フランシスコ法王がまず取り組んだこと。
それはバチカンの改革です。
就任当時、バチカンでは機密文書の流出やいわゆる「バチカン銀行」による資金洗浄疑惑、聖職者による性的虐待など実にさまざまな課題に直面していました。
そこで、フランシスコ法王はバチカンの巨大な官僚組織であるローマ法王庁の改編を進めます。
放漫な財政をあらためるため、財政のチェックにあたる新たな部署を設立したほか外部からの人材登用も行ってきました。
中でも取り組んだのが、カトリック教会を大きく揺るがしてきた性的虐待の問題です。
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ことし2月、各国の司教を集めて対策を話し合う会議を初めて開きました。
被害者でつくる団体からは対応が不十分だと不満の声もあがりましたが、性的虐待の根絶に向けて全力をあげる姿勢を示し、虐待の事実を知った場合は司教に通報することを義務づけるなど新たな対策を導入しています。
こうした内部の改革を進める一方で、フランシスコ法王は貧困問題や紛争、テロ、地球温暖化対策など多くの地球規模の課題に積極的に発言する法王としても知られています。
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その姿勢を示すエピソードの一つがローマ法王として最初の訪問地にイタリア南部の島を選んだことです。
中東やアフリカからヨーロッパを目指して地中海を渡る人々の中に命を落としている人が大勢いることを知ると、難民や移民を乗せた船がたどりつくランペドゥーサ島に向かいました。
みずからが現場に赴くことで、この問題への社会の関心を高め、難民などの受け入れに消極的なヨーロッパ各国に人道的な対応を迫るためでした。
また、貧困問題では、現在の資本主義や市場経済が格差の拡大につながっているとして批判を展開。「共産主義的な発言だ」といった波紋も呼びましたが貧しい人たちに寄り添う姿勢を一貫して続けています。
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異なる宗教間の対話も進める姿勢を示し、ことし2月にはローマ法王として初めて、イスラム教発祥の地であるアラビア半島を訪れました。
これまでの方針にとらわれない大胆な決断も行っています。
それは、中国との関係です。中国ではこれまで政府が内政干渉にあたると言ってローマ法王によるカトリック教会の司教の任命を拒否してきました。
このため政府公認の教会とローマ法王に忠誠を誓ういわゆる地下教会が存在し双方が対立していたのです。
バチカンは司教の任命権を認めない中国と断交し外交関係を築いていません。
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ところが去年、フランシスコ法王は、司教の任命方法で中国と暫定合意し大きな驚きが広がりました。
司教の任命はローマ法王にとって最も重要な権力の一つなので、宗教への介入を強める中国政府に譲歩したのか、という批判の声もあがりました。
これに対し、フランシスコ法王は中国政府による弾圧の対象になっている信者を救うため、そして分裂し対立している教会を一つにするためだとして理解を求めています。
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もう一つの重要なテーマは核兵器の廃絶です。フランシスコ法王は、繰り返し、その脅威を訴え、国家としてのバチカンはおととしいち早く核兵器禁止条約を批准するなど積極的な取り組みをしてきました。
去年1月、ローマ・カトリック教会が定める「世界平和の日」にあわせ、フランシスコ法王は、原爆が投下された直後の長崎で死んだ弟を背負った少年の姿を写したとされる写真に「戦争がもたらすもの」というメッセージを添えたカードを配るよう指示しました。
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バチカンを長年取材してきたジャーナリストのルイス・バディジャ氏は「フランシスコ法王が原爆の写真を配ったのは表面的な行動ではない。今回は公の場だったが過去には個人的にも配っていた。日本の人々が原爆で受けた苦しみを常に真剣に考えてきた」と述べて、核兵器の廃絶を真摯(しんし)に訴えていると指摘します。
外交の舞台でも存在感を発揮しています。
とりわけ長年、対立を続けてきたアメリカとキューバの国交正常化では仲介をはたし、改めて、その影響力が注目を集めました。
発信力と影響力を兼ね備えたフランシスコ法王。日本ではどのようなメッセージを打ち出すのでしょうか。
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- ヨーロッパ総局 記者
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小島 晋
平成12年入局
和歌山局、国際部などをへて、現在ヨーロッパ総局。