アメリカ人女性が広島で平和活動
広島市に暮らすメアリー・ポピオさん(27)です。
3年前、アメリカのボストンから移住し、市内のゲストハウスで働きながら、平和を訴えるNPOで活動しています。
ボストンの大学でアジアの歴史を研究していたメアリーさんは、7年前、長崎の原爆資料館を訪れたことがきっかけで、被爆地での平和活動に関心を持つようになりました。
その後、毎年のように広島と長崎を訪れ、そのときに出会った被爆者との交流が、移住を決断させたといいます。
メアリーさんは次のように語ります。
「ある被爆者の方に、アメリカ人をゆるせませんか?と聞いたんです。その時、その人が“NO”と言ったことに、とても衝撃を受けました。クリスチャンとして、人をゆるすということの大切さをわかっていたつもりですが、それはとても難しいことで、被爆者のことばを聞いて、すごいと思いました。私もこういう人から深く学びたいと思いました」
メアリーさんは、現在、広島を訪れる外国人が被爆者から話を聞くイベントの紹介をしたり、海外の学校の先生が平和学習のカリキュラムを考えるためツアーを行ったりしています。
とくに、海外からの外国人に核兵器廃絶を考えてもらうきっかけになればと活動を続けています。
ローマ法王が訪問する意義を考えたい
そんなメアリーさんは、カトリックの信者としてフランシスコ法王が広島を訪れることに注目しています。
ローマ法王は、おととしバチカンで行われた核廃絶に向けた会議で、法王が被爆者の証言を重視する考えを示し、今回の訪問でも被爆者との面会が予定されています。
ただ、メアリーさんは、法王の詳しい思想を知るわけではなく、手紙のやり取りをしたこともありません。
それでも、世界が注目するこの機会に若い人たちと一緒に法王が訪問する意義を考えようと、「フランシスコナイト」というイベントを開催することにしました。
被爆者との心の交流
このイベントに、どうしても参加してほしい人がいました。広島市に住む伊藤正雄さん(78)です。
4歳の時に被ばくした伊藤さんは、現在も語り部として活動し、若い人たちに原爆の恐ろしさを伝えています。
伊藤さんは、メアリーさんにとって特別な存在です。
原爆を投下したアメリカの人間として、広島で平和活動に参加することに不安を感じていた際、背中を押してくれたのが伊藤さんでした。
「外国人への語り部となるガイドになってほしい」という伊藤さんのことばが、メアリーさんの心の支えになっています。
伊藤さんも敬けんなキリスト教徒で、メアリーさんが企画した「フランシスコナイト」に参加することを引き受けました。
「アメリカ人のメアリーが広島の人の心を、広島に訪ねてくれた外国人に対して代弁してくれるというのは、すごく意味合いが違って、すばらしいものがあります。被爆者はいずれいなくなる。そうなった時、被ばくの証言を語る次の世代は、日本人だけでなく、彼女のような外国人にも語り継いでほしいのです」(伊藤正雄さん)
「フランシスコナイト」で感じたことは
法王の広島訪問の意義を考えようと、広島市で行われた「フランシスコナイト」。
メアリーさんが招待した平和活動を行う地元のNPOのメンバーや、外国人などおよそ20人が参加しました。
法王の活動や考えが紹介されたほか、法王の母国アルゼンチンの料理を囲んでディスカッションが行われました。
そして、被爆者の伊藤さんがスピーチする順番が来ました。
伊藤さんは、原爆で兄や姉を亡くし、自分も病気に苦しんだ経験を語りました。
原爆を落としたアメリカという国を憎まないわけにはいかなかったといいます。
しかし、被爆者としてガイドを務めて、米軍基地のアメリカ軍の兵士を案内した際、彼らが流した涙に、伊藤さんは平和の原点を見たとして次のように語りました。
「アメリカ軍は憎かったけれど、活動を通じてお友達をたくさん作っていくうちに、これが平和の原点だと思ったんです。ゆるし合いの心がなければ平和は来ません」
スピーチを聞いたメアリーさんは、原爆の悲惨さを世界の人たちに広く訴える力があるのは、被爆者のことばなのだと、実感しました。
被爆者の声が、法王を通じて世界に届けられ、平和と向き合うきっかけになる。
メアリーさんは、法王が訪問する意義はそこにあると受け止めました。
「ローマ法王は、私にとって憧れの存在です。ほかの誰かのため、次の世代のために語り継ぐという生き方。私はそういう人間になりたいです。友達や家族にもその思いを伝えていきたいです」(メアリーさん)
法王による被爆地への訪問で、世界に届けられる被爆者の声。
その声を、さらに次の世代に伝える役割を担いたいと、メアリーさんは考えています。
法王が訪問し、発信するメッセージを待ち望んでいます。
- 広島放送局記者
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石田茂年
平成31年入局
広島局が初任地
事件・事故のほか、原爆問題などを取材