2023年2月15日
IT 経済 アメリカ

グリーンになれる? “ビットコインの街”の試行錯誤

暗号資産の代表格、ビットコイン。あまりなじみがないという人も多いかもしれませんが、アメリカ・テキサス州は、“ビットコインの街”と言われるほど関連ビジネスが盛り上がっています。

ただ、デジタルがゆえの課題も。取り引きの管理には大量の電力を消費するため、環境への配慮が問われているのです。

グリーンなビジネスへの転換を試行錯誤するテキサスを訪ねました。

(ロサンゼルス支局 山田奈々)
※この記事は2021年9月27日に公開したものです

現金で売買できます

テキサス州の州都、オースティン。
ガソリンスタンドに併設されたコンビニや町のスーパーに、珍しい機械が置かれていました。

本来はインターネット上で取り引きされる30種類以上の暗号資産を現金で売買でき、現地では「ビットコインのATM」と呼ばれています。

インターネットを使った取り引きの機会が少ない人や、暗号資産に懐疑的な人も含め、より多くの人に触れてもらおうと設置されています。

実際に1ドル札を入れ、スマートフォンを機械にかざすと、30秒足らずで1ドル分のビットコインがスマホの「ウォレット」に入金されました。

店の責任者は、この機械で購入した暗号資産で店内のパンや飲み物を買えるようになる日もそう遠くないと話します。

膨大な電力に支えられるデジタル資産

ドルや円と同じように買い物に使えるようになると見込まれる暗号資産ですが、国や中央銀行に管理されないため、その仕組みは大きく異なります。

取り引きのデータは安全性が確保できるよう暗号化され、世界中のネットワークに分散されて管理されます。

それぞれのネットワークの拠点では、取り引きデータの処理のために大量のコンピューターを常に動かし続けなければならず、膨大な電力が必要になります。

この作業は、報酬として新たに発行される暗号資産が得られるため、マイニング(採掘)と呼ばれています。

使用電力は2万世帯分!

取り引きに欠かせないこの作業を行うのはどんな企業なのか。
テキサス州・ロックデール市にある、アメリカ最大規模のマイニング企業「ウィンストン」を訪ねてみました。

広大な敷地には縦長の建屋が3つ。
その中には、高さ7メートルまで積み上がったサーバーが数えきれないほど並んでいました。

サーバーが稼働している音で会話の声がかき消されるほどで、室温が60度まで上がり、少し中にいただけで汗が止まらなくなりました。

この会社にあるサーバーは、一般家庭の2万世帯分に相当する電力が必要だといいます。

テキサスは世界有数の石油生産を誇るエネルギーの一大拠点です。
マイニング企業がこぞって進出する場所になっているのは、電力が豊富で安いからなのです。

さらにこんな動きも。
中国では今月、政府が暗号資産の関連サービスを違法行為として全面的に禁止したことが大きなニュースになりましたが、以前からビジネスへの規制を強めていました。

これを背景にマイニング企業が中国から流出し、テキサスがその受け皿になっているというのです。

ロックデール市経済担当局長 ジム・ギブソンさん

ギブソン局長
「私のところには毎週3、4件、中国から問い合わせの電話がかかってきます。今も中国から進出してきた企業が拡張工事を行っています。投資や雇用の創出にもつながるので、市にとってはプラスです」

環境に悪い? 価格が急落

ビジネスが拡大する中、電力消費という課題に焦点が当たったのは、世界中にフォロワーがいる、あの経営者のツイートがきっかけでした。

アメリカの電気自動車メーカー、テスラのイーロン・マスクCEO。
自社の電気自動車をビットコインで購入できるようにすると表明した推進派ですが、ことし5月、「将来性は認めるが、環境の犠牲の上に成り立つものであってはならない」などと投稿。

このひと言で、上昇してきたビットコインの価格は急落しました。

大量の電力消費をともなう仕組みが脱炭素の流れに逆行していると問題視されるリスクが高まったためです。

イーロン・マスクCEO自身、環境にやさしいとアピールする電気自動車を、今のままのビットコインで購入できるようにするのは、自己矛盾を起こしていると考えたのでしょう。

使用電力の3割をグリーンに

環境に配慮したビジネスに変えるにはどうすればいいのか。
取材したテキサスのマイニング企業は、ソフトウエア会社と連携し、夏の暑さなどで電力需要がひっ迫した際には、取り引きデータの処理を一時的に停止して電力を使いすぎないようにする仕組みを導入しました。

電力会社の連絡を受けると、ボタン1つで瞬時に電力を停止できます。

実際、取材に訪れた8月は、現地の気温が35度近くまで上昇。
冷房を使う家庭が増えて電力がひっ迫したため、午後2時すぎから午後6時ごろまで取り引きの処理を停止しました。

停止すれば当然、会社には損失になりますが、電力会社との契約で補填ほてんされることになっているため、ビジネスへの打撃は最小限に抑えられているということです。

さらに、取り引きに使う電力自体も見直しを進めています。
風が強いテキサスでは全体のおよそ20%が風力発電になるなど、再生可能エネルギーの活用が進んでいます。

この企業は、取り引きに使う電力の3割を風力や太陽光の再生可能エネルギーでまかなうようにしたといいます。

ビットコイン関連企業「ウィンストン」 チャド・ハリスCEO

ハリスCEO
「再生可能エネルギーを使うことは会社としての責任で、割合を増やすよう日々努力すべきだ。現時点では風力や太陽光など再生可能エネルギーを蓄電できる仕組みはないが、5~10年後、将来的にそれができるようになれば、さらに割合を増やせるだろう」

グリーンになれるかは企業しだい

ただ、すべてのマイニング企業の間で環境への配慮が広がるかは、はっきりしていません。
電力需要がひっ迫した際でもマイニングを続けることへの規制はなく、対応は各企業の判断に委ねられているからです。

テキサスのビットコインビジネスがグリーンになれるかは企業の姿勢にかかっていると、専門家は指摘しています。

テキサス大学 ジョシュア・ローズ博士

ローズ博士
「最も大切なことは、企業が高い柔軟性を持って対応できるかどうかです。企業側が望めば、100%再生可能エネルギーを提供している電力会社と契約を結ぶことも可能だ」

脱炭素社会の実現に向けた動きがさまざまな産業に広がっている今、暗号資産のビジネスも無関係でいられないのが現実です。

一方で、もしテキサスに集積する関連企業がいっせいにグリーンにかじを切れば、現地のエネルギー産業の姿を変える可能性も秘めています。

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