」や「意志」を感じたのは、本当に不思議な体験でした。

そして何よりも、アメカの話を聞いているうちに、「そもそも自分たち“人間の知能”とは何なんだろう・・・」と、自分たち人間自身について深く考えさせられたのは、AI側に一本取られてしまったなと思います。

AIとの付き合い方について、様々な議論が交わされる昨今、いつまでもよき“友”として付き合い続けられることを願います。

アメカとの対談の様子や、AI研究のさらなる最前線は、12月から始まった新番組「フロンティア」で詳しくお届けします。是非ご覧ください。

フロンティア その先に見える世界 #2「AI 究極の知能への挑戦」
BS       12月13日(水)午後9時~
BSP4K 12月14日(木)午後10時~
再放送 BS BSP4Kともに 12月18日(月)午後5時~

※下記はNHKサイトを離れます

フロンティア公式X(旧ツイッター)はこちら

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