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火山 教訓 知識

警戒レベル1で噴火も…予測困難な噴火 火山情報のジレンマ

暗闇にあやしく浮かび上がる赤色の火柱。2019年8月7日夜に発生した浅間山の噴火だ。この噴火、事前に予測はできなかった。幸い犠牲になった人はいなかったが、これが登山者の多い昼間だったら…。噴火警戒レベルは最も低い「レベル1」。事前に噴火に警戒を呼びかける情報は出ていなかった。予測の難しさと情報発表の限界を改めて知ることになる出来事だった。

目次

    情報発表の難しさ 御嶽山噴火の教訓

    火山の情報発表。その難しさに最も直面したのは、2014年の御嶽山の噴火だ。噴火警戒レベルは最も低い「レベル1」。紅葉シーズンの土曜日、多くの登山者がいるなかでの突然の噴火。噴火の規模としては小さいものだったが63人もの犠牲者が出た。

    事前に噴火の可能性を指摘できなかったのか。実はこの噴火の前、気象庁は3回にわたって、地震の増加など火山活動の変化を示す情報を発表している。「火山の状況に関する“解説情報”」という情報だ。

    解説情報って何?

    この「解説情報」、簡単に言ってしまえば、火山にこれまでと違った変化が現れたとき、その変化を知らせるために発表される情報だ。

    ところが、自治体は登山道の規制などは行っていない。登山者も多くが知らないまま噴火に巻き込まれたのだ。「なぜ情報は生かされなかったのだろうか?」そう思う人も多いと思う。

    実はこの情報、「火山活動に変化があった」という事実を伝えるものだが、気象庁は「噴火の予兆だ」とは言っていないのだ。

    ジレンマ抱えた情報

    「解説情報で示した噴火前の地震活動は、予兆だったのではないか?」当時開かれた気象庁と火山学者の記者会見の場に私(藤島)はいた。こうした質問がでていたことを覚えている。

    ただ、気象庁の担当者も火山学者もこう説明した。「地震が起きている時には、噴火に至るとは判断できなかった」

    レベルを引き上げる基準に達していれば、噴火の可能性があると言えたが、実際にはその基準に達していなかったため、レベルを上げられず解説情報を出すにとどまったという。

    つまり「確定的なことは言えない。でも伝えない訳にはいかない」というジレンマを抱えた情報なのだ。

    情報に“臨時”つける

    一方で噴火後の検討では、レベルが上げられなくても火山活動に変化があったのならば強く情報発信すべきだという提言が出た。このため情報のタイトルに“臨時”と明記することが決まった。

    この“臨時”の解説情報。御嶽山の噴火の翌年(2015年)から運用が始まった。ことし9月26日までに、全国の16の火山で合わせて268回も発表されている。それでも、もともと抱えていた「あいまいさ」に変わりは無い。これは何を意味しているのか。

    「登山道を規制する」「火山に近づくのをあきらめる」。つまり、最終的な判断は情報を受け取った自治体や、登山者などに委ねられたということだ。

    それでも難しい情報の受け止め

    情報のあいまいさ故に、対応に苦悩したという自治体を取材した。熊本県の阿蘇山だ。

    周辺の自治体では臨時の情報が発表された際、火口から1キロ以内への立ち入りを規制する方針を立てていた。あいまいな情報であっても、受け取った自分たちの判断で規制しようという進んだ取り組みだ。

    ところが、地元から懸念の声が上がり、方針の転換を余儀なくされた。規制してしまうと、地元産業の柱でもある「観光」へ影響を及ぼしかねないというのが理由だ。

    自治体と地元の話し合いの結果、監視体制を強化して、今後改めて規制するかどうか検討することになった。

    「重要な情報ではあるが、噴火警戒レベルには変化がないため、地元から理解を得ることが難しかった。この情報をどう受け止めればいいか、今でも戸惑いがあります」(自治体の担当者)

    一方、規制を実行した自治体もあった。北海道の十勝岳だ。去年、噴火警戒レベルが最も低いレベル1の時、臨時の解説情報が発表された。

    対応を迫られたふもとの上富良野町は、まずは、町のホームページに十勝岳の活動に変化があったことを掲載。さらに、チラシを町内の観光施設やコンビニなどに配布し、多くの人に注意を呼びかけた。

    直前に迫っていた「山開き」についても、登山コースを変更。万が一の噴火が発生しても被害を受けないように、火口から2キロ以上離れた場所を通るルートに変更した。阿蘇山と同じように、十勝岳の観光は地元にとって産業の柱。苦悩の末の決断だった。

    上富良野町 防災担当 櫻井友幸さん

    「できることなら予定どおり実施したい。だけど、もし御嶽山のように突発的に噴火したら、大惨事になる可能性も否定できませんでした。とはいえ、噴火に至らない可能性も十分にあり、山開きを中止する事態は避けたい。どう対応すればよいか、非常に悩みました…」

    臨時情報の扱い 全国的な悩み

    「噴火の予兆だと言われるならまだしも、予兆か“わからない”という情報では、観光や経済への影響を考えて、思い切った対応は難しい」この悩みは全国でも同様だった。

    NHKは、常に気象庁が観測を続けている全国の47の火山周辺の自治体に対し、臨時の解説情報の扱いについて取材した。

    国が求めている、「周知の具体的な方法を決めているか」を尋ねたところ、約23%の11の火山では、登山客や住民への「周知方法が決められていない」ことがわかった。

    理由として最も多かったのは「検討中」。中には「どう受け止めればよいかわからない」「情報の必要性を感じない」という声もあった。

    「周知方法が決められている」という36の火山でも、14の火山では自治体の防災対応を示した「避難計画」などに記載が無く、継続的に運用できるのか疑問が残った。

    専門家 “自治体支援策”を

    こうした現状を専門家はどう見るのか。私たちは、火山防災に詳しい山梨大学の秦康範准教授に聞いてみた。

    山梨大学 秦 康範 准教授

    「臨時の情報は、噴火警戒レベルのように、画一的な防災対応が示されていない。どのような対応を取るのかを、自治体がケースバイケースで判断しなければならない点が非常に難しい。自治体は専門的な知識やノウハウが不足しているのが現状で、負担が大きく対応の遅れにつながりかねない。国はこうした実情を十分に理解したうえで、支援策を考える必要がある」

    「変化」は事実 判断はみずからに

    繰り返しになるが「臨時の解説情報」は、噴火警戒レベルを上げるまでの根拠がない中で発表される「あいまいな情報」だ。この情報のあいまいさはすぐに変わることはないし、今後も変わることがないかもしれない。

    ただ1つ言えるのが、この中には「火山活動に変化」が起きていることを示す「事実」が含まれていることだ。

    全国に111ある活火山。噴火予測が難しい中、御嶽山の悲劇を繰り返さないために、「どうやったら命を守ることができるのか」。誰も確実なことが言えない状況では、私たちみずからが火山に近づく、近づかないの判断をするしかない。

    自分たちが火山に近づく際、「臨時の解説情報」が発表されていたら。『あなたならどうするか』。まず考えるところから始めてほしいと思う。

    藤島新也
    社会部記者
    藤島新也
    小林育大
    社会部記者
    小林育大
    内山裕幾
    社会部記者
    内山裕幾

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