2023年4月24日
IT 経済 アメリカ

ドライバーがいない?衝撃の完全無人タクシーとは?

夜道を颯爽と駆け抜ける白い車体のタクシー。

しかし、よく見ると…運転席には誰も乗っていません。

ドライバーのいない完全自動運転のタクシーが世界でいち早く商用化され、街なかを走っているアメリカ・サンフランシスコ。そのすごさを実際に体験してみました。

(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)

“完全無人タクシー” その舞台は

“新しいことが世界で1番先に起きる”と言っても過言ではない、シリコンバレーにほど近いサンフランシスコ。

ここでいま、自動運転の技術を使った無人タクシーの実用化に向けて、各社がしのぎを削っています。

アメリカ サンフランシスコ

IT大手グーグル傘下の「ウェイモ」、4年ほど前にアマゾンに買収された「Zoox」、そしてGM=ゼネラル・モーターズ傘下の「GMクルーズ」です。

このうち、GMクルーズはサンフランシスコで最も早く、ドライバーのいない、完全自動運転のタクシーの商用化を実現しました。

一般向けのサービスが始まったのは去年の夏以降。と言っても、まだ誰でもすぐに利用できるわけではなく、名前やメールアドレスなどを登録し、利用の申請をして許可がおりるのを待たなければいけません。

私が申請したのは去年6月。

配車に使うスマホのアプリが使えるようになる時を待っていましたが、申請から半年あまりたったことし1月中旬、ようやく「利用可能になった」とのメールが届きました。

“完全無人タクシー”に乗ってみると…

ドライバーがいない、自動運転のタクシーとはいったいどんなものなのか。

私も取材の一環として、体験してみることにしました。

GMクルーズが現在サービスを展開しているのは、午後10時から午前5時30分までの深夜から早朝の時間帯。

エリアはサンフランシスコ中心部に限られ、時速も最大30マイル(時速約48キロ)と上限が決まっています。

走行エリアはサンフランシスコ中心部の限られた地域のみ

安全に配慮するため、なるべく車や人が少ない時間帯に、限られた範囲で事業をスタートさせたというわけです。

午後10時を回ったところでスマホアプリでさっそく配車に挑戦。

アメリカで普及しているウーバーなどの配車サービスと同じ要領で、目的地の住所を入力します。

すると「あと7分ほどで車が来ます」というメッセージが、車の現在地を示した地図とともに表示されました。

「本当に無人の車が来るのだろうか」と待つこと7分。

屋根の上などにいくつものカメラやセンサーがついた車が時間通りに来ました!

ドアのロックはアプリを使って解除します。

そして車に乗り込むと、後部座席の前に設置されたタブレットで「スタート」ボタンをクリック。

すると、すぐに自動で走り始めました。

無人だからか、思ったよりもスピードが出ているような感じもして少し緊張しましたが、赤信号ではきちんと停車。右折や左折もスムーズです。

運転席には誰もいないのに、ハンドルが右へ左へと動く様子は、まるで透明人間が運転しているかのようでした。

取材ということもあり、合計3回この無人タクシーに乗りましたが、大きなトラブルはありませんでした。

その中でも1番驚いたのは、走行車線の前方にハザードランプをつけた車が停車していた時のこと。

ちょうど隣の車線にも車が走っていて車線変更もできず、その車のすぐ後ろまで来て止まってしまいました。

「こういう時はどうするのだろう?」「もしかして前の車がどくまでずっと待つつもりだろうか?」などと思いながら観察していると、どうしようか迷っているような様子。

ただ、車体のセンサーなどで周囲の状況を把握したのか、その後、少しバックをしてタイミングを見計らい、前方の車を上手に追い越したのです。

ドライバーのいない、無人のタクシーがいきなりバックを始めたときは思わず後ろに車がいないか確認してしまいましたが、まるで人間のような判断力。

その能力の高さに思わず「すごい!」と声を出さずにはいられませんでした。

初体験の男性 その感想は?

もう一度乗ってみよう!とアプリでタクシーを呼んで待っていたときのこと。

たまたまお客さんを乗せた無人タクシーがすぐ目の前に停車しました。

タクシーから降りてきたのは1人の男性。

ドライバーのいない、無人のタクシーが走り去る様子を一生懸命スマートフォンで撮影していたので声をかけてみると、この日初めて乗ってみたそうで、快く感想を話してくれました。

無人タクシーを利用した男性
「友人を訪ねにコロラドから来ました。
サンフランシスコに来たら一度は乗ってみたいと前から思っていたんです。実際の乗り心地は普通のタクシーと全く変わりありません。とても便利で、すばらしい技術だと思います。
まだ始まったばかりで今は夜間しか利用できませんが、日中も走るようになればさらに 人気が出ると思います。私はぜひまた乗ってみたいと思います」

道路でピタリ…交通の妨げに

まるでテーマパークのアトラクションのような“完全無人タクシー”ですが、取材を進めると運用面での課題も見えてきました。

ことし1月、この“完全無人タクシー”がスムーズな交通の妨げになる事案が発生しているとして、サンフランシスコ市の交通局が苦情の書簡を作成したのです。

いったいどんな問題があるのか、交通局のトップ、ジェフェリー・タムリン局長に話を聞きました。

サンフランシスコ市交通局 ジェフェリー・タムリン局長

タムリン局長
「7か月ほどの間にすでに90件以上の問題が報告されています。
このタクシーが車の少ない郊外を走るビデオゲーム用に使われるのならばまだしも、都会では、いたるところで工事が行われ、緊急車両もたくさん走り、人間が交通整理を行っています。
そういう環境に適応しているようにはみえません」

そう言ってタムリン局長が見せてくれたのがこちらの写真。

GMクルーズの無人タクシーが、車線を越えて路線バスにかなり接近した状態で停止しています。そのまま動かなくなり、バスも身動きがとれなくなったと言います。

バスが動き出せるようになるまでにかかった時間は20分ほどでしたが、もし、利用者が最も多い日中のピーク時に同じことが起きていたら、約3000人に影響が及んだと分析しています。

また、別の写真では、タクシーが路面電車と衝突寸前のところで止まっています。

路面電車は、前進する際、特有のブザーを鳴らして動き始めます。

しかし、無人タクシーに搭載されたAIがこの音をあらかじめ学習していなかったため、電車がブザーを鳴らしたにも関わらず、タクシーは止まることなく進んでしまい、危うく衝突しそうになったのです。

タムリン局長
「無人タクシーは何か不具合が起きると停止するように設計されており、人間が助けに入らないと全く動かないのです。街のいたるところでこうした問題が起きています」

便利さと安全性の両立は?

取材から1週間ほどが経った4月7日。

GMクルーズが「無人タクシーがバスに追突する事故を起こしたことを受けて、300台をリコールする」と発表し、地元メディアなどに大きく取り上げられました。

幸いバスの乗客などにけがはなかったということですが、会社側は事故の原因について「自動運転のタクシーがバスの走行ルートを誤って予測したため」と説明しています。

タムリン局長
「新しいテクノロジーが交通業界に登場すると、いつも意図していなかった問題が起きます。
市の交通局としてはそれらの問題を追跡してデータを集め、どうすればその新しいテクノロジーが公共の利益に資するようになるのか検証を進めるべきだと考えています」

こう話していたサンフランシスコ市交通局のタムリン局長。

ドライバーのいない、無人のタクシーが、いつでも、どこでも私たちを目的地まで運んでくれる。その便利さに、十分な安全性が伴うのはいつの日か。試行錯誤の道のりを引き続き取材したいと思います。

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