災害列島 命を守る情報サイト

これまでの災害で明らかになった数々の課題や教訓。決して忘れることなく、次の災害に生かさなければ「命を守る」ことができません。防災・減災につながる重要な情報が詰まった読み物です。

地震 水害 避難 支援

新型コロナウイルス いま災害が起きたらどうする?

感染拡大が続く新型コロナウイルス。政府は「閉鎖空間で近距離で多くの人と会話するなど、一定の環境下では感染を拡大させるリスクがある」と指摘しています。ところが安全を守るため、こうした環境で過ごさなければならない事態になりうるのが災害時です。もし、いま地震や大雨などで避難が必要になったら、どうすればいいの?(ネットワーク報道部記者 野田綾 國仲真一郎)

目次

    「地震発生 どこへ避難すべきなのか」

    「この新型コロナ感染拡大しつつある今、万が一大地震とか災害が起こったらどうするんだろう??」

    災害時に多くの人が身を寄せる避難所。 ネット上では今月中旬ごろから、そこでの感染を心配する投稿が見られるようになりました。

    「避難所でマスクがないと避難者に一人でも感染者がいたら、避難所がえらいことになるんじゃないだろうか」

    「避難所での感染拡大は悪夢でしかない」

    「新型コロナの確固たる治療方法が不明な今、首都直下型地震・南海トラフ地震が発生。そうなったら、、、どこへ避難すべきなのか」

    「無いこと祈るしかないな」

    避難所の感染症対策は?

    自治体が指定する避難所の感染症対策はどうなっているのでしょうか?

    東京都が各自治体向けに策定した避難所の運営マニュアルには次のように書いてありました。

    「感染症予防のため、手洗い、手指消毒、せき等の症状がある場合のマスクの着用等をするよう周知を図ります」

    「施設として可能な場合、定期的に窓やドアを開け換気を行うように」

    「感染症の患者が発生した場合、感染拡大防止のため、居室を分けることも検討します」

    避難所での換気など感染症対策については、内閣府の『避難所運営ガイドライン』にも記されていて、各自治体ではこれをもとに具体的な対応をとっています。

    ただ、これらはインフルエンザやノロウイルスなどを想定しています。今回の新型コロナウイルスに特化した対策については、まだ検討が進んでいないのが実情です。

    「避難所に来ないで」とは…

    想像したくないことですが、もし、いま大規模な地震や大雨などによる災害が起きたらどうなるのか。

    取材すると、自治体の防災担当者からは戸惑いや不安の声が聞かれました。

    静岡市では、県の想定で南海トラフの巨大地震が起きた場合、最大およそ33万人が避難所などに避難するとされています。

    避難所にウイルスを持ち込ませないため、発熱などの症状がある人が避難所を訪れた際に滞在場所をどうするかなどの検討を始めています。

    市の避難所運営のマニュアルには、感染症の予防策として手洗いやうがい、消毒の徹底などが盛り込まれ、現状ではこれを元に対策を進めるとしています。

    消毒薬やマスクについては、市内の薬局などと協定を結び災害時に優先的に供給してもらうことにしています。

    しかし、調達が難しいいまの状況でこうした物品をどう確保するのかなど悩みはつきず、静岡市の担当者はマスクや消毒薬などの確保に国も協力してほしいと言います。

    そして、「たとえ新型コロナウイルスに感染していたとしても、災害時に『避難所に来ないで』とは言いません。ただ、できることには限りがありそうというのが実情です」と話したうえで、こう続けました。

    「この状態で(災害が)起こらないでくれと、祈るしかないかもしれません」

    「国が対策を示していないので」

    避難所での新型コロナウイルス対策について、国が方針を示していないため対応を苦慮しているという声もあります。

    東京 世田谷区の担当者は「自治体が個々で対応をするよりも、周辺の自治体など、ある程度共通の対応が必要だと考えています」と話しています。

    台風19号の大雨被害(東京 世田谷区 2019年10月)

    そのうえで「国から明確な方針が出てから検討することになると思います。情報が少ないため、いま議論しても空回りになってしまいかねません。避難所で感染者が出たら隔離するということしか考えられません」と、対応の難しさに頭を悩ませていました。

    「起きてから対応を協議」

    こうした自治体からの声。
    国はどのような対策を考えているんでしょうか?

    災害時の避難などを所管する内閣府の防災担当に聞いてみると、こんな答えが返ってきました。

    「これまでと同じ対応になります」

    多くの人が集まる大規模イベントの中止や延期を政府が要請するなど、これまでにあまりない事態だと思うんですが、同じ対応とは具体的にどういうことなんでしょうか?

    「何か起きたときは自治体が中心になって対応することになります。多くの人が避難した去年の台風19号のあと、インフルエンザの流行に備えた対応を厚生労働省が中心となって議論しましたが、今回は今のところそのような話は出ていません」

    驚いたことに、内閣府の担当者は災害が起きてから対応を協議すると話しました。

    「厚生労働省が中心となって対応を考えることになります。しかし今のところは災害はまだ起きていませんし、厚生労働省と一緒に協議するという予定はいまのところありません」

    一方、厚生労働省も「基本はインフルエンザの対策に準じます。それをベースに、必要なものがあれば加えていく」としたうえで、「いまの時点では、(自治体に向けて)具体的に通知などを出す予定はありません」としています。

    いつ来るか分からない だから、いま考える

    防災に詳しい東京大学の松尾一郎客員教授は、自宅などの安全が確保できない場合には、新型ウイルスの感染を恐れて避難をためらうべきではないと指摘します。

    東京大学 松尾一郎客員教授
    「地震の揺れで自宅が壊れたり浸水したりした場合には、より安全なところに退避すべきです。家にとどまることが危険な場合は、避難所などへ移動して安全を確保することが大切です。一方で、1つの閉鎖空間に多くの人が集まることで感染症のリスクもあります。自治体の避難所には学校などの体育館が指定されていることが多く、例えば教室を活用して避難者を分ける対策なども検討すべきでしょう。また、建物の安全が確認された場合には自宅にとどまる『在宅避難』で感染リスクを避ける対応も考えられます。家具の固定や食料品、医薬品などの備蓄をしておきましょう」

    松尾さんは、災害が起きる前にあらかじめ防災対応を検討しておくべきだとも指摘しています。

    松尾客員教授
    「自治体や国の担当者は感染の拡大防止に忙しく、災害時のことまで検討する余力が無いかもしれませんが、地震などはいつ起きるか分かりません。自然災害と同じかそれ以上に厳しい状況になる可能性があるという意識で今からシミュレーションしたり対策を考えたりしておく必要があると思います」

    基本の対策 避難所でも

    いつ、どこで起きるかわからない災害。

    感染症対策の視点からは、どのような備えが必要なのでしょうか。

    感染症に詳しい、グローバルヘルスケアクリニックの水野泰孝院長は、避難所など多くの人が同じ空間に滞在しなければならないことを想定した対策を自治体は考えておくべきだと指摘します。

    グローバルヘルスケアクリニック 水野泰孝院長
    「誰が感染しているか分からないという状況では、『誰もが感染している可能性がある』という意識で対応する必要があります。自治体は、感染の管理や制御に通じた専門家がしっかり指導できる態勢を検討することが極めて重要です」

    そして、避難することになる私たちはどうすればいいのでしょうか。

    水野院長
    「感染の拡大を防ぐには手洗いの徹底やマスクの着用、アルコール消毒などといった基本の対策を一人一人が心がけることが大切です。避難所であっても、それは変わりません」


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